第三話 怜悧だが堅物の白魔術師 逢坂由貴



あぁ、憂鬱だ…。

 私こと天王寺てんのうじ由貴ゆきはフライドチキン共和王国に召喚された転生者で以下略。

約9か月の同王国の訓練を終えて晴れて一人前の冒険者となる私達は今日皆で王立ギルドにその手続と登録をしに来ていた。

「おい見ろよカナのやつ、肩書き『残念な落ち葉の魔女』だとよ!あっはっは!残念っ!!」

「なっ!ワッキーこそなんてかいてあったんですか!?見せてくださいっ!?!?」

「ふっふっふ、俺はなソッコウの斥候だ!!どうやら登録水晶も俺の迅速な素早い動きの斥候ぶりを高く評価したらしいな!」

「なっ!?そんなワッキーに限ってそんな評価ありえませんよっ!!!!って、これ…、速攻じゃなくて側溝じゃないですか…、はぁ、びっくりして損した…。」

「ギャハハハ、馬鹿だこいつ、漢字の意味もわかんねぇとか」(ギフトカードには親切にも読み仮名が振ってある)

「そういうジェシーこそなんてかいてあったんだよっ!?!?」

「私か?…ちょっと待て、今刻印が終わるから」

ジェシーは石版の顔の口からカードを抜き取る。

「大食い…巨漢」

「「ぶわっはっはっはっはっ!!!!」」

「ぴっ、ぴったりじゃないですかジェシー!良かったですね、魔王を見事倒したあかつきにはこの通り名が後世まで伝えられますよ!!」

「そうだぞ、全く持ってこりゃ傑作だ!!!良かったな、もうこれギルドカードじゃなくて食券って読んだほうがいいんじゃねえの!?!?」

「ぶっ…、ぶっ殺す手前てめぇら!!!!!」

「ド陰…」

既に登録を終えたバカ四人組(カナ、ジェシー、ワッキー、ケント)が向こうの方でキャイキャイやってる。

なんであんなテンション高いんあいつら…。

アホ四人組は一通りはしゃぎ終えると他の人のギルドカードの内容が気になって仕方ないらしいくて、わざわざ私が水晶に手をかざすのを待ってこっちをワクワクしながら見てくる。どうせコイツラの期待してる私のギルドカードの肩書きなんて大体予想がつく。どうせガリ勉とか真面目過ぎてつまんないとかそんなんやろ?

私は勉強しか取り柄がない感じの、いわゆるガリ勉とかって言われるタイプだってちゃんと自覚してる客観性をちゃんと持った人間やから今さら気にせぇへんけどな。ちなみに言っておくけど、一応中高の5年間はテニス部のエースで部長とかでもあったんよ。別に友達もいたし。

別に友達もいたんやけど、なぜか校則に則ってどう考えてもが、

なぜかチャラッチャラした風紀の一つも守れないアホどもの目の敵にされて、

なぜかそれはこの9ヶ月間の私以外の十五人の転生者との生活でも同じだった。

別に気にしてないけどね。友達もおったし。中学3年の時に告白した相手から、「ほら、由貴って真面目だからさ、なんか窮屈っていうか、俺なんかとは一緒にいても多分合わないよ」なんて言われたのも全っ然気にしてないから。今もギルドカードに『堅物の』とか余計な肩書き加えてくれた水晶にも全然怒ってないから。友達もおったし。

 腹立たしいギルド登録を終えると今度はギルドの受付のお姉さんが詳しいギルドのシステムなんかについて説明をしてくれる。真面目に聞いてるやつなんてほとんどおらん。つーかケントとかいびきかいて寝てるし、ありえな。もちろん私は真面目に聞いてるし、重要事項はメモも取ってる。友達もおった。

それにしてもクエスト報告書って意外と細かく記入しなきゃいけないんやな、なんか驚き。以前ギルドを見学しにいったときには王立の、つまり私営のじゃないギルド"にも"関わらず、出入りしてたのは前の世界では渋谷とか原宿辺りにいそうなこれもくっそチャラい奴等ばっかやったのに。あんな見た目の奴らがこの報告書を真面目に書いてるとは思えへんねんけど。ま、私は当然書くけどね。

