第72話 決闘開始の合図



 すると周囲に野次馬としてついて来た親族が一人、また一人と噴き出すように笑い出すではないか。


 何故親族たちが『召喚魔術』という言葉を聞いて笑うのか、俺はその理由を知っている。


 この世界では基本的に召喚魔術は属性魔術の才能が無い者が最後に頼る底辺の魔術として知られているからである。


 なので親族たちは俺が『召喚魔術』という単語を口にした瞬間に『あれほどイキリ散らかした癖に、こいつは一般的な魔術を行使できないド底辺野郎』というレッテルを貼って笑い出したという訳である。


「笑わしてくれる。アントニーに対して暴力を振るったのもロベルト、お前ではなく連れてきた奴隷と側仕えである時点でお前自身はそこまで強くないという事が──」

「──御託は良いからさっさと答えろよ糞ジジイ。年老いて脳の処理速度が遅くなったんだろうが、『はい』か『いいえ』のどちらかを答えるだけで済む話をだらだらだらだらとくだらない話で長引かせてんじゃねぇよ」

「──…………よかろう。どの道お前が召喚魔術を行使しようがしまいが儂の勝利は変わらないからのう。むしろお前が一般的な魔術すら行使できないと知った時点で儂の勝ちは覆らないと確信できたわ」


 糞ジジイがそう挑発気味に俺が召喚魔術を行使しする事を許可すると、親族たちは腹を抱えて笑い出す。


 ただ、俺の両親と妹弟、そしてマリエルとサーシャは笑う事も心配そうな視線を向ける訳でもなく、俺が勝つと信じて疑わない視線を送ってくる。


「それでは両者、定位置へ…………始めっ!!」


 そんな中、糞ジジイのメイドが決闘用に引かれたライン、その両端にある定位置へ移動するように告げるので歩いてそこまで行くと、それを確認してから決闘開始の合図をする。


 因みに引かれているラインはフットサルのコートの形に酷似している。違うのはゴールポストが無いくらいだろうか? そのゴールポストがある部分に俺と糞ジジイが立っている状態である


 この形が魔術師同士の決闘で使われており、開始の合図が告げられるとコート内であれば自由に移動でき、どちらかが負けを認めるか気絶した側が負けというのが一般的なルールである。


 そして学園や公式の大会等では一回だけ死亡してしまうダメージを軽減するアイテムを装着して、それが破損したら負けという安全対策もされて行われるのだが、当然今回の決闘ではそのようなアイテムは使用されていない。


「ふん、バカはバカだからバカなのだろうが、まさかこの儂がお前を殺さないとでも本気で思っていたのだろ。じゃが、残念ながらお前はこの儂に対してあまりにも礼を欠いた態度を取り過ぎたと言えよう。死んで侘びよ」

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