第82話 ただ、違和感があった





 違和感はあった。


 そもそも私と婚約をしたいという理由が分からなかったのだ。


 しかもそのために多額の金銭を支払ってまで私と婚約したいと思える様な人物がいるようには思えなかった。


 いるとすれば私の親との繋がりを目的とした下位の爵位を持つ貴族程度だろうか?


 それでも私の家は恐らく没落を辿るであろう事は誰が見ても明らかであり、そんな家と繋がりを持ったところで何のうま味も無い。


 あるとすればその空いた爵位に腰かける事がもしかしたらできるかもしれないという事くらいである。


 しかしそれも私の弟が生きている以上、かなり先の話になりそうだ。


 ようは爵位だけは高いが貧乏貴族として緩やかに没落していくのを待つだけの貴族。


 何の特産品も無ければお爺様の代で作った莫大な、国への借金によって首も回らない上にその借金を返す当てもない。


 お父様は『領民には苦しい思いはして欲しくない』と言ってはお爺様の時代の高い税率を少しずつ下げて行っているので、家に入って来る税金も年々減ってきているのに、お爺様の時代によって植え付けられた我が領地の悪い噂が消える訳でもなく、領民の数は横ばいであり出て行った者達が帰って来る事も無い。


 いずれ国から借金返済の為に爵位剥奪、様々な物を差し押さえられ領地から叩きだされ平民へと成り下がる事が約束された家。


 それが私たち家族の、周囲から見た評価であった。


 だから当初ロベルト様から婚約の話を聞いた時は物凄く嬉しかった。


 しかも家の借金を立て替えるという破格な好条件である。


 私には婚約者を選べるとも思っていないし恋愛結婚など出来るはずも無いと諦めていたのでその話に飛びついた。


 両親からは『貧乏でも幸せだからお金は要らない。オリヴィアが不幸せになる方がもっと嫌だ。だから本当に嫌であるのならばこの婚約は白紙にしても良い』というような事を言われたのだが、ここでこの婚約話を白紙にしたら私が私を許せそうにないので既に決意は固まっていた。


 そしてロベルト様と婚約をしてみると噂通り、そして学園で見た通りの人物であった。


 ただ、違和感があった。


 あんなに自己中心的な思考で私に対して怒鳴って来たり命令をしていう事を聞かせようとしたりというのはあるが、決して暴力を振るったり無理矢理犯そうとしたりという事を一切してこなかったのである。


 しかしながら、だからと言って言葉の暴力を受け続けて大丈夫な程私の精神は、私が思っている以上に丈夫では無かった。


 そんな時に出会ったのがプレヴォという友達である。

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