第7話 撤回しないですよね?

「はい、そのようにさせていただきます」

「まったく、俺みたいな奴に何でこんなに忠誠を誓っているのか未だに分からんな」


 俺みたいな屑にここまで忠義を尽くそうとする意味が分からず、その事を思わず口に出してしまったのだが、今更だろう。


 そんな些末な事よりもこのままではマリエルは毎回門の前で俺が帰って来るまで突っ立っているという事になるのだ。


 流石に俺はそんな事をさせたくはないのでどうすれば良いのかと頭を悩ませる。


「なぁ、マリエル。お前俺の奴隷になれと言ったら成るか?」

「それがロベルト様のお望みであれば」


 そして少しばかり考えた後に俺はマリエルを奴隷にすれば全てが解決するのではないか? と思いつくも流石にそんな事をマリエルが了承するはずが無いと思いながらダメもとで確認してみる。


 するとマリエルは俺の予想に反して『それを望むのならば奴隷になる』と返事を返してくるではないか。


「……どうしました?」

「いや、まさか了承してくれるとは思わなかったからな」

「そうですね、先程の『なぜ忠義を尽くすのか』についての返答にもなるのですが、私の全てはあの時よりロベルト様に捧げる覚悟をいたしました。例え世界の全てがロベルト様を嫌おうとも、そしてロベルト様がどんなに最低な人間に堕ちてしまおうとも、私はロベルト様の味方で居続けましょう。ですので奴隷になるなど私にとってはどうでも良い事でございます」


 そう言いながら見つめて来るマリエルの目には固い決意が籠っているのが見て分かる。


 おそらくいくら言ってもその考えは変わらないだろう。


「はははははははははっ!! 良いっ!! 実に良い答えではないかマリエルっ!! では奴隷にするのは保留にして──」

「え? 流石に一度言った言葉は撤回しないですよね? ロベルト様は公爵家嫡男なんですもの。もし奴隷にしないと仰るのでしたら『ロベルト様が一度口にした事を無かった事にされました』とロベルト様のご両親にうっかり口が滑ってしまうかもしれません」

「──やろうかとも思ったが、その心意気に免じて俺の奴隷にしてやろうではないかっ!!」


 とりあえず、なんか本能がマリエルを奴隷にするのは一旦保留にした方が良いと告げてきたので、そのようにしようとするのだが、保留にされる事を察したマリエルが、俺が言い切る前に『公爵家の嫡男である者が口約束と言えども反故にはしないですよね?』と返されてしまうではないか。


 それだけではなく『もし奴隷にしなければご両親に言いつける』とまで言われてしまってはもう答えは一つしか残されていなかった。

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