第3話

Bruise Claw<ブルーズクロー>第3話


「おわっ・・・!?」

「・・・っ!」


ラキットとアーマスは派手に尻もちをついて後ろに倒れこんだ。

どうやら酒場から何処かに転移されたようだ。


(椅子に座った状態からの突然の転移・・・

 転移先に椅子などないから、こうなるのも無理はない。

 ・・・と、言いたいところだが、こいつらはちゃんと即時対応できてる。


 予め転移を知っていたのだろうが、そんな事問題じゃないな・・・

 俺たちはまだまだってことだ。


 いや、それよりもここは何処だ・・・!?

 だだっ広い何もないフロア・・・

 他に一切の気配を感じない無機質で暗く冷たい雰囲気・・・)


「ここは俺たちが使ってる地下の訓練施設みたいなものだよ。

 特殊素材の壁は、あらゆる衝撃に強く、防音も完備してるすぐれもの。

 暴れるにはうってつけの場所さ」


「一体何のつもりだ・・・すぐに酒場に戻せ・・・!!」

「あぁ。わかってる。だが、ちょっと食後の運動と行こうじゃないか」


「はぁ?意味がわからねぇ・・・

 俺はお前の依頼を受けると言ったはずだぜ?」


「だからさ。”お前たち”が守り人を相手に合格できるか、

 テストの前のテストをしてやろうと思ってな」


「ちょっと待て、だったらアーマスは関係ないだろ。

 ダンジョンには俺一人で挑む・・・それで問題ないだろ」


「まぁ、お前が単身で手に入れられるなら別に問題はない・・・が、

 そこら辺も含めてテストさせてもらおうか。ゼルディア」

「ふふ。了解、私も遊ばせてもらうわ」


(まずいな・・・あの野郎、アーマスにゼル姉をけしかけるつもりかよ・・・!

 目的がある以上、殺しはしないんだろうけどよ・・・!!)


「アーマス!!逃げろ!!」

「逃げろっつったって・・・逃げ場何てないだろうが・・・!!」


「とにかく動き回って距離を詰められるなよ・・・!!」

「他人の心配してる場合かよ」


「!?はっ・・・

(・・・目の前にいたエンドがいない・・・!!?)

 どこに・・・!?」


「どっち見てる!!後ろだよ!!」

「!!」


「遅い!!」


いつの間にかラキットの背後に回り込んだエンドの鋭い蹴りが炸裂する!!


ドカッ!!


「へぇ・・・!」


(側頭部狙いのハイキック・・・!!

 わかってんよ・・・!!)


エンドの鋭い蹴りを咄嗟に腕でガードしたラキット・・・!!

しかし、威力余って吹っ飛ばされた!!

すぐに態勢を整え、エンドを目で追う。


(にしても流石に速いな・・・

 一瞬で背後をとられた・・・!!)


「いい反応だ、楽しくなってくるぜ。

 あ、ちなみに他の3人は手出ししないから安心してくれよな。

 お前は俺にだけ注目してりゃいいんだ」


ドガンッ!!


物凄い衝撃音・・・

どうやらゼルディアの一撃を受け、壁に激突したようだ。

頑強なはずの壁に亀裂が入っている・・・!


「ガハッ・・・」


「!?・・・アーマス!!」

「だから、よそ見してんじゃねぇつってんだろ!!」


「(しま・・・)!」


ドムッ!!

一気に距離を詰めたエンドの強烈なストレートがラキットの脇腹を抉る!!


「がはっ・・・」

「チッ・・・つまらねぇな・・・!!

 オラ!!本気出せよ!!兄弟!!」


今の一撃に悶絶する無抵抗のラキットをボコボコに殴り始めたエンド。


「あちらも盛り上がってますわね。

 さて・・・こちらは・・・

 んー・・・アーマスさん、まだやれます?」


「はは・・・いや、まだも何も、俺は最初からアンタとやりたくないって・・・」


たった一発で満身創痍といった感じだ。


「やりたくない・・・

 んー・・・もしかして私が女だからとか?そういうつまらない理由ですか?」


「・・・おーよ。俺は女には手をあげない主義なんでね・・・!」

「あら素敵・・・アーマスさん、見た目によらず紳士なんですね」


「よく誤解されがちだけど、そうなんだよ・・・

 女に手は出さない・・・

 かといって、一方的にいたぶられるのも趣味じゃないんだ・・・

 なぁ、やめてくれねぇか」


「んー・・・アーマスさん、紳士なのは結構だけど

 ・・・あなた、とても退屈ですわね。

 私を悦ばせてくれると思ったのに、ザンネン」


「・・・期待にそえず悪かったな・・・

(この女・・・マジでヤベェ・・・

 一体どんな力してんだ・・・あの細腕からは想像も出来ない破壊力・・・!!

