第4話

Bruise Claw<ブルーズクロー>第4話


変容したアーマス・・・

ゼルディアに向けて放たれる凄まじい殺気と威圧感・・・!


次の瞬間、アーマスのいた場所の足元が突然破裂したかと思うと、

アーマスの姿は消えていた。


「!!(速い・・・!!)」


ゼルディアは決して油断していたわけではなかったが、

これまでのアーマスの動きから想定して、あまりにもかけ離れた速さだったため、

間合いへの侵入を許してしまった。


ガシッ・・・!!


「・・・!がっ・・・!!」


アーマスの右手がゼルディアの細い首を正面から掴むと、

力を籠めて彼女の全身を持ち上げた。


「はぁぁああああああ!!」


ドゴッ!!!


「かはっ・・・」


持ち上げたゼルディアを力いっぱい床に叩きつけたアーマス。

かなり丈夫なはずの床が、衝撃の大きさから押し付けられたゼルディアを中心に

直径5m程破壊され、めくれ上がった!!


「アーマス・・・!!

(クソ・・・!!

 こうなっちまったら、ガス欠になるまで破壊衝動は収まらない・・・!!

 ゼル姉なら何とかなると思ったが・・・やっぱり無理なのか!?)」


「ふん!!」


ガガガガガッ!!


なんとアーマスは叩きつけたゼルディアの首根っこを掴んだまま、

今度は荒れた床にこすりつけながら再び持ち上げると、

再びそのまま右腕を振りかぶり、彼女を思い切り壁に叩きつけた!!


ドゴォッ!!


頑丈な素材・・・というのがまるで嘘のように破壊される。

こんな恐ろしい力で叩きつけられた彼女は無事なのか・・・


「フフ・・・」


ボキッ!!


「!・・・」


突然響いた耳障りの悪い何かが砕ける音・・・!

今まで勝ち誇り笑みを浮かべていたアーマスの表情が歪む。


「ふふ・・・素敵な攻撃でしたわアーマスさん。

 久しぶりに感じちゃいました。よだれが出ちゃう・・・」


どうやらゼルディアは自身の首根っこを掴んでいたアーマスの手首を握力で力任せに折ったようだ・・・!!


「ぐ・・・ぁ!!」


「ゼル姉が舌を出した・・・ヤベェ・・・マジになってる・・・!!」


ゼルディアは強敵を前にすると舌なめずりするクセがあった。

興奮状態になると、どうにもやめられないようだ。


「だから言ったろ。確かにアーマスの力には驚いたが、

 あの程度じゃゼルディアには勝てないさ」


(確かにエンドの言う通りかもだが・・・

 でも・・・なんか嫌な予感がするんだよな・・・)


「というかアーマスさん、あなたのせいでドレスの背中・・・ボロボロなんですけど。

 これじゃポロリ不可避で色々まずいんですが」

「かぁッ!!」


激怒したアーマスがゼルディアに襲い掛かる!!

先ほど同様、凄まじい速さだ・・・!!


「初手は驚いて対処できなかったけど、問題はないわ」


アーマスの接近に合わせ、アーマスの速さ以上の速さで蹴りを繰り出し、

これが見事にアーマスの顔面を捉えた!!


吹き飛んだアーマスは、そのまま地面に着地することもなく壁に激突!

アーマスが彼女を壁に押し付けた時以上の衝撃痕が壁に浮かび上がった。


「流石にポロリしたままじゃ戦えないので足だけでお相手してあげる」


こぼれそうな大きな胸を右腕でガードしながらゼルディアは言った。


「ゼル姉余裕だな・・・マジで杞憂だったか・・・」

「はぁ・・・何かアッチの戦いのせいで集中力切れちまったな。

 つまんねーの」


「ざけんな・・・!ダンジョンに挑む前にボロボロになってどうすんだよ!」

「そこんとこは問題ないよ。うちのヒーラーが後で回復してくれるからさ」


(パキア・パキアのことか・・・あいつちゃんと回復できるんだろうな・・・)


「アーマスさん、まさかこの程度で終わりってことはないでしょ?

 じゅる・・・はぁ・・・お姉さんを愉しませてよね」


ドッ!!


瞬間・・・!

