第2話
Bruise Claw<ブルーズクロー>第2話
「で、用件は何だ?」
「まぁまぁ、焦るなって、せっかくだ飯でも食いながら話そう。
マスター!注文いいかな!」
エンドの変容ぶりに戸惑いを隠せないアーマス。
「ハァ・・・こういう奴なんだ。
どこまで本気なのか相変わらず読めん。
とりあえず飯の最中に殺し合いなんて事にはならないだろうから
アーマスも警戒解けよ」
「・・・
(今の今まで殺気放ってた奴を目の前に警戒するなって方が無理あるだろ!)」
「アーマス、悪かったって、もう何もしないからさ。
君も食事しに来てたんだろ?邪魔して悪かったな。
俺のおごりだからさ、好きなだけ食べてよ。
あ、ラキット、おめぇも奢ってほしいか?
どうせ貧乏暮らしなんだろ?」
ニヤニヤと笑うエンドの顔は、さっきとは別人のように少年っぽさを感じる。
「う、うるせぇよ!誰がお前の施しなんか受けるか!」
「へいへい、そうかよ!」
「じゃあ、俺は遠慮なくゴチになるかな」
エンドの表情に拍子抜けしたのか、ようやく警戒を解いたアーマス。
調子に乗ったついでにエンドの提案に素直に応じた。
「お、お前!裏切るのかアーマス!!」
「裏切るも何も、せっかくのご厚意だろ?」
「いいねぇ!気に入ったぜアーマス」
こうして何故か会食がはじまった。
エンドの連れの四人も、各々注文を入れている。
・・・・
・・・
あらかた料理が提供され、食事も終わりに差し掛かったところでラキットが口を開いた。
「で、そろそろ本題に入ったらどうなんだ?」
「まぁ、そう急くなよ。まだ食ってる奴もいるし、
お前の知らない顔もいるだろ?一応自己紹介しておくよ。
まずはフウマ、よろしく!」
エンドがそう言うと、左端に座っていた、青い髪の男がおもむろに口を開いた。
「フウマ・カザキリ・・・」
そう名前を告げると、以降沈黙が続いた。
「・・・って、終わりかよ!」
沈黙に耐え切れず、思わずツッコミを入れてしまったラキット。
「わりぃな、この通り寡黙な男なんだ。
特に初対面の相手にはこんな感じでさ」
そんな相手に自己紹介のトップバッターを任せるのもどうかと思うラキットとアーマスだった。
「・・・(今更だがこいつ、まるで気配を感じない・・・
目の前に存在してるのに、この存在感の無さは何なんだ・・・?)」
「へぇ・・・その顔・・・気づいたか?流石兄弟!見る目は曇ってないな」
「だから兄弟って言うな!
フウマ・・・だっけ?俺の知らない顔って事は、新入りだよな」
「そう。フウマは牙に入ってまだ日は浅いけど、実力は相当なもんだよ。
東の国で忍を生業にしてたんだけど、その強さに惚れこんでスカウトしたってわけ」
「忍って・・・ニンジャって奴か?今の時代に実在するんだな・・・
アニメや漫画の中のもんだと思ってた・・・」
「ん?アーマスはニホン通なのか?流石に”本物”にお目にかかる事は滅多にないよ。
君の言う通り、今じゃフィクションの中の存在ってのが一般的な認識じゃないかな。
だから、俺も本物と出会った時はテンション上がったね!」
アーマスはニホンのアニメや漫画が大好きだったりするが、
忍者や侍にはあまり興味がないようだ。
「御覧の通り、若干コミュ障なのが難点だけどさ、でも仕事はキッチリこなすぜ?
流石、現代を生きる現役の忍って奴よ。
って・・・どーした兄弟?さっきから黙りこくって。
安心しろって、別にお前に暗殺命令は出さないからさ」
「ハハ・・・(笑えねぇよ!これだけ上手く気配を消せる相手・・・
狙われれば、本当に命が危ぶまれる・・・
敵には回したくないな・・・)」
「じゃあ次、隣の食事に夢中な奴・・・パキアよろしく」
「ん?もごもご・・・ホイラ(オイラ)の番?」
「・・・
(さっきからメッチャ喰ってるコイツ・・・こいつも初顔だな・・・)」
「オイラ、僧侶のパキア・パキア。よろしくね」
そういうと、再び食事を始める男。
もはや言葉を失くすアーマスとラキット。
「あ~・・・この通り、飯に目がない奴でね。
僧侶っていうか、生臭坊主でね。見たままの破戒僧さ。
おーいパキア、いくら俺のおごりでも、そろそろストップだ」
「へ・・・終わり・・・?」
しょんぼりするパキア・パキア。
「そう。お仕置きは嫌だろ?」
そう笑顔で告げたエンドの目は笑っていなかった。
パキアは名残惜しそうに、最後の一口を頬張り、沈黙した。
「いい子だ。さぁ、次は・・・」
「私!私の番ね!」
「あ、あぁ・・・ゼルディア。君は別に必要ないと思ったけど・・・まぁいいか」
「ゼルディア・マスカレイドです。よろしくねアーマスさん」
「!・・・ゼルディア・・・!?
