第4話 悪も多様性の時代

「ほう……そこまで言うのならば、他に何かいい方法があるのだろうな?」

「はい、勿論でございます。こちらから難癖をつけて婚約破棄をするのは簡単ですが、そうではなくて相手から婚約破棄をさせた上で、その後に惚れさせてやれば良いのです。そうすれば相手は一生婚約破棄を選択した事を後悔して生き続ける羽目になるでしょう」

「……そう言うだけは簡単だが、それを実行する為の何か策はあるのだろうな?」

「勿論でございます」


 お父様は俺の話を聞いて、面白そうに『いい方法はあるのか?』と問いかけて来たので、俺が考えている作戦である『逃がした魚を大きかった作戦』を伝える。


 しかし、この方法を聞いたお父様は俺の目を見て『策はあるのか』と聞いている。


 婚約破棄をするくらい嫌われている相手と関係をゼロに戻すのではなく、婚約破棄をしなければ良かったと思える程にプラスへ持って行く事は想像以上に困難であることくらい少し考えれば分かる事なので、お父様が信用しきれないのは仕方のない事だろう。


 しかしながら俺には前世の知識があるのだ。


 そして、当然オリヴィアが主人公の事を気になり始めるきっかけとなった出来事も知っており、これを使わない手はないだろう。


 本来であれば主人公がオリヴィアの問題を解決して、恋が芽生えるというのを、俺が横から奪ってやろう。


 俺は今までのように、ただ好きなように、まるで本能のまま生きる野生動物のような生き方ではなく『カッコいいと俺自身が思える悪役』の生き方をしたいのである。


 そして、その決意と覚悟はロベルトに転生したと分かったその時に、とうにできている。


 その為ならば他人からどう思われても良い。嫌われる事など厭わない。そもそも他人に好かれるように生きて来たところで前世では碌な人生を歩めなかったのだ。


 だったらとことん嫌われながら、それでいてカッコよく、スマートでかつ魅力的な悪役として生きていく方がよっぽど良いし、もう他人の顔色や他人からの評価を気にする必要が無いと言うだけでも俺からすればかなり生きやすいと思えてしまう。


 それに、悪役と言ってはいるが全ての悪役が本当に悪い人間ではないのだ。


 主人公と価値観が真逆なだけであり、平和が目標であっても手段が異なってしまった結果、その物語では悪役とされる事など良くある話である。


 純粋な悪というのもカッコいいのだが、その生き方は恐らく普通の思考回路しか持っていない俺は間違いなく自分のしでかした事の大きさに潰れてしまうのは目に見えている為諦めるしかないのは残念ではあるのだが、だからといって悪役になれないという訳ではないという事でもある。


 悪も多様性の時代という訳だ。

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