第7話
Bruise Claw<ブルーズクロー>第7話
「んじゃま、行きますか!」
三人は神殿内に入った。
薄暗く、入り口付近はまだ陽が届いていたが、奥はかなり暗い。
「エンドの話によれば灯りは必要ないって話だったけど、
それはあくまでも地下迷宮の事なんだろうか・・・」
灯り要らず・・・と、聞いていたためか
ラキットはたいまつを持ってきていなかった。
そんなラキットを頼り切っていたアーマスも口をつぐむ・・・
当然アーマスも持ってきてはいない。
「大丈夫。私たいまつ持ってきてるから」
どうしようもない大人二人をしり目にミリシアがたいまつを取り出し火をつけた。
”ちゃんとしてる子だ”・・・と、しみじみ思うラキットとアーマス。
グチグチ責めないところがアーマスとはえらい違いだ。
「地下迷宮の入り口・・・隠されてないといいけど・・・」
ストレートに分かりやすい地下への階段が見つかればいいのだが、
そう上手く事が運ばないのは経験上三人はよくわかっていた。
ひとまず一本道を進んでいく。
すると、8畳ほどの広さの部屋とも言えないスペースに出た。
そして正面に大きな扉・・・開けると大広間に出た。
正面最奥に大きな女神像・・・
中央ラインの両サイドには椅子も設けらている。
たいまつが一つなため、三人は固まって捜索する・・・
弱冠の非効率感にストレスを感じながらも、諦めて床を入念にチェックする。
「んー・・・床にはそれらしい隠し階段とか見当たらないな」
「だな。手前の大広間前のスペース含めて何もない・・・か。
となると、このパターンはあれだな。どっかに隠しフロアがあって・・・」
「そこに地下迷宮に続く階段がある!」
これも定番のパターンである。
「じゃあ、次は壁やオブジェを手あたり次第探りますか」
暗闇にも目が慣れ、ある程度大広間の全体を把握できたため、
大広間中央にたいまつを設置して手分けして探すこと10分・・・
「!・・・二人とも!ちょっとこっち!ミリシア、たいまつを持ってきてくれ!」
ラキットが何かを見つけたようだ。
「見つけたか?」
「ん・・・たぶん・・・ミリシア」
「はい、たいまつ」
壁のブロックにたいまつを近づける。
「あ、微妙に色が違う」
「部屋が明るければすぐに気づけたんだろうけどな。
多分これが正解なはず!」
バコン!
ラキットは色違いのブロックを叩いた。
すると音を立てて、何故か天井が開き、そこから吸血コウモリが飛び出してきた!!
「おいおい!ハズレじゃねぇか!」
「俺に言われても・・・!(オラクルの副作用かもしれないなこりゃ・・・)」
「二人ともどいて!ホーミングニードル!!」
ミリシアの掲げた手・・・その五指から鋭く太い針が発射された!!
その針は飛びまわるコウモリを追尾しなら、的確に体を射抜き、
一瞬にして一網打尽にした。
ミリシアは簡単な攻撃魔法と治癒術を使えるようだ。
「ヒュー!やるじゃねぇか嬢ちゃん!なぁラキット」
「あぁ!助かったぜミリシア」
「こ、この位は別に・・・てか、これって・・・
ちょっとラキットたいまつかしてみて」
「?おう」
ラキットがミリシアにたいまつを手渡すと、
彼女はコウモリが飛び出してきた天井の穴に向けてたいまつをかかげた。
「やっぱり。梯子が見える」
「んー・・・
本来だったら天井が開いて、梯子が降りてくるまでがワンアクションだったけど
装置が故障してたってことなのか?」
「ミリシア、ちょっとたいまつ貸してくれ。
一応これ以外にも色違いのブロックがないかチェックしてみる」
アーマスにたいまつを渡し、10分程度が経過・・・
どうやら他に色違いのブロックはなかったようだ。
「つまり、これは一見するとハズレなようで、実は当たりだったと・・・」
「はは・・・(俺のオラクルの副作用で吸血コウモリ襲撃と装置の不具合っていう
不運の連鎖が起きたって考えた方がいいかもな・・・)」
「天井まで3m50・・・ってところかしら。
この位ならいけるわね。ってなわけで、ちょっと見てくるからたいまつ」
そう言うとアーマスからたいまつを受け取ったミリシア。
「気をつけろよ?まだコウモリがいるかもしれない」
「大丈夫だって!」
そういうと、ミリシアは腰を落とし、勢いをつけて飛びあがった。
確かにこの位の高さなら余裕のようだ。
無事に天井裏に上がったミリシアは、様子を見てくると言い残し、
天井裏探索をはじめた。
「でもよ、上は本当に正解の道なのか?