ゼルディアって、あんたが”あの”ゼルディア・マスカレイド!?」
アーマスが驚くのも無理はない。
冒険者界隈に留まらず、その名は広く知られているからだ。
「懸賞金1億Gの賞金首・・・!!S級にランクされるお尋ね者・・・!!
手配書の髪型と違うから気づかなかったけど・・・
確かに・・・本物だ・・・!!妖艶魔女<ビウィチングウィッチ>」
思わず席から立ちあがってのけぞる位にはヤバイ相手である。
「しー!声が大きいですよ!せっかく髪型まで変えたのにバレたら面倒でしょ!
というか、驚くのはともかく、そんなに怯えなくてもいいのに。
お姉さん、傷ついちゃう」
驚くと同時に身震いしていたアーマス。
警察組織や賞金稼ぎも手が出せないと言われるほどの相手が目の前にいれば
怯えるなという方が難しいだろう。
「いや、ビビるでしょ・・・さすがに・・・ハハ・・・」
「久しぶりだな、ゼル姉」
ラキットとゼルディアはギルド・ツインドラゴン時代の仲間で、
当時から一緒に仕事をしたり、手ほどきを受けたりと、何かと世話になったようだ。
「ラキットちゃん、久しぶり。3年ぶりかしら?
変わりないようで安心したわ」
「そっちも変わってないな・・・
(ツインドラゴンを抜けて、もう3年・・・か。
俺も少しは腕を上げたからわかる・・・ゼル姉の強さが・・・!!
体を覆ってる『気』の質・・・密度が、並じゃない・・・!!)」
「じゃあ最後はリーナ、よろしく」
「リーナ・ユリィアです。ま、魔術師をやってます。
よ、よろ・・・宜しくお願いします!」
「お、おう・・・よろしく・・・
(なんだぁ・・・!?
このエルフの姉さん(?)メッチャキョドってるな・・・)」
「え、えと・・・その・・・すみません!」
いきなり謝られても・・・と思うラキットとアーマス。
愛想笑いで返すしかなかった。
「はは・・・
(心なしか顔色も悪いし、心配になるな・・・
なんでこんな奴が牙に・・・?)」
戦闘特化の強者揃いの少数精鋭・・・それが牙の特色。
そのギルドの色には、あまりにも違う印象の彼女。
この表面上とは違う顔が、別にあるということなのか。
「御覧の通り、彼女は極度のあがり症なんだ、可愛いだろ?」
「も、もう!からかわないでください!」
「・・・は?(イチャイチャ・・・?こいつらデキてんのか!?)」
「ごめんごめん、彼女もお前が抜けてから入った新入りさんだ。
まぁ、何かと陰気臭いウチの癒し担当・・・かな?」
「い、癒し!?・・・めめめめめ、めっそうもないです!」
「な?」
”こういうところが可愛いんだ”、エンドのにやけ顔は、そう語っているようだった。
悔しいが確かにその通りだと思うラキットとアーマス。
「いいお仲間たちだな・・・
(リーナ・・・か、癒し担当・・・本当にそれだけなのか・・・?
そんな理由だけでコイツが仲間にするとは思えないが・・・)
それより、もう自己紹介はすんだろ、さっさと本題に入ってくれよ。
俺たちも暇じゃないんでね」
「そうだな。じゃあ、単刀直入に言おう。
”エンドレスブルー”を手に入れて欲しい」
『!!』
驚くラキットとアーマス。
「エンドレスブルー・・・だと!?」
「そう。『虹色の宝玉』の一つ。知ってるだろ?」
ディープレッド・フィアスオレンジ・リミットイエロー・ウィンドグリーン
エンドレスブルー・シンクインディゴ・カースパープル
これら7色の宝玉は『虹色の宝玉』と呼ばれている。
「当然知ってるさ。入手難度Sクラスの大秘宝じゃないか。
世界アイテムガイドにも載ってるし、冒険者なら一度くらい見聞きしてるもんだろ?
だけど、実物が現存しているのかは、かなり怪しいだろ」
「確かにね。でも俺は高確率で現存してると睨んでる。
伝説の冒険王”トマス”の日記を手に入れた。それが根拠だ」
「!・・・マジか!」
冒険王トマス・・・かつて世界を股にかけた冒険者である。
今ではファリス・ナーシスが、その称号・冒険王を勝手に名乗っているが、
トマスは自称ではなく、その功績が評価され、周りが呼んだ本物である。
そんな彼は、自分の冒険日記をいくつも残しており、
見つかった日記の内容から新たなダンジョンやアイテムが見つかった事例も少なくない。
「とはいっても、一部だけどね。
その日記によれば、トマスはエンドレスブルーが眠る
セブンスダンジョンの1つ、『ウーラネウスの地下迷宮』に挑み、
最下層にてエンドレスブルーを見つけたようだ。
だが、彼は実物を目の前にしながらも、エンドレスブルーを
持ち帰らなかったと書いてある」
「はぁ!?なんで!?」
「それが、理由までは書いていないんだよなぁ。
トマスがダンジョンに挑んだのがいつ頃かは定かじゃないけど、
確か、トマスは20年くらい前・・・80歳くらいで死んだって話だよな?