壁にめり込み、動きを見せなかったアーマスが、尋常ではないスピードで弾け飛んだ!!


「!!・・・(さっきよりも速・・・)」


ゼルディア目掛けて一直線・・・!!


すでに衝突寸前までゼルディアは反応できず・・・!!

これでは反撃が間に合わない・・・!!


ゴッ!!!


「ゼル姉!!!」


強烈すぎるロケット頭突き・・・!!

ゼルディアの額にクリーンヒット・・・!!鈍い衝撃音・・・!


吹き飛ばされるゼルディア!

彼女の華奢な体が床に激しく叩きつけられながら、奥の壁に激突した。


「く・・・!!おい、流石に今のはヤバイんじゃないのか!?」

「だーかーらー・・・心配いらねぇよ。

 ゼルディアは魔力も天力も、まったく才覚がないが、

 こと『気』に関しては超一流・・・というか、人間離れしてる」


(そう・・・あの異様なまでのタフネスやパワーも、

 全ては『気』による肉体強化によるもの・・・

 いや、もはやそれに留まらず、気が余り余って常に肉体を気が包んでる状態・・・

 いわば『気の衣』あれじゃどんな攻撃も効果は薄いだろうな・・・)


「はー・・・びっくりしたなぁ・・・でもいいよ・・・ゾクゾクしちゃう・・・!」


ゼルディアは何事もなかったように立ち上がった。


「!?・・・あらら?」


ふらつくゼルディア・・・!

どうやらダメージ自体はないものの、頭を激しく揺らしたことによる脳震盪を起こしているようだ。


「!・・・ダメージは通ってなくても脳震盪起こしてやがる・・・!

 ヤバイぞ・・・!!このまま気を失えば・・・」


「確かにな。ゼルディアは寝ている時など、無防備時でも最低限の気力で

 常に肉体強化をしているとはいえ、今のアーマス相手には少し弱いかもしれないな」


「って、何落ち着き払ってるんだよ!?助けにいけよ!仲間だろ!?」

「なんで俺が?あとで怒られたくないしな。助けたいならお前が助けたらいい」


(このクソ野郎・・・!)


「ハァ!!」


暴走するアーマスは再びゼルディアに正面から接近!

ゼルディアは苦し紛れに蹴りを放つも、脳が揺れ、視界が定まらない中のため、

空を斬った。


「はッ!!」


ドガッ!!!

アーマスの強烈な右アッパーがゼルディアの顎を的確に射抜いた。

飛びかけていた意識が、この一撃で完全に飛んだ。


「ハッハァー!!!」


倒れこみ意識を失ったゼルディアに馬乗りになるアーマス!!

そのまま拳を思い切り振り下ろそうとした、その時だった!


「やめろバカ!!」


アーマスの後頭部に思い切り蹴りを入れたラキット・・・!!

ゼルディアにまたがり、しゃがんだ状態のアーマスだったが、

吹っ飛ばすことはできなかった。


しかし、注意をラキットに向ける事は成功した。


「ぐぬぬ・・・!!」

「おいコラ、無抵抗の女に何してんだよ!

(思わず飛び出してきたけど、俺じゃコイツをまともに相手にするのは無理だ!

 何とか気を引いて、逃げ回るしかねぇ・・・!!)」


「いいぞ、ほらこいよ・・・俺が相手してやる!」

「ガァッ!!」


アーマスはターゲットをラキットに移し、飛びかかってきた!!


「く!!」


後ろに飛び、ギリギリで回避したが、空を斬っただけでラキットの胸に切り傷が走る!

食らわずともわかる圧倒的破壊力・・・!

直に食らえばひとたまりもないだろう。


「なぁおい・・・!結構暴れただろ・・・

 もうガス欠になってもいいんじゃねぇか!?」

「ガアアアアアアアアアアアッ!!」


再びラキットに襲い掛かるアーマス!!

さっきよりも速い・・・!!


「やっば・・・」


回避は間に合わない・・・!

アーマスの拳がラキットの腹に入る!!


スカッ!!


「・・・ガ!?」


今のタイミング、確かにアーマスの拳はラキットの腹を抉っていたはずだった。

しかし、結果はかすりもせず空を斬った。

攻撃を仕掛けたアーマスも困惑しているようだ。


「・・・これだよ!これ・・・!この力・・・!!

