第92話 特等席で見ていればいい



「フン、実につまらぬ……」


 そして俺は漆黒の炎で消し炭になっていく魔獣を眺めて一言つまらないと吐き捨てる。


「……やっと来たか」

「遅れて申し訳ございません」

「私たちに獲物を残してくれた事を感謝するぜっ!!」


 その間に同じく漆黒の衣装、軍服×ドレスで画像検索すると出て来そうな衣装(俺が渡した)に着替え、素顔がバレないように漆黒の仮面を付けたマリエルとサーシャが俺の両隣に現れ、膝をつく。


 うむ。


 マリエルとサーシャが卒業後俺の下を離れないのであれば、これはこれで利用して美女を両脇に侍る悪役ムーブを楽しめる事ができるので案外あり寄りのありなのではなかろうか? などと思ってしまう。


 失敗も次に生かせるのが俺様である。


「に…………逃げろっ。お前たちが誰かは知らないがガキがどうこうできるような魔獣ではない……っ!!」


 そんな俺達に向かって腕を切り落とされ、顔の片側を爪で切り裂かれ皮膚が半分剥がれて垂れ下がっている男性冒険者から『危ないから逃げろ』と声をかけられる。


「……誰に向かって逃げろなどと言っているのかしら?」

「こんな魔獣たちにすら勝てない自分が弱いだけだろう?」

「よせ……」

「……かしこまりました」

「フン、命拾いしたなっ」


 というか、何で俺達の心配をしてくれた冒険者相手に喧嘩腰なんだ? こいつらは。


 これでは悪役ムーブではなくてただのチンピラムーブではないか。


 流石に見ていられない為俺はマリエルとサーシャを止める。


「俺様の連れが失礼な態度を取って申し訳ない。そうだな……謝罪と言っては何だが貴様には俺様が持ってきたエリクサーを死にかけている冒険者たちにぶっかける仕事を与えようではないか。当然貴様にもエリクサーを使ってやろう」

「え? は? エ、エリクサー……ッ!?」

「どうした? 突っ立っているだけか? このエリクサーを使って助けたい者はいないのか? もし助けたい者がいるのであれば一刻を争う状況だと思うのだが?」


 俺がソイツにエリクサーを頭からぶっかけながらストレージに入れていたエリクサーをどんどん地面へ置いていく。


 その光景に戸惑っている冒険者に『助けたい者はいないのか?』と問うと、ハッとした表情をし、感謝の言葉を告げエリクサーを握りしめ近くに横たわっていた女性へエリクサーをかけだす。


 エリクサーをかけた女性が起き上がる姿を見た後、俺は今一度ここを安全な場所から見ているであろうとある人物に向かって視線を向ける。


「残念だったな。この俺様が来た以上、貴様らの作戦は失敗に終わったと思え。それと、貴様らが何十年とかけて練り上げてきた作戦がものの一日で破綻していく様を特等席で見ていればいい」



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