第1章 フライドチキン王国の勇者達

第一話 諦めた勇者の述懐






どれほどの数の人間にこれから話すことをわかってもらえるだろうか?

道路脇、道端に恥知らずに寝っ転がって、その実怯えている。

過ぎ去る足音が自分の為にやってくるのではないこと、それは悲しいことなのか、安堵したくなるようなことなのか、それすらもわからないでいた。

自分が誰かに手を差し伸べてもらえる程何かをしてみせたのか、

誰かに恐怖のどん底に貶められなくてはいけないほどの酷いことをしたのか、

何もわからない。

ある人はLはМと同じだという、ある人はМはNだという。

だから勝手にLはNだと思っている。

花を贈ることは愛で、愛は身勝手でわがままだと。

花を贈ることを墓前に手向けること、書いた文をくるめて渡すこと以外で知らなかったから、自分が愛について何も知らなかったことを気付かされた。

それで結局今もわからないで、ダラダラ日記にこうして文を書いている。

腕の上のしびれと、君のあんまり重くない頭の温もりと、なぜか二人で立ち向かう羽目になった社会から遠慮なしに押し付けられているような気のする無駄なストレス…

それはやはり高架線下の悲しげに張られた小さなテントの下で、その周りを車がお構いナシに、電車が遠慮深く、規則的無作為な順番で、けたたましく、権柄けんぺいに私達を沈黙させようとしている。

もうなにかを堪えれるほど大人でも、我慢強くも、熱血な主人公でもない。

もうなにかを叫べるほど子供でも、素直でも、諦め悪いヒーローみたいなやつでもない。

君の隣にずっといて将来の事を考えられるほど器量の良い大人でも、紳士でも、まして正直者な少年でもない。

影の中、闇の中、植木の更に下の地中深くに眠っているほうがいい。

愛はそっちにあって、幸せな悲しみもそっちにあって、光も不幸も全部そっちにあって、勝手にそっちでそうしていてくれればいい、そんな風にさえ思えてきてしまう。

なんせ、車が通り過ぎるたびに、人々の声が聞こえだすたびに、もう覚えてもいない酷く愚かな自分が過去から現在までずっと犯し続けているツミが追っかけてくるような気分なのだから。

君を置いて僕は一人逃げてしまうだろう、さようならと書き残しもせずに、君の幸せは、きっとその逃げた先でも微妙に祈ってるだろう。

許せとも、ごめんとも書かないのは、そうすれば君が「御免被りてぇのはこっちの方だよ!」と豪胆に優しい嘘をつくことを知ってしまったからかもしれない。











 事故死、転生、王国から魔王討伐を言い渡される、なんとも異世界モノのテンプレパターンを見事に看破した俺、砂崎泰晴はこのフライドチキン共和王国の【異世界勇者召喚計画】とかいう大層な名前のついた計画の第103号として魔王討伐を命じられた。どうも先輩が百人以上も居るらしい、俺だけ異世界、かつ俺だけTUEEEEを国王との面会前に期待していた俺は正直残念に思ったが、まぁ王国も魔王討伐しなきゃ死人なりが出て国の運営が大変になんだから数呼べるなら呼ぶわな、仕方ない。

職種は勇者。何だそれは?って?、まぁ戦士みたいなもん。剣と盾でオールマイティに前中後衛をやりつつ、全体の指揮をやらなきゃならない。

召喚されてからの半年ほどは色んな訓練を王国騎士団から受ける。その間に他の召喚された"異世界人"とも顔見知っていく。後にパーティを組むことになる魔法使い、戦士、僧侶とはこの時に出会う。他にもビンセントやマーカスっていうすげぇ気の合う親友達ともこのとき辺りには既に顔見知りだった。

 王国騎士団の訓練を半年間受けると実地訓練と言って今度は城近辺のクソ広い草原や洞窟やらの雑魚ザコモンスターを討伐に行くことになる。もちろん騎士団の強ぇ人の同行付だけどさ。さっき言ったのちに仲間になる魔法使いは俺のすぐ後に呼ばれた、まぁいわゆる同期に当たる感じなんだけど、本番に弱いタイプでスライムやゴブリン退治にも一苦労って感じで今も早速目の前でゴブリンに襲われている。

えっ?俺はどうなのかって?

