Bruise Claw<ブルーズクロー>

しろん

第1話

Bruise Claw<ブルーズクロー>第1話


”よくぞ最下層まで辿り着いた。

君は紛れもなく一流のトレジャーハンターだ。

だが、残念だが少しばかり遅かったようだ。

七刃魔剣は私が頂いた^q^ 冒険王ファリス・ナーシス”


「~~~~~ッ!!!

 ざっけんなよクソがぁあああああああああ!!」


ダンジョン最深部にようやくたどり着き、目の前には宝箱・・・

冒険者にとって、これを開ける瞬間ほど心躍るものはない。


ところがである。

目当ての宝箱を開けると、そこにはこのようなメモ書きが残されていた。

特に腹立たしかったのは『^q^』この顔文字であったのは言うまでもない。


冒険王ファリスの嫌がらせの置手紙をビリビリに破りながら

地団駄を踏むラキット・・・


「・・・落ち着けよラキット、余計に腹が減る・・・」


「逆にお前はよく落ち着いてられるなアーマス!

 お宝がなかったんだぞ!?B級ランクのダンジョンとはいえ、

 地下何階だっけ!?とにかく50階近く降りてきてこれかよ!?」


相棒のアーマスもラキットの気持ちは痛い程解っていたが、

すでに疲労と空腹で怒鳴る気力を失っていた。


「このファリスって野郎・・・嫌がらせのつもりなのか、途中の宝箱には目もくれず

 あたかも誰も挑んでないかのように装いやがって・・・!!

 それが余計に腹立つ・・・なぁにが冒険王じゃ!!ヴォケェ!!」


ラキットの悪態が止まらない。

疲れと空腹に追い打ちをかけるような、この事態・・・

ぶつけどころのない怒りを発散させるには、これくらいの方法しかないのである。


「なかったもんはしょうがねぇだろ・・・

 俺はもう腹が減って一歩も動けん・・・

 ラキット、『風ネズミのしっぽ』使ってくれ」


ダンジョンから一瞬で脱出できるマジックアイテム。

冒険者にとって最低一個は持っておきたい必需品である。


「・・・ぇよ・・・」

「ぁ?なんて?」


「だから、ねぇよ!!そんなモン!!」

「はぁ!?なんでねぇんだよ!?

 ダンジョンに挑むのに、最低一個は持っとく必需品だろ!?

 何年冒険者やってんだよ!?」


空腹でも流石にこれは許しておけなかったアーマス。

ラキットの逆ギレが、まさに火に油をぶちまけてしまったようだ。


”ダンジョンに潜るなら『風ネズミのしっぽ』は最低1個は所持すべし”


冒険者の心得として、駆け出しですら知ってる常識である。


「バカにすんなよ。いくら俺だって、そんくらいの常識はわかってら」


得意げな顔をする程の事ではない。


「じゃあ、なんでないんだよ!?」

「・・・落とした」


小声でアーマスは聞き取れなかった。


「あぁ!?なんて?ちゃんと言えよ!?」


今更問い詰めた所で事態は変わらないが、

とにかくこのバカ面の言い訳を聞いて怒りをぶちまけたかったようだ。


「だから、落としたって言ってんでしょーが!!

 はい!もうこの話終わり!!」


「おと・・・いや、勝手に話終わらせてんじゃねぇよ!!

 このポンコツ・・・!!」


「うわ!ひっでー、誰にだってミスの一つくらいあるでしょーが!