 私と同じ様に部屋でギルドの受付嬢の話を聞いているのは私ともう一人、ウーメルという長身の男。こいつと、今話なんて全く聞かずに窓の外を見ている泰晴という男はなぜか実技のみならず学科もでき、私は成績順で三番手の煮え湯を何度も飲まされた。たまに学科でウーメルを抜いて2番になれたことはあったけれど、ついぞ泰晴の1位の座を奪えたことはなかった。しかも何が腹立つってこいつ大して真面目に授業も聞いてないくせに飄々とテストはできるところ。どうせ「いやー、テスト勉強俺全然してねぇわー」とか言いながら一ヶ月以上前から計画的にコツコツやってるタイプに違いないこいつは。そうそう、いたいた、そういう奴ウチの学校にも。マジで腹立つ。

けど、そんな奴より下の順位の自分が一番腹立つ。だから冒険者になったらクエストをこなして絶対見返してやると心に誓っている。見ていろ。

 冒険者登録が終わると寮に私達は帰る。

共和王国は他にコンドーと言って事前に申し込みをしておけば格安で住める場所を訓練終了後の召喚者に提供してくれるらしい。

まぁ、引き換えに王立ギルドでの専属契約と斡旋クエストを定期的にこなさなければ行けないらしいけど。

既に先輩から聞いた話ではそれらの他にある小さな条件付ノルマも大したことはないらしいからそこに一先ず身の振り方がわかるまで移り住むのは最早伝統になりつつあるらしい。

だから8期は皆全員来月からここで生活する。ウーメルや、泰晴と私は成績が良かったので初年度の設備費とか家賃なんかは無料になるらしい。ラッキー。

寮とは違って、コンドーは今風の作りの建物で、寮が旧校舎ならこっちは新築の私立高校のちょっと金かけてあるプレハブって感じ。

キッチンも部屋もきれいやし、インテリアには観葉植物なんかも置かれて、LED電球の明かりが異世界に来ていきなりボロ校舎のあばら家みたいなところに突っ込まれた私の不安を少し取り除いてくれている。だって寮のトイレとか最早厠って呼んだ方がええんちゃうかって位に未だにボットン便所やったし…。

 コンドーに未だに荷物を移し終えてない計画性の全くないカナの荷物運びを手伝いながら私は異世界に引っ越してきて、それも寮ぐらしでわずか半年あまりの間にどうやったらこんなに物が溜められるのかと理解不能な彼女の生態について考察していた。

「カナ、ちょっといいか」

「えぇっ!?今日中に荷物運び込まないとまたスアラン教官に反省文書かされるんだけど…」

「すぐ終わる。終わったら手伝ってやるから。」

「うん…、まぁ、ならいいけど」

中々現金なカナはそう言ってウーメルと寮の外の中庭へ向かった。

え、うちなんでこれ一人で他人の荷物運んでんの?

いや、別に珍しく真面目な顔でカナのこと呼びに来たウーメルとカナが何話すのかは全然気にはなってないけど、なんかおかしくない?

「召喚前には感じたことのない胸のもやもやを抱えながら、ちょっぴりの罪悪感をその横に置いて天王寺由貴は二人の会話を盗み聞きに中庭へ二人を追った…、って、あ゛っ、いでっ!!!俺ちょ、やめて由貴さん、冗談ですって、そんな少女の可憐な儚い恋心にズカズカ踏み込んだりしな、あ゛っ、いだっ、ちょ―」

「なんでお前がここにおんねん!ケント!!」

「違っ、たまたま通りかかって…!!?ちょ、まって由貴さん!?腕が曲がってはいけない方向に…、あ゛、やめてっ!未来の伝説のスナイパーの利き腕がッ!!!」

私は仕方ないのでケントの腕を逆さ十字にして背中に固定しながら連行しつつ二人の後を追った。

いや別に違うからねっ?

全然二人の会話とか気になってないからね?

ただちょっと二人の共通の友人として何話しすんのか気になって一応確認しに行くだけやからね?