もちろん俺は皆の期待通り、基本攻撃力は戦士並、魔力は赤魔術士並、防御力はゴーレム並にも匹敵と、王国始まって以来二人目の有望株として非常に期待されてるわけだ。

だからこれからさっき言った魔法使いラナのサポートにさくっと入りながらイケメンポーズを決めるところ。


「必殺!五分五厘斬り!!」


シュバッ!!


5匹のゴブリンを斬り伏せ、ゴールドがチャリーン!いくらになったかは皆の予想通り…。

「おい、大丈夫かよ?演習で習ったろ、移動中に魔力を溜めて隙見せんなってよ!」

「う、うん、ごめん…」

「ごめんじゃなくてこういうときゃありがと、だろ?(キラーン)」

「そ、そうだよね…!!ありがと!!」

まぁこの物静かなドジっ娘に俺のみならず他の一緒に訓練を受けてる男子なんかは軒並み恋の魔法をかけられてる訳だが…、っとあぶねぇ、上官が草原の端のほうでしっかり見張ってら。

「おい、8時の方角からゴブリンの群れが接近している、油断せず迎撃せよ!!」

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」


そうして総勢15名の王国に召喚された今期勇者軍見習いの俺達は無事実地訓練を終え、皆で共同生活してる王国の端のほーにあるプレハブ小屋よりはいくらかマシな木造簡易住居に帰って夕飯を頂く。今日の料理当番誰だっけ?

「おーい、今日の夕飯はなんぞや?」とくりやを覗くと中には二人、天王寺とユーメルが恐らくは鍋うどんみたいなもんを作ってる。コンソメの匂いが香ばしい。

「今日はムキムキ剥き栗とカチゲーチゲの煮込み鍋うどんだよ、デザートはツヤツヤ八つ橋ね!」言ったのは天王寺。天王寺は学級委員とか風紀委員やってそうなザ優等生のおさげの眼鏡っ娘。

「なんだよタイセイ、つまみ食いはなしだぜ?」ウーメルは赤茶の髪の背が高いガタイの良い奴。元は東ヨーロッパ出身らしい。

そう、俺達は国籍人種ばらばらで集められてる。最初は戸惑ったけれど、同じ人間とこうして交流できるのは大学で国際コミュ専攻だった俺にはすげぇ楽しい。

「腹減ってんだよー、なんか手伝うことない?味見役とかさ。」

「もう少し待って、もうできるから。」

「じゃあフォークとか出しといてくれよ、俺の分の箸もな」ユーメルは日本オタクらしく、この世界に来てからというもの俺や天王寺、ラナに日本の文化の事をやたら聞いてくる(主にアニメ、それもFateと物語という典型だ)。食事も箸を練習して使うが上手に使えてるとこは見たことがない。

「あいよー。」

そうして皆で食卓を囲む。優しい会話の喧騒の中、一人鍋うどんをズルっズルッ言わせながらこの生活も後2ヶ月もすればおしまい何だよなーなんて考えていた。ここを出たら俺達はそれぞれギルドに登録を済ませ一人前の王国付き冒険者として各自やっていかなくちゃならない。別にそれではいさよならってわけじゃないが、何だか高校の卒業式を目前にしたうら寂しい感じは皆にあった。だからこういう皆でする夕飯とかの一つ一つにも何だか切なさが漂う。

それもあってか、食事を終え自室に戻ってベッドでダラダラしているとウーメルが部屋の扉をノックした。

「入っていいかー?」

「おう。」ユーメルが俺の座る簡易ベッドの前の椅子に座る。

「夕飯の鍋うどんめっちゃ美味かったよ。」

「そりゃどうも。けど下ごしらえとか指示出してくれたの全部天王寺なんだ。あいつすげぇよな、異世界の食材の調理方法なんて、元いた世界に比べりゃデタラメもいいとこなのに、図書室とか王室の給仕に聞きに行ったりして調べたりさ」

「まぁ、真面目だからなあいつ。治癒魔法士ヒーラーはパーティの食事や衛生面にも気を使うべきなんですって講義中に上官に言ってのけたときは正直うわ、出たって思ったよ。」

