第9話 ロベルト様は知らないだろう

 そんな両親に対して私は何も言い返す事も出来ずにただ俯く事しか出来なかったし、そんな私自身が本当に嫌いだった。


 学園では私の事を好きだのなんだのと婚約を申し出て来る者達が絶えなかったのだが、こんな私のどこが良いのか自分自身では理解できず、そんな彼らの言葉は私には全く響かなかった。


 因みに両親は『公爵家以外とは娘の婚約を認めないっ!!』と、婚約の話を断っていたのだが、いったい借金まみれで裏からは馬鹿にされ見下されているような家の娘をどうして公爵家が嫁に欲しいと思えるのか。


 デメリットしかない家と関係を持とうとするのは金持ちの平民か爵位の低い貴族、そして女に目が無いバカか真実の愛がどうのと宣うバカ、そして爵位を継がない次男や三男といった者達くらいだろうし、私自身もその位が自分の家には合っているとも思っていたが、両親は自分達の家は公爵家と同等かそれ以上だと最後まで信じて疑わなかったようだ。


 本当にバカな両親である。


 ここまで育ててくれた恩はあれど、それくらいだ。


 そして、ロベルト様はそんな俯いている私の手を取り引き寄せると『は? お前たちが無能だから没落したのに何訳の分からない事を言っている。どうせ俺の家の金が欲しいだけだろうが。透けて見えてんだよ、お前たちのゴミのような思考が。それに引き換え今娘には若さと美貌がある。何もないどころか借金という負の財産があるお前達とは違ってな。そして俺はこの娘には、お前たちが作った借金返済の足しにする為に売られて値がつけられた金額以上の価値があると踏んでいるからこうして奴隷にされる前に購入するが、お前達には俺の目線では一銭の価値も無いようにしか見えないんだよ』と、私の目の前で両親に向かって言ってくれた。


 その言葉にどれだけあの時私の心が救われたのか恐らくロベルト様は知らないだろう。


 私が今まで言いたかった、でも言えなかった言葉を言ってくれた。他人からすればたかがそれくらいかと思う人もいるだろうが、私にとっては今まで苦しめられてきた苦しみの鎖を断ち切ってくれたように思えるくらいには大きな事であった。


 学生時代はロベルト様の印象は『最低で低俗でバカな男』という印象であり周囲の人間もあまり変わらなかった。


 そして今私だけがロベルト様の素晴らしさを知っていると思うと、それはそれで悪くないと思ってしまう。


 そんなロベルト様が私の事を奴隷にすると言って来るではないか。


 表情からみて恐らく冗談である可能性が高い事が窺える事ができるのだが、このチャンスを私は逃す程バカではない。

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