第53話 二度目の借り





 まさかあの場所にギルドマスターの娘であるサーシャがいるかとは思わなかったのだが、兎に角犯される前で良かった。


 どうやらあのクズは気配を消す魔術を行使したあと、背後まで近づき奇襲、そしてサーシャの能力を低下させるスキルを行使して抵抗し辛くしてから犯そうとしていたのだと、あの後助けたサーシャから教えて貰った。


 その時のサーシャは涙を流しながら俺に感謝の言葉を、翌日帝都に行く馬車の中で疲れて眠るまで永延と繰り返すくらいには怖かったのだろう。


 あのクズは【スタン】などで無力化させれば良いものを敢えて抵抗できる程度に弱体化させる当たり、より強い恐怖をと『抵抗できる』という希望を与え、それが無駄な行為だと知った時により強い絶望を与え、それを楽しむ嗜好に関してはまさに悪役の手本と呼べるムーブであると言えよう。


 なので俺はその感謝も込めてあのクズ自身に『逃げられるかもしれない』という希望を与えた上で遊んであげたのである。


 結果その効果は絶大であったようで、縄で縛って動けなくしているとはいえ『助けろ』と暴れたり叫んだりする事もなく大人しく過ごしており、帝都に着いてからも素直に帝国側にそのまま引き取られ、そのまあ翌日には処刑をされていた。


「流石我が息子だなっ!!」

「いえ、俺が渡した書類でお父様があの家を潰しにかかったので、あのクズの事、絶対に雲隠れをするだろうという読みがたまたま当たっただけです」

「謙遜は良い。それに、お前があいつを捕まえてくれたお陰で他国に逃げられるという最悪の結末は避けられたわけだしな。それにその副産物としてギルドマスターの娘を助ける事も出来たんだ。どこまでがお前の思い描いた展開かは分からないのだが、冒険者ギルドへ向かっていた時には既にあのクズを始末する未来は描いていたのであろう? でなければここまでスムーズに事を運ぶことはなかろうっ!!」


 そしてクズの処刑を見終わってから実家に帰ると、お父様が上機嫌で俺を出迎えてくれるのだが、その横にはギルドマスターのゴリラとその娘が立っているではないか。


「しかし、ガーランド・オーガスよ。お主は我が家に一度ならず二度目の借りを作ってしまった訳だ。それは同時に貴様の娘が二度にわたり我が息子に迷惑をかけたという事にもなるのだが、娘の育て方を間違ったのではないかね?」

「……返す言葉もございません。それと、私の娘を助けて下さりありがとうございました」

「それは我ではなく、我が息子に言うべき言葉だとは思うのだがね? まぁいい。今日ガーランドを呼んだ理由は話したいことがあってのことだ。そうかしこまらずに話そうではないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る