第56話 別問題



「ロベルト君……君は少しばかり静かにすることはできないのかね?」

「それを俺に言われても困るな。注意するなら俺ではなくてサーシャに言えば良いだろう? 実際にうるさいのは俺ではなくサーシャなのだから」


 そして何故か俺は授業を受け持つ講師から注意されてしまうではないか。


 確かにこの講師は元から俺の事を嫌っている(というより俺の事を嫌っていない講師はいないだろうが、この講師に関しては如実に表情や態度でもそれを隠そうともしない)ので、サーシャではなく俺へ注意するのは理解できるのだが、だからと言ってやっていない事に関してまるで『連帯責任だ』と言わんばかりに俺が代表して怒られてしまうのを受け入れられるかどうかはまた別問題である。


「…………」

「何か文句あるのか? 俺は至極真っ当な事を言ったと思うんだが? それとも俺から今回の件をお父様に直接伝えてやろうか? そうなると我が家から毎月出している多額の寄付金は無くなるかも知れないがなっ」

「……サーシャさん、静かにするように」


 何故か反抗的な視線を講師が向けてくるので、こちらとしてはお父様に直接今回の件を伝えようかと言うと、苦虫を噛み潰したかのような表情をした後にサーシャを注意する。


 初めからそうしていれば良かったものを、変なプライドが『生意気なロベルトに嫌がらせをしたい』という欲求に抗えなかったのだろう。


 少し前までの俺であればそのまま言い返す事も謝罪することもなく、悪態をつきながら教室から出て行ったのだろうが、今回は俺が珍しく噛みついて来たので、その事もこの講師は気に入らないのだろう。


 そう思っているだろう事が、手に取るように分かるくらいにはこの講師は自らの感情を隠そうともしていない。


 ようは、俺の事を舐め腐っているのだろう。


「そうじゃないだろう? 間違っていると判断したのであればまず俺に謝罪をしろや。話はそれからだろう? 何故俺に罪を被せた事を無かったかのようにサーシャへ注意をし始めたんだ? そもそも俺は言ったよな? 今回の件を直接お父様に言ってやろうかって。にもかかわらず、本来であれば何も言わずそのままお父様に伝えても良かったところを、一度チャンスを上げたにもかかわらずそのふざけた態度。お前俺の事馬鹿にしているのか?」

「ぐ……も、申し訳ご──」

「今更謝罪しても遅いんだよ。とりあえずお前は学園から去る準備をしておけ」

「おい、流石にやり過ぎではないのかっ!? 先生もこうして反省しているじゃないかっ!!」

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