 それに、そんだけ元気あるなら全然徒歩で戻れるだろ!」


何の生産性もない醜すぎる大人の言い争い。

二人とも、その怒りを脱出にそそぐという頭には切り替わらないのか・・・


「・・・・!!!~~~~はぁ・・・どっと疲れた・・・

 俺ぁもうここを動かんぞ、お前ダンジョン出て、

 風ネズミのしっぽとってこいや・・・!!」


「お前流石に最低だろ」


どっちもどっちである。


「わかった、じゃあジャンケンで決めようや。

 俺が勝ったらお前は素直に町まで風ネズミのしっぽとって来い。

 お前が勝ったら、諦めて歩いて帰る・・・」


「こいつメチャクチャだな・・・」


アーマスは一度ごねだすと聞かない、子供のようなところがあるため、

これ以上問答を繰り返しても時間の無駄だとラキットは察した。


「はぁ・・・まぁいいや、じゃあ恨みっこ無しだぜ!?」


『ジャンケン・・・ポン!!』


・・・・・

・・・


という事で、二人はもと来た道をひたすら引き返し、3日で地上にたどり着いた。

ジャンケンで負けたアーマスの絶望感に満ちた顔をみたラキット・・・

爆笑するのをぐっとこらえ、今に至る。


ちなみにここまでの道中・・・

空腹を何とかすべく、ダンジョン内で狩りをするも、空腹による体力低下など

諸々の要因で中々上手くいかず、無駄に時間がかかってしまった。


色々な事が、なかなかうまくいかない事もあり、

道中、二人の仲は、さらに険悪になったのは言うまでもない。

が、それもダンジョンを出る頃には普段の二人に戻っていた。


「まったく今回は最悪だったな」

「早く宿に行こうぜ・・・もうクタクタだぜ・・・」


二人が挑戦していたB級ダンジョン『剣王の修業場』

その名が示す通り、かつて剣王が修行の場として使っていたダンジョンである。

地下55階まである、比較的深いダンジョンだが、罠などは少なく、

純粋に魔物との戦いに没頭できるため、修行を積むにはもってこいである。


さて、ここから東に10kmほどで小さな町『タマス』がある。

ラキットとアーマスは流れの冒険者・・・

ここ最近、二人はこの町を拠点に行動している。


二人が本調子であれば、走って10分くらいで着く距離だが、

今の疲弊した二人では徒歩で2時間ほどか・・・

オマケに途中、魔物と遭遇すれば、それ以上かかる事は間違いない。


「だりぃな・・・やっぱゼファを連れてくるべきだった」


ゼファ・チェイニ、魔法使い。

転移術もお手の物、それ故ダンジョンからの脱出はもちろん、

洞窟から町への移動も彼がいれば非常に楽なのである。


アーマスがゼファを連れてこれば・・・と言っていたのは、

もちろん転移術目当てである。


「あいつはティアのパーティだしな・・・

 そう都合よく連れまわせないさ。

 あともうちょっとだろ、ぼやくなよアーマス」


勇者ティア・シザーナイツ・・・

巷で噂になっている魔界の活性化・・・

その調査のため、各地を転々としているらしい。


タマスに彼女とそのパーティが滞在していたこともあり、顔見知りになっていた。

ゼファは、彼女の仲間の一人というわけだ。


「俺らも魔法使いスカウトしようぜ・・・

 実力云々はどうでもいいから、転移術使える奴をよ」


この男・・・中々にして最低な発言が飛び出すが、

これは疲れや空腹によるものではなく、素の部分が大きいかもしれない・・・


「んな足目的の仲間とか・・・お前酷いな・・・

 だいたい普段から体力オバケのくせして、

 今日は随分へたってるじゃねぇか・・・」


「教えてやろうか?そりゃ、まともなモノ食ってないからさ」


アーマスの言い分も確かではある。

現地調達のダンジョン飯・・・二人とも料理スキルがイマイチなため、

お世辞にも旨い飯とは言えない・・・ただただ腹を満たすだけの料理・・・

おまけに栄養価も決して高いとは言えないため、体力は回復には至っていない。


不味い飯というのは、慣れる事もなく、ただただストレスなのである。


「へいへい、悪かったな。

 じゃあ、お前が料理の一つも出来るようになったらどうだ?」

「そうだな。使えない団長がいると下は苦労するぜ」


また始まりそうだ。

この無駄な言い争い・・・いい加減読者も聞き飽きてきただろう。


「あぁん!?そいつぁ誰の事だ!?」

「オメェだよオメェ!!」


このいさかいで、さらに体力を奪われる結果に・・・

馬鹿につける薬は無いのだ。


・・・・

・・


【タマスの町】


結局、2時間かかるところを、余計な喧嘩で消耗し、3時間かかってしまった。


「はぁ・・・やっとついた・・・」

「とりあえず宿・・・飯ぃ・・・」


ボロボロの二人・・・

実年齢とはかけ離れた老け具合である。


「ちょ!?二人ともどうしたの!?そんなボロボロで・・・」


街の入り口で二人が出くわしたのはミリシア・オーレシア。

この町を拠点に冒険者を生業にしている少女だ。

つまり同業者である。


密かに・・・というか、結構わかりやすくラキットに好意を寄せているが、

当の本人はまるで気づいていないようだ。


「よう嬢ちゃん・・・ざまぁないぜ、コイツのせいでえらい目にあった」


ラキットを親指で差してぼやくアーマス。

道中、あれだけやりあってまだ根に持っているとは、

このアーマスという男・・・かなりの粘着質である。


「もういい・・・好きに言ってくれ、言い争う気力もねぇよ。

 ちょっくら宿で休ませてもらうわ・・・じゃあなミリシア」


あきれ顔をしつつ、二人は宿に向かった。


「あ、うん・・・あ!あ・・・行っちゃった・・・」


どうやらラキットを食事に誘いたかったようだが、失敗に終わったようだ。