「悪りぃな、実はさ俺とチーム組まないかと思ってよ…、カナまだパーティ組んでなかったろ?」

「………。」

「………。」見つめ合う二人。流れる沈黙。

「へっ!?いやいやいやいやいやいや、ナイナイナイない!!ないよ!無理だって!!絶対!!!!ないでしょ普通!?!?」

「んな拒絶されると確かに凹むわ。」

「いやっ、ちがっ、そうじゃなくてっ!!!!ウチ普通に成績ドベだし、絶対足引っ張るからウーメル君の!!」

「ん、まぁそう言うだろうと思ってたんだけどさ…」

「……。(否定はしてくれても良かったんだけどな、いや別に事実なんだけどさ…。)」

「……。(今のは否定すべきだったか…?)」

「いやほら俺泰晴と組もうって話しててさ、俺等二人共治癒魔法あんま上手くねぇから、ガチでカナみたいに治癒魔法使えるやつがパーティにいてくれるとすげぇ助かるんだわ。別に他に嫌な理由があるとかなら全然断ってくれても良いんだけど、もし俺等の足手まといになるのを気にしてるとかだけだったら、それはマジで違う。もしそうだったら考え直してほしいんだ。」

「えぇ…、っと、ねぇ?」

なんでコイツ疑問形なん?普通に成績ツートップの二人とグループハナから組めるとか、断るならその位置ウチと変われよ!!

「おおっと…、これは三角関係的なあれかっ…?!?!って、イデっ!!いでっえって!!」

ケントをオーク用の関節技練習の実験台に無意識のうちにしていたら少し力を入れすぎたらしく、そのケントの叫び声で私達が盗み聞きしてるのはあっさり二人にバレてしまった…。

「あん゛れっ!?なん゛にしてるだケントっ!?」

なんで山形弁?

「それに由貴さんまで…!!」

 「「あはははは…」」

「やばい…、ケントとカナに近寄りすぎたせいで私もバカキャラの立ち回りになりかけてる…」

「おい天王寺、お前今心の声がっつりセリフにしてっからな?はっきり聞こえてっからな?」

「そうですよ!!ひどいですよっ由貴さんっ!!その心の声を実際言っちゃうの私のネタなのにっ!!!!」

「お前ら何やってんだよ…ったく、さっきの話聞いてたのか?」

「まぁ…、一応。ね、もしパーティに治癒魔法士が必要だっていうんならウチがカナの代わりに入ろうか?」

自分で言ってからしまったと気づいたがもう遅い…。

「お前はガネリオ達ともう組んでんだろ?今さらヘッドハンティングは気が引けるってもんだ…、それに泰晴の意見も聞かないと」

「そ、そやんなぁ…」

「姉さん、作戦失敗っすね(小声)、大丈夫っすよ(小声)、ウーメルに限ってカナ狙いは無いはず…ゴホハッ…!!」

対ゴブリン用殺人みぞおちを決めケントを黙らせる。だがこいつの言うことは一理ある。他の変な女がパーティに入るくらいならさっさとカナにパーティのその空席を埋めてもらったほうがよっぽど安心できる。

「ってことらしいしカナ!やっぱパーティ組ぃや!もしレベル気にしてるならウチ特訓付き合うからさ!」

「ってあの天王寺さんからも推薦が来たがどうするカナ?」

「え、えぇ…」

あぁ、もう!なんでコイツはこんなにいつも優柔不断なん!!?

「じゃあこういうのはどうだ、俺達と仮にパーティを組んで一度クエストを受けてみよう。それでだめだったらそれまで、だか一回はトライしてみる、どうだ?」

ウーメルは基本誰にでもこういう強要とか高圧的な態度を絶対にしない。先輩冒険者の話では隔離されたいわば無人島状態の異世界でつけあがる男とか無駄にマウントを取りたがる女子もいるらしいけど、幸いにも私等の代ではそういうのはいない。連れション軍団は相変わらずいるけど。

「じゃ、じゃあ、一回だけ?」

なんだその合コンでなし崩し的に持ち帰られる女みたいなセリフは、カナじゃなきゃ今すぐザキをぶっ放してるところだわ。

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異世界勇者様の隣のとなりっ! ken.ji0827 @aimaikenji

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