 マジで殺す気で来てる・・・いや、こいつにとっては遊び程度なのかもな・・・

 とにかく、これ以上食らうのはまずい・・・!!)」


ダッ・・・!!

アーマスは駆け出してゼルディアから距離をとる。


「まぁた鬼ごっこなの?疲れちゃうってばー。

 もうやめてあげようかと思ったけど、獲物に逃げられると、追いたくなっちゃうよね」


「ハァハァ・・・!!クソ・・・ラキットの野郎もボコられっぱなし・・・

 かなりヤベェ・・・殺されるぞ・・・!!」


「逃げる獲物は仕留めたくなる・・・とはいえ、追いかけっこは嫌なんだよなぁ。

 はぁ・・・仕方ない、”跳ぶ”ね」


ドッ!!


ゼルディアが右足に力を入れて踏み込むと、特殊素材の床が思い切り砕け散った。

と、同時に、ゼルディアがはじけ飛んだ・・・!!


「!!」


一瞬にして逃げるアーマスに追いつくと、その勢いのまま回転蹴りを放った!!


バキッ!!


逃げるアーマスの背中を蹴り飛ばし、前方に吹き飛ばされるアーマス!

そのまま顔面から地面に着地し、ゴムまりのように跳ねて壁に激突した!


「がは・・・」


「アーマスさーん、生きてますー?

 もう鬼ごっこ辞めてくれませんか?

 あまり動き回ると、胸が痛いんでー」


そう言いながらピクリとも動かないアーマスに近寄るゼルディア。


「ねー、聞いてます?」

「・・・」


「あらら、伸びちゃったのかしら?全然愉しめなかったなぁ」


ガッカリしながらため息をつくゼルディア。


「アーマス・・・!がはっ・・・」


「ゼルディアの方は片がついたか。

 ラキットさぁ、どーしたよ。反撃してこいよ。

 3年前のお前は、もっと強かっただろ?なんで弱くなってんだよ」


相変わらず一方的に殴られ続けるラキット。


(るせーよ・・・!こいつと正面からやりあったところで、

 100%勝ち目なんてない・・・


 あいつのオラクルの能力で、相手の能力・・・

 つまり俺の身体能力を完全コピーしている・・・

 だからスピードも互角・・・な、はずなんだが、実際はそれ以上。

 

 もしかしたら、この数年で何か能力が強化されているのかもしれないな・・・)


ラキットの読みは間違っていなかった。

エンドのオラクルは『能力模写』+『リミットオーバー』


自身の能力を上回っている相手の身体能力はコピーされる。

加えてリミットオーバーで能力の限界値を越えたスペックを実現している。

故に、常に相手以上の肉体的な強さを発揮しているのだ。


(だが、完全に勝ち筋がないわけでもない・・・

 あいつのオラクル・・・天力の消耗が激しいって言ってたからな。

 だから俺はあえて攻撃に転じず、守備に専念してきた。


 やつが天力切れを起こして能力の維持が出来なくなったところで

 スピードで翻弄してぶっ飛ばす・・・!!それしかねぇ!!)


「なぁ兄弟、お前の考えを当ててやろうか?

 ズバリ狙いは俺の天力切れ・・・オラクルが切れるのを待ってる」


「・・・!!」


「はは、図星かよ!解りやすいなぁ。顔に出てんぞ!

 まぁお前のプランは間違っちゃいないよ。

 実際問題、それくらいしか突破口はないしね。

 

 だが、残念だが、そのプランの成功率は限りなく低いだろうな。

 昔の俺じゃないんでね。

 常時発動なんてコスパ悪いことはもうしてない。

 

 必要な時、必要な個所に必要な分だけ・・・

 この調整により、消耗する天力は限りなく抑えられてる。

 まずもって、お前相手に天力切れなんて起こさないさ」


「く・・・!!」


「だけど、まぁ・・・そうだな。

 確かにこれじゃ一方的すぎるよな。

 

 わかった、オラクルは使わないでおいてやる。

 それなら少しは楽しめるよな?」


「(舐めやがって・・・!!)

 へ・・・!後悔するなよ・・・!!」


フッ・・・!


ラキットが一瞬でエンドの目の前から消えた!


「!」

「迅い・・・!!」

「ほぇ・・・消えた!?」


驚くエンド。

そして、戦いを傍観していた無口のフウマが思わず口にしてしまうほど、

とてつもない速さ・・・パキアの目には消えたように映ったようだ。


「これがお前の全力ってわけか・・・スゲェじゃねぇか!

