第6話

Bruise Claw<ブルーズクロー>第6話


チュンチュン・・・

小鳥がさえずり、朝を告げる。


「・・・がふっ!!?やば!!いつの間にか寝ちゃってた!!

 また置いてかれた!?」


豪快に目覚めたミリシア。

寝ぼけ眼で左右を見回している。


「ようやく起きたか、寝坊助さんが」

「って・・・ラ、ラララキット・・・!!?」


「あん?何でそんなパニクってんの?」


「出てけぇええええええ!!」


「!!!!?????」


近場にあった枕やら荷物を投げつけられ部屋を追い出されたラキット。

流石に寝起きのぼさぼさ頭や、よだれ痕を好きな人には見せられないのが乙女心である。


「なんだってんだよ・・・朝から機嫌わりーな・・・」

「そりゃお前が悪いな。だから、もうひと部屋とるべきだと言ったんだ。

 年頃の娘の気持ちを少しは考えてやれ(まして、好きな奴といきなり同部屋て)」


「なに急にお父さん目線で語ってんだよ。たかが一晩明かすだけで二部屋も

 取る必要ないだろ!もったいない!」

「やれやれ・・・これだからケチは嫌だね」


ガチャ・・・


「ご、ゴメン・・・いきなりだったからパニクっちゃって・・・」


しっかり身なりを整え、照れ臭そうに謝るミリシア。


「お、おう・・・」

「とりあえず飯にしよーぜ」


三人は宿屋の店主おススメの街で有名な食事処に向かった。


「ここか。飯屋っていうか・・・見てくれはまるっきり酒場じゃねぇか」

「なんでもいいさ。腹減った」

「わたしも~・・・腹ペコ」


レトロな木造づくりの外観・・・

酒場感漂う飯処・・・美味そうな匂いが鼻を刺激してくる。

三人は、その匂いに誘われるまま店内に吸い込まれていった。


「いらっしゃい。空いてる席にどーぞ」


入ってそばのカウンターの店主に促されるまま、奥のテーブル席についた3人。

すぐに可愛いウェイトレスが注文を取りに来た。


「いらっしゃいませ!何にしましょうか?」


メニューを仲良く覗き込む三人。


「そうだな・・・エッグサンドセットとコーヒーで」

「私はこの特性バーガーセットで!」

「んじゃ俺はトラ豚ガッツリステーキで」


「かしこまりました!こちらお水ね。

 それにしても、お客さんたち、見ない顔だけど、

 観光・・・って感じじゃないですね。冒険者さんです?」


「まぁ、そんな所かな。見た所・・・同業者みたいな客が多いみたいだけど、

 ここら辺って、なんか”美味しい話”とかあったりすんの?」


美味しい話・・・つまるところ儲け話的なアレである。


「美味しい話かどうかは分からないですが、この辺りダンジョンが多いんですよねー。

 しかも最近、なんか新しいダンジョンも見つかったとかで。

 