いつもこんな調子である。


【タマスの町/宿屋】


「お疲れ様ー・・・って、ボロボロだな二人とも」

「オヤッサン、ひとまず寝るわ・・・」


先述したが二人はこの町を拠点に活動をしている。

期間にして、数か月は経過しているか。

そのため、月単位で部屋を借りているわけだ。


ミリシアも同様であり、彼女もここに世話になっている。


ちなみに金の問題もあって、ラキットとアーマスは同部屋なわけだが、

普段は特に気にならないもの、今日は激しく別の部屋であればと思ったのは言うまでもない。


結局二人は何も言葉を交わすことなく、

風呂にも入らずにベッドにダイブした。


そして夜が明けた。


・・・・・

・・・


「くぁ~・・・よく寝た・・・って、アーマスの野郎いねぇな」


アーマスは空腹で目が覚めたようで、先に食事に向かったようだ。

ラキットに声をかけなかったのは、寝てたのを起こすのは悪いと思ったのか、

それとも、まだ腹を立てているからなのか・・・


「おやっさん、おはようっス」

「おはようさん。相棒はとっくに出ていったぞ?」


「ウッス、酒場っしょ?」

「多分ね」


宿屋の店主と挨拶もそこそこに、ラキットも酒場に向かった。


・・・・・

・・・


【タマスの町/酒場】


「?・・・なんか妙にざわついてるな・・・まだ朝だろ?」


朝の酒場には珍しく人だかりができている。


「!!」


ラキットの表情が一瞬にして強張る。

理由は明白だった。

人だかりの中に”奴ら”がいたからに他ならない。


「お、噂をすれば・・・よう兄弟、久しぶりだな」

「エンド・・・!!」


エンドと呼ばれた赤髪の男、その取り巻き4人・・・

ラキットにとって見知った顔もあれば、知らない顔もある。


「朝っぱらから、そう怖い顔するなよ。探してたんだよ」


エンドと仲間たちはアーマスを囲っている。


「アーマス!!」

「大丈夫だ、何もされちゃいねぇよ」


エンドの脇を通りすぎ、アーマスに駆け寄るラキット。


「おやおや、俺を無視してお仲間の心配とはね・・・

 なんかちょっとショックだな」


「”牙”の団長が部下なんか引き連れて、この田舎町に何の用だ」

「何の用だ・・・って、だからお前を探してたんだよ兄弟」


ギルド『牙』

エンド・ヴァイオレントを団長に、戦闘力の高い団員のみの少数精鋭ギルド。

かつて存在していたツインドラゴンというギルドにエンドもラキットも所属していたが

団長のブルーズの死をキッカケにツインドラゴンは解体され、

エンドは所属していたメンバーと共に牙を立ち上げた。


一方でラキットは仲間に声をかけることなく一人で『ブルーズクロー』を立ち上げた。

ドラゴンの牙と爪の名を引き継いだ二つのギルド・・・


「俺を兄弟なんて二度と呼ぶんじゃねぇよ・・・殺すぞ」

「よく言う。それが出来ないのはお前が一番理解しているくせに」


エンドはラキットに近寄り、彼の顔に自身の顔を近づけ挑発した。


シュッ!!


瞬間!凄まじい速さでラキットはエンドの顔面に向けて拳を走らせた!

だが拳は空を切り、エンドは引き続きほくそ笑んでいる。


「フフ・・・怖いなぁ。今のパンチ・・・お前本気だったろ?」

「・・・チッ!!」


「とりあえず落ち着こうぜ。何も戦争しに来たわけじゃないんだ」

「そうかい?じゃあ、テメェらから発してるその殺気は一体なんだってんだ・・・?

 言ってる事と、全然あってないんだがな・・・!」


アーマスが口を挟んだ。


「君がギルド”ブルーズクロー”の団員クンだったね。

 確か・・・そうそう、アー”ム”スだっけ?」


「アー”マ”スだ。つーか、マジで喧嘩するつもりじゃねぇなら、その殺気をやめろ。

 飯がまずくなる・・・!」


「ふふ、いい度胸をしてるな・・・しかしだ。

 あの血の気が多くて有名な戦闘民族のグラッド族様が、

 この程度の殺気にイチイチ障ってんじゃねぇよ。”アナグラ”が」


ブンッ!!!


再びラキットが殴りかかるも、またも空を切った。


「手が速いのは相変わらずだなラキット」

「これ以上、仲間を侮辱するんじゃねぇよ・・・マジで殺すぞ」


戦闘民族グラッド族は、その戦闘力の高さ故に、他国から脅威とされ、

圧倒的な物量によって攻められ、土地を追われた過去の歴史があり、

行き場を失った結果、洞窟生活を余儀なくされていた時期がある。


そのため、一部では彼らを”アナグラ”と差別する連中もおり、

エンドのその呼称に腹を立て、殴りかかったのである。


「落ち着けラキット、ここじゃまずいだろ。つーか、何でお前がキレてんだよ」

「・・・別にキレちゃいねぇよ!」


自分のために怒ってくれる相棒。

何だかんだ小競り合いはあるものの、互いに認め合っているのだ。


「わーったよ。これじゃマジで話にならねぇし、アーマス君に免じて抑えてやるよ」


エンドが合図すると同時に、5人から殺気が消えた。


「これでいいだろ?あと、アナ・・・おっと、また殴りかかられそうだ。

 さっきは差別用語を口走って申し訳なかったね」


「気にしちゃいねぇよ。慣れたもんだからな。とりあえずここは酒場だ・・・

 なんの関係もない一般人を巻き込むような真似はやめてくれ」


「・・・だな。俺たちも大人気なかった。申し訳なかった。

 お詫びの印に皆に一杯ご馳走させてくれ!」


『おーーーー!!』


これには何も知らない客たちはテンションをあげた。


「じゃあ、あっちの空いてる席で話そうか。ラキット」

「・・・わかった」


次回に続く

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