だから、ここ100年の間の話であることは間違いない。
ウーラネウスの地下迷宮に挑む馬鹿の話は時々噂程度に聞くが、
エンドレスブルーを持ち帰ったって話は聞いた事もないしな。
つまり、エンドレスブルーはまだダンジョンに眠ってる・・・!」
「まぁ・・・確かにS級の大秘宝を入手しながら秘匿してるのは、
無いとは言い切れないけど、限りなく低い気がするな・・・
協会に提出すれば一生遊んで暮らせるくらいの報奨金は貰えそうだしな」
「だろ?よっぽどのバカか、コレクターでもない限り、金に換えるはず。
協会への寄贈や世間に出回ってる話も聞かない以上、
やっぱりまだ残ってる可能性が高いと思うわけ」
エンドレスブルー他、虹色の宝玉は世界アイテム全集・・・
一般的にアイテムガイドと呼ばれる誰でも見られる書籍にも記載されており、
虹色の宝玉に関しては、それが眠るダンジョンまで記載されており、
それらのダンジョンは、すでに全て発見されている。
ただ、いずれにおいても現存しているかどうかの確認は取れていない。
今まで何人もの冒険者や調査隊がダンジョンに挑戦しようとしたが、
そのほとんどの人間が入る前に諦めている。
”条件”が厳しすぎるからだ。
「仮に・・・エンドレスブルーが、まだダンジョンに眠っているとして、
狙うには、あまりにも代償が大きすぎるだろ。
お前もそれが解ってるから俺に頼んでる。違うか?」
「そうなんだよねー・・・
入場料が”今まで積み上げてきたもの”つまり、研鑽・・・
必死こいて努力して鍛え上げた身体能力、気力・魔力・天力などなど・・・
下手すると”オラクル”まで失いかねないっていう・・・
まさに超ハイリスクなんだよねー」
「加えて、誰もが資格を得られるわけでもない。
まずは入場試験があるんだろ?守り人の試練・・・!!
ある程度の強さを示せなければ入れないって話だったはずだ」
「まぁ、多分そっちは大丈夫だと思うんだよね。
お前たちでもさ」
「つーか、やらねぇぞ、馬鹿らしい!
Lv1になってまで仮に宝を手に入れたとして、
お前にくれてやるなんて、こっちには何も得がねぇじゃねぇか!」
「当然、見返りは用意してるさ。
まだ探してるんだろ?”天使の泪”をさ」
「!!」
ラキットは、かつてのギルド・ツインドラゴンの団長であった、
ブルーズを生き返らせるため、完全蘇生が出来るという”天使の泪”をずっと探している。
だが、その手がかりすら掴めなていないのが現状である。
「手に入れたのか・・・!?」
「いや、残念ながら手には入れていない。
だが、手掛かりは掴んだ。俺の読みでは、この情報を元に辿れば、
実物、あるいはそれに近づける新たな情報を得られる事は間違いないだろうな。
どうだ?改めて検討の余地はないか?」
「・・・ハッ!お話にならないな・・・!
実物ならまだしも、ただの情報って・・・
その情報が確かなものだと、言い切れる根拠でもあるのか?」
「根拠・・・か。ほらよ」
エンドがラキットに向けて何かを投げた。
「!?・・・これは!?」
「天使の泪・・・の欠片だ。
まぁ使用済みで割れた奴だけどね。
根拠としては十分だと思うが?」
「おいラキット、騙されるなよ!?それが本当に天使の泪かもわからねぇんだろ?」
「いや・・・俺は一度、天使の泪の実物を見た事がある・・・
この輝き・・・・・・おそらく本物だ・・・!!」
「さぁどうする?やるか、やらないか」
ラキットには迷いが生まれていた。
どう考えても無茶な要求ではある・・・が、
エンドが掴んでる情報も、そう簡単につかめるものではないのだろう。
「おい、ラキット!バカな考えはよせよ!?
今まで積み上げてきたもの、全てを失うんだぞ!?」
「アーマス、君は黙っててくれ、俺はラキットに頼んでるんだ」
「くっ・・・!!」
この数年、ラキットは天使の泪がありそうな場所は、
街・ダンジョン問わず探し回ってきた。
だが、手掛かり一つ掴むことが出来なかった・・・
天使の泪もまた、虹色の宝玉同様・・・いや、それ以上の超S級のレアアイテム・・・
「~~ハァ・・・わぁーったよ!!
お前の依頼、受けるぜ・・・!!」
悩んだ末に、ラキットはエンドの依頼を受ける事にした。
「交渉成立だな」
「おい!!考え直せラキット!!今までの努力が全部なくなるんだぞ!?」
「心配すんな、ウーラネウスの地下迷宮には俺一人で挑むからよ」
「ラキット・・・お前・・・」
「リーナ」
「は、はいです!行きます!!」
エンドがリーナに合図を送ると、リーナは瞬間的に魔力を発した。
するとその瞬間、ラキットとアーマスは、エンドたち牙含め一瞬で酒場から姿を消した。
次回に続く
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