第32話 スマート感が出てカッコイイ



 部屋の中にあるソファーに俺達を座らした後にゴリラも座ると自己紹介を始める騎士爵のゴリラ。


その表情はかなり険しく、これから話す内容は良い事ではなさそうだなという事が窺えてくる。


「君たちの事に関しては冒険者登録している内容で大体把握しているので自己紹介をする必要は無い。時間も勿体ないのでそのまま本題へと進もう」


 一応自己紹介をされたからにはこちらも自己紹介をするべきかと少しだけ悩んでいると、ゴリラの方から俺達の事は冒険者登録内容を確認したから必要ないとの事である。


 冒険者登録している内容は、受付時点で公爵家とバレるのを避けたかったため苗字を外した名前、ただのロベルトとマリエル、扱う役職も剣士と魔術師と適当にそれっぽい事を記載している。


 記載したのはこれと、登録時に次回からの本人確認の為指に針を刺し血液を登録書に付け、その血液に含まれている魔力を登録しているくらいだろう。


 これによって身分証としてそこそこの信憑性が生まれ、成りすまそうとしても登録している魔力が合致しなければならないので冒険者ギルドに登録した時に貰えるギルドカード等を悪用はほぼ不可能である。


 勿論、高い知識や技術を持った者の中にはその限りではないのだが、それほどの知識や技術を持っていればそもそも他人に成りすましたり悪用したりしなくても良い生活ができるだろうし、万が一バレた時のデメリットを考えるとわざわざそんな事の為に悪用する必要は無いだろう。


 今回はそれにゴリラが甘えたという事なのだろう。


 これでギルドマスターというのだから、このギルドの程度も知れるという事であり、だからこそのあの一件と思えば納得である。


そんなギルドマスターを前にしている俺は、ソファーの背もたれに体重をかけ、足を組み、両腕は背もたれの端にかけるような形で相対する。


「フン、この俺様の時間を消費しているのだから当然それ相応の要求はさせてもらうと先に言っておこう。それが嫌というのであれば今すぐにでも俺様を解放しろ」


 そして俺はというと、こんなシチュエーションなどそうそう無いとばかりに悪役ムーブをかます。


 いいねぇ。ギルドマスター相手に偉そうに噛みつくなど、まさに王道な悪役といった感じではないだろうか?


 まぁ、少しばかり小物感も出てしまっているかもしれないのだが、有無を言わさず暴力で解決するよりも、自分の能力や公爵家という身分を隠し、こうして対等な立ち位置で対話をさせてあげる辺りが、スマート感が出てカッコイイと俺は思う。

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