「あぁ、ありゃ確かに肝を冷やしたな。なんせあの上官なんかあったらすぐ「連帯責任っ!!」、で、俺等は外周に反省文だ。ま、結果的に上官も納得した様子で褒めてたけどよ。」

「お陰で俺等の次の代からは調理科目も必修だとよ。めんどくせ」

「何だタイセイ、お前、料理嫌いなのか?」

「俺は食う専門。ウーメルは料理してたのか?」

「あぁ、一人暮らしだったからな。つってもジャガイモとソーセージの焼き方さえ知ってりゃビール飲むには困んねぇんだけどよ。」

「さすが。」俺は眺めてただけの本を閉じる。

「あぁーあ、この共同生活も後2ヶ月で終わりか…」ユーメルは伸びをしながら背筋をポキポキ鳴らし、名残惜しそうに呟く。

「せっかく異世界に来て半年も訓練して外の世界の冒険お預け食らったんだ。外出たら絶対ぜってぇ暴れてやる…!」

「お前らしいな、怖くはないのか?」ウーメルが少し真剣な表情をする。

「怖いって魔物とかか?今まで遭遇したのは比較的雑魚ばっかだったからな…」

「いや、それもあるが、死ぬ事…、とかさ。」

少し会話が足を止めた。この世界で勇者一行として呼ばれて、死は身近なものであると気付かされた。先に王国に召喚された先輩方が既に何人か亡くなっていること、モンスター達が自分達を殺す気で襲いかかってきていること、そういうのが死の輪郭を少しずつ、まるで綺麗に塗り絵をするときのように自分の頭の中心に向かってやってくる。それにこの異世界では死んだら教会で目覚めて「おぉ、勇者よ、死んでしまうとは情けない。」なんて神父か牧師に言われてやり直すシステムはない。

俺達は皆暗黙の了解で互いの前世のことや、死んだときのこともまた聞いたり話したりしない。思い出したくないやつもいるだろうし、本人が自分から喋る分にはそりゃいくらでもって聞くって感じだけど。だから、まぁこの半年でそれなりに互いの事を知って、少し踏み込んだ会話をしようとウーメルがしてくれてるのは全然嫌じゃない。けれど俺は前世の事も、死んだときのことも正直あまり思い出したくはない。

「いや、別に…。」

また会話が二の足を踏む。

「そっか…、俺はさ前世で結構不運な死に方してさ、こうやって生まれ変われたからにはなるべく楽しく長生きしたいんだ。この異世界もザMMORPGって感じで、ゲーオタの俺としては天国みたいな所もあるしさ。」

「そうだなー、初めて剣とか握ったときとかは俺もちょっと興奮した」

「ヤバい性癖のやつじゃんそれ!笑」

「うるせぇよ笑そういうことじゃねぇ!」

俺達は二人共暗然としたそれまでの会話を無かったことにするかのよう、努めて声の調子を明るくする。

丁度廊下をいつもいい歳して走り回ってる馬鹿二人コンビが「ふざっけんな!私のデザートのアイス返せ!!」「追いついてみろデーブ!」とバタバタさせていった。

「あいつらはいつもアレだな…。」

「それがジェシーとワッキーの良いところじゃんか」

俺は同意しかねる。

「なぁ、俺等もちょっと散歩しないか?」と二人が走ってった方を気にしながらウーメルはそういった。

「あれを散歩と呼ぶのか…?」

消灯まではまだ時間もあった、寝る前に気乗りしない本を読むくらいしか予定がなかった俺はウーメルと二人連れ立ってまだ少し冷える春前の夜の中を蹌踉そうろうと歩く。月が高い。しばらく歩いてからウーメルは言った。

「なぁ、俺とパーティを組まないか?」

この提案には別段驚きもしなかった。くどいようだが訓練も残す所後二月、早いやつらなんかはもうとっくにパーティ編成を決め終えて、実際の編隊フォーメーションなんかを考えてる奴等もいる。パーティメンバー探しなんて実際にギルドに行ってからでも良いんじゃないかなんてのんびり構えているのは俺くらいのもんだ。

「少し考えさせてくれ…」

俺がそれだけ言うと、ウーメルは立ち止まって俺の方をじっと見る。

「あのなぁ、一応俺は今期の成績順でお前に次ぐ2位の超優良物件なんだぜ?他の奴等はもうとっくにパーティ組んでる、勿論ギルドに行きゃ熟練のメンバーと組むこともお前ならできるんだろうが、口約束だけでもしといて損はないはずだ。」ごもっとも。