 それで結構冒険者の出入りが激しいんですよー。

 お店としてはお客がたくさん来てくれてありがたい限りなんですけどね」


「新しいダンジョン・・・ね」

「やっぱり”魔界”の活発化って話、ガチっぽいなぁ」


地上の人間界、地下の魔界、そして空の上・・・天上に存在する天界。

この世界は大きく3つの世界が存在する。


もっとも魔界の派生・・・

地獄界や冥界、天界の派生の霊界などが存在しているようだが

人間界に暮らしてる人々のほとんどが外界に立ち入ることなく一生を終える。


互いの世界に干渉しない・・・というのが基本のようだが、

魔界の連中は人間界進出をもくろんでいるのか、

長い歴史を見ても幾度となく人間界へ侵攻している。


そんな魔界に新たな魔王が誕生したと巷では噂になっている。

その根拠がダンジョンの活性化である。


あくまでも都市伝説的な眉唾物な話ではあるが、

魔界の活発化により、ダンジョンが新たに生まれているといわれているのだ。

だが、研究者の間でもそれは事実認定されておらず真相は定かではない。


魔界の活性化=魔王の誕生というのも、結局なんの根拠もない話である。


「物騒ですよねー。じゃ、お料理出来るまで、しばらくお待ちくださいね!」

「店員さんこっちいいかなー?」


「はーい!今伺いまーす!」


そう言ってウェイトレスは別のテーブルに小走りで向かった。


「ねぇねぇ・・・食事のあとはどうするの?」

「食料の調達をして、その足で出発するかな。

 『ウーラネウスの地下迷宮』は、近くにある神殿から入るみたいだ」

「神殿の地下にダンジョンねぇ・・・一体どういう経緯で出来たんだ?」


「真実かどうかは知らんが、天使ウーラネウスが天界を追放されて

 何もかも嫌になって作ったとかなんとか・・・」


「ふーん・・・じゃあ『虹色の宝玉』の一つ・・・エンドレスブルーも

 その天使ウーラネウスが持ち込んだモノなのか?」

「さぁ・・・そこまではわからないな」

「てかさ、じゃあその天使さんが今も地下に引きこもってたりするのかな?」


天使の寿命は人間やエルフなどとは比較にならないほど長い。

ウーラネウスの地下迷宮ができてどれほどなのか定かではないが、

噂の真偽はともかく、寿命で亡くなってるという確率は低いだろう。


「・・・まぁこの引きこもり伝説が本当なら・・・

 もしかしたらその可能性もなくはないかもだが・・・」


「冒険王トマスがエンドレスブルーを発見したけど、諦めた理由ってのが、

 天使ウーラネウスが宝玉を守ってたりしたから・・・とかだったりしてな。

 流石の冒険王も天使に喧嘩売ってまで手に入れようとはしないだろうし」


「・・・その可能性もなくはないかもしれないな・・・。

 つーか、そう考えると辻褄は合うじゃないか・・・」


「おいおい・・・自分で言っといてあれだが、考えすぎだろ?

 そもそも引きこもり伝説も本当かわからないし、

 いるって決まったわけじゃないだろ」


「まぁ、あくまで可能性としてアリってだけだけどさ、

 それはそれとして、最下層・・・宝を守護するボスがいても全然不思議じゃない。

 冒険王トマスは、そいつに勝てなかったから諦めたんじゃないか?」


「あー・・・確かにその可能性はありそうだな・・・」


「ま、天使だろうが魔物だろうが、何かしらボスがいるってことは

 頭に置いとくべきだろうな。とにかく、楽な道のりじゃなさそうだなぁ・・・」

「いいじゃない!困難こそ冒険者魂をくすぐるってもんよ!」


怖いもの知らずのミリシア。

恐怖心よりも好奇心が勝る・・・そんな駆け出し時代を思い出すラキット。


「おまちどお様!エッグサンドセットとコーヒー、

 こちらが特製バーガーセットになります!

 トラ豚ガッツリステーキはもう少しお待ちくださいね!」


いい匂いを漂わせながらウェイトレスさんが料理を運んできた。

そう言うとウェイトレスは去っていった。


「んじゃ、お先に失礼。悪いなアーマス」

「おっさきー!わーおっきい!!」

「へいへいお先にどーぞ・・・って・・・あ・・・あ・・・!!」


アーマスが何気なく視線を周りに移すと、何かを発見したのか

口を開けたまま目が点になって固まっている。


「?・・・どうした?」

「じぇ・・・じぇ・・・」

「じぇじぇ?」


「ジェーケーがおる・・・!!」

「ジェーケー?なんだよそれ?」

「ん?・・・あの女の子?なになに?アーマスのタイプの子!?」


アーマスの視線の先を追うと、そこには一人の少女がいた。


「東の国・・・ニホンの女子高生だよ!うおおおおおお!!」

「なんでこんなところにニホンの学生がいるんだよ・・・」


「だって、おま!ありゃアニメとかで見る女子高生の制服じゃないか!」

「じゃないかって・・・知らんし・・・コスプレか何かじゃないのか?」

「てか、アーマス・・・ちょっとキモいんですけど・・・」


異様なまでのハイテンションについていけない二人。


「こいつニホンが大好きってのは聞いてたが、アニメや漫画だけじゃないのか・・・

 俺もちょっと引くな・・・」


「うるさい!!可愛いは正義だろうが!!」


大声を張り上げるアーマス。

客の冷たい視線が三人の方に向けられる。


「落ち着けよ・・・周りに変に思われるだろ・・・」

「アーマス恥ずかしいからやめてよね!」

「あ、こっちに気づいたぞ!HEYプリティーガール!」


冷たい視線など全く気にしないこの男は、恥ずかし気もなく手を振り始めた。


「やめろバカ!手を振るな!恥ずかしい!」

「もうやだ・・・恥ずかしくて死にそう・・・」


頭を抱えるミリシア。


するとアーマスの奇行に気付いたのか女子高生はこちらにやってきた。


「OH!!カワイイ!!」


流石に我慢ならなかったのか、ラキットとミリシアから頭を叩かれるアーマス。


「き、気を悪くしたよな・・・こいつ病気なんだ・・・

 って、言葉通じてる・・・?」


「あ、はい。大丈夫です。私アンドロイドなので、言語に問題はないです」


「き、君がアンドロイド・・・!?

 どう見ても人間にしか見えないが・・・

 ニホンの科学分野の進歩は凄まじいと聞いていたが・・・

 時代はここまできてるのか・・・」


アーマスはもちろんの事だが、ラキットもミリシアも驚きを隠せない。

ミリシアに至っては、物凄く近くに寄ってまじまじと見ている。


「すっご・・・ぜんぜん人間だよ。肌の質感とか」

「・・・まぁ・・・そういうものですから」


これだけジロジロ見られても表情一つ変えない。

流石アンドロイドといったところか・・・


「そのアンドロイドの君が、何でこんな所に・・・?

