第55話 脳みそが筋肉でできている
その事はガーランドも感じ取っているのか、笑顔なのに窮地に立たされているような、器用な表情をしながら脂汗をかいているのが見える。
なにが怖いのかというと『感謝する』と言いながらギルド側の不祥事については一度も『今回の功績によって前回の不祥事は無かった事にする』などという言葉をお父様は使っていないという事である。
それを理解できているからこそガーランドの器用な表情なのだろう。
もしその事に気付けていなければ今ごろ『無かった事』にしてもらったとはしゃいでいる事だろう。
ある意味これは、お父様は『このギルドマスターはどれ程の知能があるのか』と、ガーランドがバカなのか見抜くだけの知能があるのか見極めているのだろう。
これが貴族の駆け引きなのか。
恐らくこれはまだまだ序の口だとは思うのだが、この一連の流れだけで俺がお父様の後を継いで生きて行かなければならない世界がどのような世界であるのか窺える事ができる。
それは間違いなく俺に対しても『この光景を見て何かを感じ取れるだけの者かどうか』というのも見抜こうとしているのだろう。
さすが、長年貴族社会で生き残ってきただけの事はある。
これからは今まで適当に生きて来たツケを、お父様の一挙手一投足を見てから内容にしっかりと目に焼き付け、この世界で生きて行く技術を盗んでいかなければならないと、強く思うのであった。
◆
「まったく、どうしてこうも学園の授業はつまらないのだっ!! こんな涼しい部屋の中で講義を聞くよりも私とこれから模擬戦をしに行こうぜっ!! こんな授業なんかよりも実際に身体を動かして身体で体験した方が理解もしやすいだろうっ!!」
「黙りなさい。貴女は単純に頭で考える事が苦手なだけでしょう。それにロベルト様はお忙しいのです。それこそこの後は私とのお昼休憩がありますから、そんな脳筋の提案に付き合う余裕はありません」
そして翌日。
俺は学園へと通うのだが、何故かサーシャが俺の横へ座りウザがらみしてくるではないか。
昨日まではそんな素振り一切なかった、それどころか親の仇とばかりに睨まれていたにも関わらずこの変わりようは何だ?
何か企んでいるのではなかろうか? それこ父親であるガーランドから『ロベルトを身体で堕として冒険者ギルドの不祥事を揉み消すように、ロベルトから父親であるダグラスへ進言するように仕向けて欲しい』という狙いがあるのかと疑ったが、そもそもそういうことができる程サーシャは器用ではないと思ってしまうくらいには脳みそが筋肉でできている。
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