第81話 めっきり見なくなった素の表情



 ここまで来ればもう『婚約破棄をする事は決定事項』というのはお互いの認識であると思って良いのではなかろうか?


 これでオリヴィアからのヘイトを少しでも減らす事ができれば良いのだが……。


 しかしだからと言って『恨まないで欲しい』というのはダサいので口にはしないし、した所で女々しいだけである。

 

「では、他に話したい事はあるか?」

「えっと、その…………あの……っ」

「無いのであればこのまま止めていた昼飯を食べて教室に戻ろうと思うのだが……あぁ、別にオリヴィアが好きになった相手であれば婚約者は誰であろうと怒りはしないし、俺様に怒る権利など無いと思っているから安心しろ。それこそプレヴォと婚約をしようとも怒りはしない……。まぁ、相手が俺様に対して要らぬちょっかいをかけて来るのであれば話は別ではあるが、その場合はあくまでもプレヴォに対してでありオリヴィアに対しては何もしないと誓おう」


 後は『やっぱり婚約破棄をしたくない』という流れになる前に『お互いに婚約破棄の流れで認識している状態で話を切り上げるべきである』と判断した俺は、これで話を終わらせる流れに持って行く。


 しかしオリヴィアは未だ何かに悩んでいるようではないか。


 忌み嫌っている、それこそ殺してでも婚約破棄をしたいと思っている俺様とスムーズに婚約破棄ができるのだ。他に何を望むと言うのか?


 そう思いながら少しだけオリヴィアの立場になって考えてみると、その答えは至って単純であった。むしろその事に気付いて良かったとさえ思える。


 恐らくオリヴィアは、ゲームのシナリオ通りであればプレヴォと婚約をしたいが、俺様とプレヴォは犬猿の仲であり、もし俺様と婚約破棄をした後にプレヴォと婚約した場合、俺様が怒りに任せて暴れないか心配なのだろう。


 なるほど。そう考えればオリヴィアが不安に思うのも理解できるというもの。


 なので俺は『プレヴォと婚約しても何もしない』と告げる。


 これで最早完璧であろう。


「……分かりました。では婚約する相手は私が決めさせてもらいます……っ。それでは、ロベルト様の貴重なお時間を頂きありがとうございました。私はこれで退室いたします」

「あぁ、今まで迷惑をかけたな……」


 そして俺の予想は当たっていたのだろう。


 オリヴィアはこの教室に入って来たときと比べてかなり顔色が良くなっている事が見て分かるくらいには『抱えている目先の難題を解決できた』のであろう。


 俺様に恐れておどおどするような事も無く、ここ最近は俺様の前でめっきり見なくなった素の表情でオリヴィアは退室していくのであった。

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