 ミリシアさん、おさわりは禁止で!!」


触感を確かめようとしていたミリシアをギリギリのところで止めたラキット。

アーマスに睨まれていたのは言うまでもない。


「ちょっと人探しをしてまして。

 こちらの女性を見かけませんでしたか?」


そう言うと、彼女は1枚の写真をテーブルに置いた。


「わー!綺麗な女の人・・・!」


淡い水色の長い髪の少女が映っていた。

だが、当然三人に心当たりはなく・・・


「・・・悪いな、俺たち、昨晩到着したばかりで、

 全然見た事ないや」


「そうですか。お手数をおかけしました。

 それでは失礼します」


写真を手に取り、踵を返す女子高生アンドロイド。


「あ!!アンドロイドのお嬢さん!」

「何か?」


「お、おいアーマス!」


ナンパを始めようとしているアーマスをすかさず止めるラキット。


「いや、もしその彼女?見かけたらさ、君が探していたこと伝えたいし・・・

 よかったら連絡先を交換しないかい?」


さわやかな顔が腹だしさを加速させる。


「・・・なんか真っ当な事を言い訳に、すごい下心が見えて嫌だ・・・」


ゴミを見るような目で呟いたミリシア。

事実アーマスには下心があるはずだ・・・間違いない。


「アーマス・・・お前、相手がアンドロイドだからって流石にまずいだろ。

 女子高生だぞ・・・」


「何を言ってる!!俺は純粋に彼女の力になりたいだけだ!!」


再び声を張り上げ、周りが痛い視線を送る・・・

この居たたまれない状況に、ラキットとミリシアは、これ以上の抵抗をやめた。


「わーったよ・・・圧が凄いな・・・」

「キモ・・・」


「こちらとしてはありがたいです。ではこちらが私の連絡先です。では失礼します」


さっさと連絡先を渡して去っていった彼女。

表情が解りづらい彼女だったが、心なしか嫌悪感が垣間見えたのは気のせいだろうか?


「うほっ!」

「なんですかー?ナンパ成功ですかー?いやらしい人ですねー!

 こちらトラ豚のガッツリステーキになります!

 お肉にはガッツイてもいいですけど、流石に少女にガッツクのはどうかと思いますよー。

 これで全部ですね。それではごゆっくりー」


(ウェイトレスさんの冷たい視線・・・

 当の本人にはまるで効いちゃいねぇな・・・)


その後、食事を終え・・・

帰りに食料品等を購入し、準備も整った。

買い物しながらミリシアには昨晩アーマスに話したダンジョンのルールについて説明。


その上で覚悟を決め、最後まで同行する気のようだ。


・・・・・・

・・・


【アントスの町の入り口】


「さて、それじゃあいきますか・・・!

 まずはウーラネウスの神殿へ!」


「つっても、こっから1kmもないんだろ?ソッコーでつくじゃん」

「だね・・・!誰が最初につくか競争しない?」


「それはパス、ラキットには勝てん」

「えーつまんない!じゃあラキット勝負しようよ!」


「いいぜ?場所はちゃんとわかってんな?」

「うん!じゃあ・・・よーい・・・」


『ドン!!』


二人して猛スピードで駆け出した。


「へぇ・・・ミリシアも結構速いな。

 って・・・見とれてる場合じゃないな・・・こりゃ置いてかれるぞ・・・!」


慌ててアーマスも続いた。


「どうした?それでめいっぱいか?」

「くそ・・・やっぱ速いな・・・!もう全力だよ!」


「じゃあ、お先に失礼!」


そういうと、ラキットはさらに加速して先に進む。

まったくもって大人気がなかった。


「到着っと!」


1分もかからず到着したラキット。

それから1分後にミリシア、さらに1分後にアーマスが到着した。


「遅かったなお二人さん」

「お前が速すぎるんだよ・・・」

「ほんと・・・でもいつか超えて見せるんだから!」


(でも、二人とも、この位の全力疾走では息も切れてない。

 アーマスはともかく、ミリシアがここまで動けるのは意外だったな)


「ここが・・・ウーラネウスの神殿・・・

 神殿っていうか・・・廃墟・・・?」


ミリシアの感想は間違ってはいない・・・

森の中にひっそりと存在するウーラネウスの神殿。

手入れが行き届いておらず、外観はボロボロ・・・ツタなどが絡みつき、

そこら中雑草に覆われている・・・


「んじゃま、行きますか。覚悟はいいな?二人とも!」

「おうよ!いくぞ嬢ちゃん!」

「ええ!目指すはエンドレスブルー!待ってなさいよ!」


何故か一番ノリノリなミリシア。

まだウーラネウスの地下迷宮にも到着していないのに気の早いことで。

果たしてこの先なにが三人を待っているのか・・・


次回に続く

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