 だけど・・・!!!そこだろ!!」

「!!」


エンドは背後めがけて回し蹴りを放った!!


スカッ!!


「!?」


エンドの回し蹴りは、確かにラキットの姿をとらえたかに思えた・・・

が、結果は空を貫いただけだ。


「ハズレだ!!」


エンドのがら空きの背中にラキットの鋭い跳び蹴りがクリーンヒット!!

初めてラキットの蹴りがエンドに当たった瞬間である!!


吹っ飛ばされたエンドはすぐさま空中で体勢を整え、着地した。


「残像か・・・。想像以上に速いじゃねぇの」


「団長愉しそうだなぁ。私もラキットちゃんとヤリたいなぁ。

 !・・・あら、お目覚めかしらアーマスさん」


背後の気配に、ゼルディアが振り返ると、満身創痍のアーマスが起き上がっていた。


「ふぅ・・・完全に意識トんでたわ・・・。

 流石S級・・・次元が違うぜ・・・」


「んー・・・さすがグラッド族といったところですか。

 結構本気で蹴ったんですけど、骨折すらしてないって・・・

 あなたこそ凄い事ですよ。褒めてあげちゃいます」


「そりゃどーも・・・ビウィチングウィッチに褒められるとか、光栄だね・・・

 体の頑丈さと回復力だけが自慢でね・・・」


「もう一回戦します?」

「遠慮しておく・・・といっても、やるんだよな?」


「んー・・・手だししてこない相手をいたぶるのも嫌いではないんですが・・・

 退屈ですからねー・・・どーしよっかな。

 まぁでも、ここまで頑丈なら、”多少”本気を出してもいいかもってことか」


「多少本気って・・・

 えーっと・・・つまり、今までは全然本気じゃなかったと・・・?」


「うん。私が本気出したらすぐ終わっちゃうからね」


ゾクッ


背筋が凍るゼルディアの眼光・・・

と、同時に、腹部に激しい痛みを覚えた。


「!!?・・・が・・・何・・・が・・・!?」


見ると、ゼルディアは拳を突き出している。


「私、動き回ると胸が痛いから、もう動くのやめますね。

 この位の距離なら、ここから空を殴るだけで、あなたをボコボコに出来るんで」


そういうと、ゼルディアはその場でシャドーボクシングのように

凄まじい速さで拳を繰り出し始めた!


ドドドドド!!!


「がはっ・・・」


すると、数m離れたアーマスが、まるで一人芝居でもしてるかのように激しく悶え始めた。


(し、信じられねぇ・・・

 拳を繰り出しただけで、圧縮された空気が飛ばされてくるだと!?

 おまけに、一発一発がとてつもなく・・・重いッ・・・!!)


血反吐を吐くアーマス。


「ハァ・・・ハァ・・・く・・・」

「ほんっっっとに頑丈なんですね。呆れますわ」


「ハァ・・・ハァ・・・(ヤバイ・・・また意識がトびそうだ・・・)

 ラキット!!」


「!・・・アーマス・・・」


「わりぃ・・・あと頼むわ・・・」

「!!・・・ばっか野郎・・・アーマス!!気をしっかり持て!!」


ラキットの叫びもむなしく、アーマスは崩れ落ちた。

どうやら気を失ったようだ。


「お前の相手は俺だっていってるだろぉが!!ラキットォォォ!!」

「く・・・!!

 お前の相手をしてる場合じゃねぇんだよ!エンドォォオオオ!!

 (まずいまずいまずい・・・!!あのバカ、”暴走”しちまうぞ・・・!!)」


エンドの不安は的中する・・・


「なんですの・・・?(近づけない・・・?本能が警戒している・・・?)」


倒れたアーマスの様子がおかしい・・・!!


「!?・・・何だこの気配・・・」

「エンド、お遊びはこの辺で終わりだ。

 あのバカ、暴走しかけてやがる・・・!」


「暴走・・・?くく!そっかそっか、グラッド族の本領発揮ってわけだ!」

「何笑ってやがる・・・!マジで手がつけられないんだって・・・!!」


「いーや、問題ないだろ、グラッド族の”本気”がどれほどか知らないが、

 ゼルディアに勝てるイメージがわかない」


確かに・・・ゼル姉と比較すれば、それはそうかもだが・・・


「ふふ・・・よくわかりませんが、このゾクゾクする感じ・・・

 さぁ、アーマスさん、我慢せず全てを解き放って・・・!!」


「コロス・・・!!」


次回に続く

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