第60話 誰が見て我が息子は『バカ息子』



◆父親side



 正直な話しをすると、息子に関しては既に諦めていた。


 誰が見て我が息子は『バカ息子』だと言うだろう。


 なんせ実の親である私がそう思うのだから、他人からもそう見えて当たり前だろう。


 しかしながらどんな息子であろうとも、息子にだけは幸せに暮らして欲しいと思うのはどの親でもそうであるように私も息子には幸せになって欲しいと思っていた。


 最悪次期当主の座を弟に譲ったとしても、何不自由なく暮らして行けるだけの資金力は幸い私にはある。


 私がこの家を継いで当主になった時、お父様が何故弟や妹達に資産を分配しようとしたのか、当時は分からなかったのだが、子を持ちその成長を見ていく事で、今になってようやっとその理由を理解することができた。


 私が子供たちの事が平等に愛しているように、私の父親もまた自分の子供達を平等に愛していたのだと。


 それが分かるようになったという事は、私も歳を取ったものだとしみじみ思う。


 そんな事を想いながら長男であるロベルトの将来を心配する日々を過ごしていたのだが、ある日突然ロベルトが覚醒した。


 いや、今までその片鱗を隠して来たのだろう。


 隠さなければならない理由も、もう隠す必要が無くなった理由も理解できる。


 それは帝国四大公爵の嫡男であり、次期当主という立場である以上、子供の頃に有能さを発揮するよりも無能であるのを演じて周囲から見下された方が圧倒的に暗殺をされる確率が減るのである。


 勿論それだけではなく、ロベルトが冒険者ギルドに舐められたお陰で今回あの目の上のたん瘤であるシャンドス公爵家を崖の端まで追いやり没落するしかない状況まで追い込めることができたという点でも、才能気付かずに舐めて来る相手ほど扱いやすい者はいないという理由もあったのであろう。


 流石としか言いようがないだが、それと同時に『暗殺をされるかもしれない』という不安を抱えながら今まで生きて来たという事に私は親として心締め付けられそうになる。


 恐らくロベルトは幼少期にそのような経験をしたのだろう。


 何故その時に気付けなかったのか、後悔してもしきれない。


 だからこそ私は、その贖罪をしていくという意味も込めてこれからロベルトのサポートを全力でしていくつもりである。


 それが間違った道であったとしても……という覚悟はあるのだが、ロベルトの事である。間違いなくクヴィスト家は帝国四大公爵から帝国一の公爵へと上り詰めるだろうし、権力が集中するのを恐れた帝国が我がクヴィスト家の躍進を邪魔して来るのであれば皇帝の座すら乗っ取ってしまうのではないか? と思えてしまうのは親馬鹿だからなのだろうか?

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