第65話 命があるだけマシだと思いなさい



「き、貴様……こんな事をしてただで済むと思っているのかっ!!」

「あら、ただで済まない事をして腕を折られ、痛い目をみたのはあなたの方でしょう? 畜生でも痛い目をみたら学習するというのにそれすらできないあなたは畜生以下という事ね。ロベルト様の親族にこんな頭の弱い畜生以下の者がいるとは嘆かわしいですね……」


 アントニーは激痛により顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら尚も強気な発言をしてくるのだが、それをマリエルが見下した表情でキレ味抜群の言葉で言い返すではないか。


「お、お前らっ!! この俺様に──」

「黙りなさい」

「──ぃぐへぁっ!?」


 そこでよせばいいのにアントニーは折られた側の腕を庇いながらマリエルに向けて反論しようとするのだが、全てを言い終える前にマリエルが思いっきり振りかぶってビンタを一発打つ。


 その音たるや、まるでお相撲さんの突っ張りかと聞き間違う程であり、最早ビンタの音ではなく破裂音であった。


「あら、歯が何本か抜けて間抜けな顔になりましたね。これで自分は間抜けですって周囲にちゃんと知らせる手間が省けますね」

「ぐ……ぐぎ……っ」

「きゃぁぁああああっ!! 私の可愛いアントニーちゃんの腕がっ!? 一体どうしたのっ!? アントニーちゃんっ!!」

「ろ、ロベルトの糞野郎が連れてきた側仕えの女どもにやら──」

「何度同じことを言わせるのだ? 腕一本じゃロベルト様へ不敬極まりない言動を抑えられないというのであれば、今一度痛い目をみてもらうぞっ!」

「──ぎゃぁぁぁああああっ!?」


 流石にその破裂音を聞きつけて親族たちが集まって来るのだが、その中にアントニーの母親が居たようで、腕は折れ左頬がはれ上がった自分の息子の姿を見て発狂しながら誰にやられたのかと聞き出すと、バカなのか母親が来て気が大きくなったのかその両方か、アントニーはまたしても俺に対して糞野郎と表現するではないか。


 すると今度はサーシャが母親に抱きかかえられるようにして立ち上がろうとしているアントニーの足の膝に蹴りを入れる。


 恐らくあの打撃音的にも立ち上がれなくなっている姿を見るにアントニーの膝蓋骨が割れている可能性は高いだろう……。


「いきぃいやぁぁぁああああああっ!!?? アントニーちゃぁぁぁああああんっ!? 貴女、私のアントニーちゃんにこんな事でただで済むと思っているのかしらっ!?」

「……そこのバカがただで済まない言動をした結果なのでは? 親族と言えどもロベルト様はクヴィスト家本家嫡男であり次期当主。そのロベルト様に不敬極まりない言動を取って命があるだけマシだと思いなさい」

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