第3話 勘違いしていた

「ほう、それは公爵という爵位を持つ我がクヴィスト家の力を使って復讐し、相手の家を没落させるというのか? 我もあの家には少々鬱陶しいと思っていた所だしな」


 お父様はそう嬉しそうに話すのだが、俺はその話のどこがおもしろいのか全く理解できない。


 いや、悪役という視点で言うと弱者を力でいたぶるというのは、それはそれで正しいのかもしれない。


 しかしながら、今までの俺はここを勘違いしていたのだ。


 前世の記憶が正しければ、このままいつも通りお父様に話を合わせて、オリヴィアに一番ダメージを与えられる方法で婚約破棄をした事がトリガーとなって俺は近い将来主人公に殺される羽目になるのだ。


 それに関しては前世の知識で圧倒的な力をつけてねじ伏せれば良い。


 では何を俺は勘違いしていたのか。


 それは、ここで権力を使ってオリヴィアへ仕返しをするように婚約破棄をするという事は、それは即ち『俺に魅力が無い』と肯定しているようなものではないか。


 そもそも初めから嫌われている事は知っていたうえで強引に婚約を迫り、その結果相手が耐えきれなくなっている事に気付いて勝手に心が傷ついただけにも関わらず、その心の傷を怒りの感情に変えて全てはオリヴィアのせいにして復讐をする。


 はっきり言ってダサすぎる。


 こんな事はやられ役の三下のする事であり、スマートではない。


 だからこそ小説の中の俺はやられ役にされたのだ。


 それでも物語の最後に殺されるのならばまだ良い。


 しかし実際はウェブ小説で良くある、読者をひきつける為に最初のフックとしてザマー要員で使われる、いわば冒頭使い捨てされるキャラクターであった。


 当たり前だ。


 今までの俺はただ注意されたり否定されると癇癪を起こして暴れ回るクソガキのような存在であり、こんなものは悪役でも何でもない、ただの我儘なガキでしかないのだからキャラクターとしての魅力も何も無いだろう。


 俺が目指す悪役はそんな、冒頭でサクッと殺されて物語からフェードアウトするような悪役ではなく、最後の最後まで物語に大きな存在として描かれるような、そんな悪役なのである。


 ではこの二つの悪役は何が違うのか?


 それは自の生き方に決意と覚悟があるかどうかであると俺は思っている。


「お父様、そうではありません。そんな復讐は、逆に我々クヴィスト家の評判を下げる事しかしないでしょう。確かに復讐したその一時は快感を得られるのでしょうが、それだけです。長期的に見ればデメリットの方が大きすぎると思われます」

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