 ”確率変動”のオラクル・・・!!」


テンションを上げるエンド。


「はぁ・・・はぁ・・・危なかった・・・

(”使っちまった”・・・!!クソ・・・!!)」


エンドは誤解をしていた。

あらゆる事象の確率変動・・・エンドはラキットのオラクルをそう誤解しているが

実際のところは運の限界突破・・・奇跡の幸運!!


とにかく幸運が訪れるというもの。

しかも、今の確実に当たるはずだった攻撃を回避するような、

ありえないような事象まで引き起こす。


しかし、この能力は非常に危険で、副作用として、

同等の不運にも見舞われるというものである。

それは一度に来るのか、分割してくるのかは、その時々である。

また、不運の影響がどのくらいの期間にわたって起こるのかもラキット本人には把握できない。


ちなみに、ラキットが以前、『剣王の修業場』で風ネズミのしっぽを落としたのも、

この能力の副作用によるものである。


(速さで逃げ回るつもりだったけど、どうやらあいつの方が速いっぽいな・・・

 もうこうなったら使うしかないのか・・・”アレ”を・・・!!)


「はー・・・ちょっとお姉さんイキかけてたみたいね」

「!!ゼル姉・・・!!(ナイス・・・!!)」


再び立ち上がったゼルディア。


「待たせちゃったみたいね。アーマスさん。

 あなたの相手はこっちよ。お姉さんがいいことしてあげる」


「グルル・・・!!」


アーマスは振り返り、再びターゲットをゼルディアに変えた・・・!!


「じゅる・・・流石にフルパワーで殴ったら殺しちゃいそうだから

 7割くらいでイカせてあげるね・・・!」


そういうとゼルディアは腰を落とし、構えた。


「コォォ・・・」


「!?・・・ゼル姉を包んでた気が・・・どんどん小さくなっていく!?」

「ラキット、ゼルディアの射線上に立つなよ」


「あ、ああ(なんか、とてつもなくヤバイ気が・・・)」


ラキットはエンドに言われるまま、その場から離れた。


「ガァァアアアアアア!!」


アーマスは吠えはするものの、距離を詰めようとしない。

何か本能的にゼルディアを警戒してるようである。


「もー!来てくれないの?つれないなぁ・・・

 仕方ないか、じゃあもうこっからでいいや。


 はぁぁぁぁぁ!!

 烈波破砕拳<れっぱはさいけん>!!」


ゼルディアは左腕で胸を抑えたまま、腰をひねり右拳を放った!!


「!」


アーマスを突き抜ける突風、そして頬を切り裂いた。

だが、これはゼルディアから放たれた攻撃のほんの影響に過ぎない。


風が到着して0.1秒にも満たない次の瞬間、

ゼルディアの体内に秘められた気の流れが、一気に拳から放たれた!!

烈波破砕拳は、ゼルディアの溢れ出る気も一気に体内に内包し、一気に拳と共に放つ技である。


ホースの口を閉ざした状態で蛇口をあけ、ギリギリまでため込んだところで口を放ち

一気に解き放つイメージである。


ゼルディアからアーマスまで、数mは距離があったはずだが、

逃げ場を失うほどの巨大な気の波動・・・

そもそも、逃げる間もなく、アーマスに直撃・・・はるか彼方に吹き飛ばされた!!


射線上の壁は抉られ、遥か彼方まで大穴が空いてしまっている。

何という威力・・・!!

これで本気じゃないというのだから驚きしかない。


「・・・はは・・・はは・・・(笑うしかねぇ)」


ぶるっ

っと、身震いするゼルディア。

恍惚な表情・・・どうやら満足したようである。


「はぁ~・・・スッキリしたぁ・・・じゅる・・・はぅ~」


「よかったなーゼルディア愉しめたみたいで。

 しっかし・・・こりゃやりすぎだぜ?

 アーマス君、生きてるのか?これ」


「そうだった・・・!アーマス!!」


ラキットは遥か彼方に飛ばされたアーマスの回収に向かった。

果たして無事なのか・・・?


次回に続く

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