だって、地下迷宮の入り口っつったら、普通下にあるもんだろ?」
「まぁでも一回上に上がって、また下がるってパターンはよくあるからな。
何とも言えないよな」
ガガガガガ・・・
天井穴から梯子が音を立てて降りてきた。
ミリシアが力技でおろしたのだろうか?
「大丈夫だったよ!それよりも気になる事があるの。上がってきて」
ラキットとアーマスは言われるまま梯子を上り、天井上に出た。
ミリシア同様、跳んであがることも出来たが、せっかく下げてくれた手前、
それを使う事にした二人。
天井裏はかなり埃っぽいようだ・・・
下の大広間と同じ広さ・・・ところどころ箱が置いてある・・・
物置にでも使っていたのだろうか?
「これを見て」
ミリシアがいる足元を照らすと、埃をかぶった床に、真新しい足跡があるではないか。
「この足跡、私のじゃないの」
「つまり、先客がいるってことか・・・」
「足跡の大きさからみて、女だなこりゃ。
しかも、よく見たら別の足跡もあるぞ。こっちは男か・・・パーティかな?」
「先客がいるなら急いだほうがいいんじゃないの?」
「いや、この足跡・・・真新しいし、最近のものだと思う。
仮に守り人の試練をクリアして先に進んでたとして、
レベルが1になってるはずだろ?そんな先には行ってないと思う」
「でも先客がいたなら何でコウモリがいたんだろうな?
同じ道を辿ったなら、そいつらが先に遭遇して倒してそうなもんだけど」
「それなら、向こうにコウモリの死骸があったよ」
「つまり、生き残りに襲われたってわけね・・・
ラキットお前・・・」
この不運・・・原因はラキットにあり、そう睨むアーマス。
正解である。
「へいへい、そうですよ。俺のせいですね!
だけど、お前だけは文句言えないからな!?
(誰のせいでこうなってると思ってるんだ、暴走するお前の一撃から守るために
仕方なく使ったっつーの!)」
「とりあえず先に進も!下に降りる梯子もあったからさ」
ミリシアの案内で天井の仕掛けを作動させ、
こちらは壊れていなかったようで、天井の床が開き、自動で梯子が下がっていった。
三人が下のフロアに降りると、梯子は自動的に元の位置に戻り、天井も閉じた。
「どうやら大広間の隣に、この小部屋があったみたいだな。
で、こいつが地下迷宮への下り階段ってわけだ」
4畳くらいの小部屋の端に、下り階段がある。
三人は階段を進んだ。
階段を下り、別方向へ曲がり・・・
それを続けていくと、下の方から灯りが洩れている事に気付いた。
「ゴールは近そうだな」
三人は心なしか駆け足で階段を下りきると、
少し開けたフロアに出た。
地上のように明るい・・・
「ここが・・・『ウーラネウスの地下迷宮』!」
フロアの先に扉がある。
「ようこそ、ウーラネウスの地下迷宮へ」
「!・・・誰だ!?」
突然の声に警戒する3人。
「私はこの迷宮を管理するシステムAIです」
「これが古代文明の遺産なんて信じられないよな・・・
むしろ近代的・・・いや、その先を行ってる感じすらあるよな」
「あぁ・・・」
「ねぇシステムエーアイさん、私たち、中に入りたいんだけどいいかな?」
「迷宮への入出を希望されるのですね?
