第95話 安心して生活できる



「はい。私達姉妹はダークエルフでございます。そして今冒険者で日銭を稼ぎながら我らが姉妹の主となるお方を探す旅をしておりました」


 そして俺は片膝を突いて首を垂れる褐色の肌をした美少女に『ダークエルフ』であるかどうかを問いかけると、彼女は『ダークエルフである』と答えるではないか。


 しかも『冒険者をしながら主を探している』とかいう要らぬ情報まで話すのだが、こんな見ず知らずの俺にそんな事を話して何になると言うのか。俺には理解できない事であるし、関係ない事でもあるので『主を探している』という点においてはスルーする事にする。


「そうか、ダークエルフであったか。さぞ今までは苦労して来たことだろうな」


 そんな名前も知らない出会ったばかりのダークエルフの事など何を知っているんだという話であるのだが、俺はさぞ彼女の境遇を知っているかのような口調で話しかける。


 この国ではヒューマン以外の種族に対しては偏見や優位的思考からくる差別は良く聞く話であるので、多かれ少なかれ帝国で暮らしている以上それなりの苦労はして来ただろう事が容易に想像できるため、俺の言った事は大きく的を外れたトンチンカンな言葉であるという事もなかろう。


 所謂占いや血液型診断とかで使われる手法である。


「あ…あぁ……っ!!」


 そう思っていたのに、目の前のダークエルフは『ばっ』と勢いよく俺の方へと顔を上げて見つめ始め、何事かと思っていると急に泣き出すではないか。


 それもしくしくとかではなくぼろぼろと、今にも嗚咽まで聞こえてきそうな勢いで、だ。


「お、おいっ!? 急にどうしたんだっ!?」


 流石の俺様も女を泣かせたとなると、誰も見ていないとしてもバツが悪いので流石に声をかけてやる。


「この日を私達姉妹はどれほど待ち焦がれて来た事か……っ!!」

「いや……は? ……うん? まぁ、それは良かったな……?」

 

 何が起こっているのか分からないのだが、俺の本能が『ここは全力でスルーしろっ!!』と警告をけたたましく訴えてくるので、どうしてこのスタンピードという最悪に近い日を今まで待ち焦がれていたのか気にはなるものの本能の警告に従って深く追求することなく流す方向へ持って行く事にする。


 こういう時の直感は、俺が今まで経験して来た物事や学んだ知識から来る『言語化できない何か』であると思っているため、案外直感というのはバカにできないものであると俺は思っている。


「はいっ!! 我らが姉妹、主様を探して早数百年……っ!! これで我ら姉妹は安心して生活できるというものでございますっ!!」

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