「俺はお前に対してそういうことはしたくない。」

ウーメルは押し黙ったように暫く何も言わなかった。そしてふと聞きにくそうなことを聞くかのように口を開く。

「もしかしてラナのこと気にしてんのか?」

俺は何も言えない。なんせ図星、彼女、先の魔法使いカナはあまりにもポンコツなため誰ともパーティを組めず、この様子では最初のスライム刈りに出かけた時に呆気なく捕食されるに違いない。けれど以前俺が何気なくパーティを組まないかと訪ねた時には足手まといになるからとやんわり断られてしまった。

「かーっ、お人好しだなお前は!!」

「前に一回誘ってみた時は断られてさ、でもまだパーティ組めてる様子もないし。」

「そりゃ、一応お前に気を遣ったんだろ。あいつ、ドベだし…。」

彼女は真面目に魔法の勉強なりなんなりしてるくせに、要領が悪く成績は俺等十五人の中でもドベ、いや下から2番目だったか…。とにかく!だからこそ余計にあの人見知りのおっちょこちょいは放っておけない。

「じゃあもし俺がカナを説得できたら3人でパーティを組むってのはどうだ?」

そうまでして俺とパーティを組みたがるウーメル…、もしかしてこいつ…、そっちか!?!?

俺はケツアナをヒュンとさせた。









ツヤツヤ八つ橋:コラーゲンたっぷりのライムスライム亜種であるライチスライムを材料に作られる。コラーゲンたっぷりで食べた後はお肌ツヤツヤに!!

ムキムキ剥き栗:秋に身をつけ、春前に殻を中の身がぱっくりシックスに割る栗。高タンパク低脂質のこのアイテムは食べると攻撃力アップ!

カチゲーチゲ:とにかく辛い難易度設定もこれを食べた後は燃えるように攻撃力がアップしクリア!




【第8期フライドチキン共和王国召喚勇者一行名簿】

砂崎スナサキ泰晴タイセイ 砂の勇者、170cm,黒髪、短髪、浅黒肌

*ウーメル 真実の戦士、狂戦士、180cmないくらい、焦げ茶髪、兄さんキャラ、ソバカス


逢坂おうさか由貴ゆき 怜悧だが堅物の白魔道士、160cmないくらい、学級委員系真面目っ子

★ガネリオ 猛進の僧侶、185cm、無口、のっぽ、眼鏡、引くほど潔癖症だがいいヤツ


✦シーナ 連れション奇襲隊長、155cm?

✦ホノラ 連れション切り込み隊長、155cm?

✦モーリー・アンナ 連れション追撃隊長、155だろ?

渡辺わたなべ優杏ゆあん 連れション駐屯部隊長、だから155cmぐらいだろ?


石木佐いしきさ じゅん 凸るしかできない太刀使い、155cm,、凄い口下手だが凄い稀に凄い良いタイミングで凄い面白いことを言う。

★ミサミサ 宙に秒でとにかく浮く黒魔術師、150ちょい、めばちこで眼帯着けて喜んじゃうタイプ、おしゃべり

※ユーザック・マイケル 平凡なボウガン使い 170あるかないか、キャラがなさすぎてキャラ濃い奴らの中で逆に存在感を発揮するタイプ、基本いじるがちゃんといじられ役もこなすバランスタイプ


★ジェシー・ウィンストン 大食い女戦士、165cm、巨体、金髪、口悪い、がなんだかんだ最期にいいヤツ

※ワッキー 側溝の斥候、160cmないくらい、チビ、すばしっこくバカ、メガネを頭の上に乗せ探すバカ

※ケント・オルカ ド陰から脱却しない狙撃手 160cmぎりないくらい、ネクラ、イジられ要員、腕がありピンチの時に助けるがその後もう一回ピンチにぶち込まれる系の奴

尾千羽おちばカナ 落ち葉の治癒魔術師、150cm,ドジっ子眼鏡っ娘




並びは計十回における総合成績順、名前上部のマークは卒業前ギルドに提出された事前パーティメンバー申請に準ずる。

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