承知しました。チェック致します」
すると壁からサーチレーザーが三人を照らし出した。
思わず回避行動に出てしまったのが、何とも恥ずかしいが、
全員が同じ行動をとったので誰もつっこまなかった。
「・・・武器の持ち込み等は確認できませんでした。
入出を許可します。
ですが、入出に際して注意事項があります。
この先、本当に入出の資格があるのか、テストを行います。
命の保証はございません。それでもよろしければ先へお進みください」
カチャ
カギが開いた音がした。
扉のロックが解除されたのだろう。
「いよいよだな・・・覚悟はいいか二人とも」
「バッチこいだぜ!!」
「うん・・・ドキドキ・・・」
「よし、いくぞ!」
扉を開けるラキット。
扉の先は、さっきの神殿の大広間程度の何もないフロア・・・
床が白く、灯りを反射して少しまぶしいくらいだ。
四方の壁は灰色の無機質なもの・・・
「”今度”は三人組か」
いきなり背後から声がしたため、三人は一気に前に跳び、すぐさま振り返った。
「おっと、驚かせたか、悪かったな」
そこには角の生えた、一見すると人間の女が立っていた。
カチャっと、再び扉のロックがかかったようだ。
もう後戻りはできない。
「(気配をまるで感じない・・・まるでフウマみたいな奴だな・・・)
あんたが守り人って奴か?」
「守り人・・・?ある意味ではそうかもな。
我の名はミステイシア。天獣だ」
『天獣!?』
三人は口を揃えて驚いた。
「驚くことはないだろう?
ここが天使ウーラネウスが作った場所だという事は知っているのではないのか?」
「あの話は本当だって事か」
「天使がいるなら、天界の獣・・・天獣がいてもおかしくはないだろう?」
「でもさ、そもそも天界に住む天使や天獣が人間界にいること自体おかしくない?」
「確かにな。そこの小娘の言う通りだ。
基本的に人間界への干渉はしないのが天界の方針だからな。
まぁ、ハッキリ言うとだな、ウーラネウスは天界を追放されてココを作った。
あ、神殿については元々あったものを利用させてもらったがな。
それよりも・・・だ。
ふーーむ・・・」
ミステイシアはじろじろと三人を品定めするかのように頭の先からつま先まで
舐めるように観察している。
「・・・こいつらならあるいは・・・」
何かを小声でつぶやくミステイシア。
「で、ミステイシア・・・俺たちをテストするんだろう?
お前と戦えばいいのか?」
「そうだな・・・”力を得るに相応しいか”、試させてもらおうか」
「力を得る・・・?一体何のことだ!?」
「これ以上の会話は必要ない。実力で語るがいい!!」
フッッ!!
音もなくミステイシアが消えたかと思ったら、
次の瞬間にはミリシアの正面に現れていた!
バキッ!!
驚く間もなくミステイシアの裏拳がミリシアの頬にクリーンヒット!!
そのままミリシアは激しく吹き飛ばされた!!
「ミリシア!!てめぇ・・・!!」
激昂してミステイシアに飛びかかるラキットとアーマス!!
「くく!いいぞ!」
二人がかりの体術・・・しかし、攻撃が当たらない・・・!
「!!・・・当たらねぇ・・・!!」
「速い・・・!!」
繰り出される拳や蹴りを、最小限の動きでかわすミステイシア。
二人はいったん距離をとった。
「いや・・・確かに速いは速いけど、とらえられない程じゃないはずだ・・・
何かこう・・・すごく違和感がある・・・」
「痛つつ・・・」
吹き飛ばされたミリシアはやられた右頬をさすりながら上体を起こした。
どうやら致命傷には至っていないようだ。
「ミリシア!平気か!?」
ラキットは目の前のミステイシアを注視つつ、ミリシアに声をかけた。
「ごめん・・・ダメージはそうでもないけど・・・
足に来てるみたい・・・すぐには動けそうもないや・・・」
「すまねぇ・・・守るって言ったのに・・・」
「いいよ・・・それより、気を付けて・・・!」
「いいなぁ。お前たち恋人同士という奴か?」
全く想像もしていなかったワードが飛び出してきたため、慌てるラキットとミリシア。
「・・・なっ!!?こ、恋人て!?はぁ!?」
「ちょ・・・!!・・・てかラキット、何その反応!!」
「なんだ?違うのか?なら、お前・・・ラキットとか言ったな。
我と夫婦(めおと)になれ」
またしてもとんでもない事を言い出すミステイシア。
「はぁ!?」
「はぁぁぁ!!?」
ミリシア・・・ブチギレる・・・!!
一体この守り人の天獣は何を言っているのか・・・!
次回に続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます