第0,4話 冒険の幕開けは謎解きと共に




 




第0,4話 冒険の幕開けは謎解きと共に







いててて、森の枝に絡まった体を器用にすり抜けさせて地面に着地。っと!って、あ、


べちゃっ!


着地に失敗し地面に突っ伏した体を起こす。

膝についた汚れを払いながらどっちに行けばいいのか迷っていると杖のキマキマが指の形になって西の方角へ行けとさしている。なんでそっちが西と分かるかというと太陽が登ってくる方とは反対方向だからなんだけど、あれ?でもこの世界って自転とか公転とかどうなってるんだろう?


ま、いいか!


意気揚々と僕は進んでいく。片手に大きな杖を握りしめて。ローブと猫の帽子にくるまれて。



「それにしてもいきなりお別れ、、、二人共最初の街まで一緒に来てくれても良かったのに、、、」


「それは無理にゃ」



あっ、チェルシー。



「あの二人は天上におわします方々、天井じゃにゃいよ、そっちは吾輩が昼寝するところ。天上にゃ天上。」



わかってるよ、僕こうみえて進学校に通ってるんだよ?



「でもなんでそうすると一緒に街へはこれないの?」


「決め事にゃ、天上におわす方、および神官、天使なるものはやたらむやみにゲカイに行かないって魔界側と昔戦争を締結する時に決めたらしいにゃ。」



へー。



「あ、じゃあイザナイさんについては他になにか知ってる?」



「イザナイ?ヤツはヤツにゃ。昔、って言っても百年くらい前にゃ。日本に二千年ぶりに友人に会いに来たとかいっていきなり現れてそれ以来吾輩は飼い殺しにゃ。」



「二千年っ!?そんな生きれるもんなの神様って!?」



「吾輩のひいひいひい婆様は4000歳いかにゃいくらいの大往生だったらしいにゃ。

そのひいひいひい婆様がよくイザナイの話をしていたと曾祖母様がいっていたにゃ。

イザナイのことは仔猫の頃から知っていて、にゃなんでも昔膝の上に乗っかったら念力で動けなくされ、湯たんぽにされたとか言ってたにゃ。あとは知らにゃい。宇宙の果ての手前でそこをどうにか突き抜けれないかって一時期彷徨ってたらしいけどにゃ。」



なんか、とんでもない人に出会っちゃったなー。今度あったらなんか御供え物とか持ってった方がいいのかな?いっつも何か食べてたし。





なんて呑気にてくてく歩いていると森を抜けて目の前には小さな集落が。

木の塀で囲まれているけれど、入口から見える集落の中にはトカゲや鳥の姿に似た二足歩行の生き物がちらほら。

さて、どうしよう。いきなり挨拶しても変かな?迷子を装う?うーん、、、、


ま、臨機応変にいこう!



「あのー、すいませーん。旅をしてる最中に迷子になったんですけど。」



と二人いるうちの門番の一人に声をかける。



「むっ、そちらのローブと杖を拝見する限り名のある魔法使いとお見受けしますが、あいにく長老様は今族長会議中ゆえ。面会であればしばしお待ちいただくことになると思いますがよろしかったでしょうか?」



あれ、というか普通に日本語通じるの?

という疑問は直ぐに取り払われた。頭の上に乗っかったチェルシーが逐一翻訳してくれてるみたいだ。しかも声もそっくり真似て。チェルシー声優になれるよ。


というわけで塀の外で時間を潰す。




「チェルシーってバイリンガルなの?」


「この世界には沢山の言語があるにゃ。魔族語、獣語、ゴダイゴ、etc...

でもほとんどのやつらは一般的に亜人語と呼ばれる共通言語を喋るにゃ。でも皆音の種類を聞き分けると言うより周波数や声に乗った、うーんにゃんというか気持ちみたいなものを聴くから大体どこでも言語は通じるにゃ。」



便利、、、翻訳家さん泣かせだけど。

そんな雑談をしているうちに長老会議が終わってボクは門兵さんと一緒に長老の部屋まで挨拶に行くことになった。なんか緊張する。



「あの、はじめまして、見習い魔法使いのサキモエ(チェルシーがつけたあだ名)と言います。」



「あ、これはどうも。この村の長をやっております。ソミトリーと申します。門兵がなにやら名のある魔女さんが私に会いたがっていると先程聞いたのですが、どうやら族長会議中おまたせしてしまったようで申し訳ない。」



「いえ、とんでもないです!こちらこそご挨拶させていただき光栄です。」




「して、今回はどのようなご要件で?」



しまった、、、とりあえず来てみたとか言えない。。。

まさか他の世界から来たとも言えない。。。。

下手すると魔女狩りなんかに合いかねない気もするし。

いやでもこの村長のソミトリーさんも頭にとさか生えてるしそういう偏見とかはないんだろうか?

ボクはぐるぐる考え出して言葉が出てこなくなる。



「とりあえず焼き魚をよこすにゃ」



あっ、こら、チェルシー! 



「これはこれは、精霊様ではありませぬか。どうりで門兵が驚いて会議中にも関わらず慌ただしく駆け込んでくるはずです。いえ、かしこまりました。せっかくおいでいただいたのですから。おい、今日は魚は何がある??」



そういうと、村長さんの部屋の外から給仕の人があらわれる。

黒と茶色の鱗でできたまだら模様のエプロンにスカート、シャツ。

腕の代わりには翼。鳶みたいなこの人が朝川で取ってくるのかな?



「今日はカワハギにカワノメダカ、それと先日行商人から質のいい鮭酒を仕入れていたはずですが、いかがいたしましょう?」


「ほう、して精霊様は、酒の方はイケる口ですかな?」


「我輩を誰と心得る!当然にゃ!!」


「はっはっはっ、そうこなくては。よし今言ったものを持ってまいれ!!」


「はっ!」



こうして昼前から猫チェルシーと村長ソミトリーさんの酒盛りが始まった。やれやれ。



丁度お腹が空いていたこともあってボクらはご飯にがっつく。

初めはフォークとナイフで魚を切り分けて、それを頭の上の帽子にまで運んでいたけど、途中から面倒くさくなって帽子のつばに魚をまるごと乗っけた。



頭の上でバリボリ、、、バリボリ、、、



焼き魚はすごく美味しかったけど、鮭酒はヘンナ臭みがあってそれが当分チェルシーの口からするのだけでも僕は酔っ払いそうになった。

キマキマに鮭酒をかけてあげると心なしか杖の表面が紅くなっている。




遅めの朝食、確かブランチっていうんだっけ?こういうの、を取りながらソミトリーさんは今日の族長会議の内容を苦々しげに語った。



「ここ最近、この近隣の村から子供が攫われる事件が起きておりましてな。確かな情報筋によるとなんでも特定の子供を探しているらしく、しかしめぼしい子供を攫った後に違うとわかると奴隷商に売ってしまうらしいのです。このトムトム村からは幸いまだそういった話は上がっておりませんが協定を結んでる他の村二つではもう、、、」


「お任せくださいにゃ!!!」



言ったのはチェルシーじゃなくてボク。

実は昔推理小説に凄くハマってた時期があって、事件の手がかりから犯人を暴き出し懲らしめる!!っていうのをやってみたかったんだ。

声を上げたボクはチェルシーとソミトリーさんからまじまじと見られてすごいいたたまれなかった。



でもせっかく異世界に来たんだし、何事も挑戦挑戦!





というわけでやってきたのは一ヶ月前に子供の誘拐が起きた隣の村のひょこひょこ村。

こちらの村人たちも皆トカゲや鳥の見た目。迦陵頻伽。

村長さんから話はすでに通っていて村の門兵さんが事件当日の話や犯人が逃走に使った経路を案内してくれた。


「その日は丁度最近この辺りによく出没するオーガ二体を二日がかりで討伐するのに村の男どもが出払っておりまして、見張りと何人かの護衛は残していたのですが警備の目をすり抜けて、、、」



村からはすでに何人かの子供がさらわれてしまっている。

次に案内されたのは村の近くの森の街道。道にはまだ新しい馬車の轍。



「ちょっとかがむにゃ!!」



ボクがかがむとチェルシーは轍の辺りを嗅ぎだす。警察犬ならぬ警察猫。




くんくんくん、すんすんすん。





「この辺りからはまだ魔獣の臭い匂いが漂ってるにゃ、オーガの臭いではないにゃ。数にして4体か5体。魔獣がこの数で計画的に動くって事は稀にゃ、奴らは脳筋のあんぽんたんだからにゃ。」


「誰かが統率してるってこと?」


「の可能性は高いニャ。」





調査は引き続き、もう一つの事件現場メバエバの村。

こちらの村でも二ヶ月前に同様の手口で村から子供が攫われていた。

この村を案内してくれたのはイグノアという亜人の女性だった。

彼女はトムトム村で1児の息子を育てているお母さん、メバエバの村には村の事務作業を手伝うのに来ているらしい。他にも保母さんみたいな事もやっているとか。タフだなぁ。

彼女はボクの姿格好をみるなり色々と聞いてきた。




「あなた魔法使いなのよね!?」


「きっと沢山勉強もして、賢いのでしょう?」


「佇まいが落ち着いてるもの!ね、どうしたらそういうふうにできるのかしら!?こう、座ってじっと本を何時間も読むって何かコツがいるの?」




褒められているような、なんかそうじゃないような。とにかく圧が凄い。

彼女は事件の夜は夕方の勤務を終えてトムトム村に帰っていたらしく事件の様子については何も知らなかった。


彼女に一通り事件現場を案内してもらったあとはもう結構な夕方だったので二人でてくてくトムトム村に帰る。

メバエバの村の入口から出ていくボクを見つけたイグノアさんが一緒に帰りましょうと言い出したのだ。人見知りのボクは誰かと長時間一緒に歩くのは遠慮したかったけど、事件の調査を手伝ってもらった手前嫌とは言えない。



この世界には自転車や車みたいに馬や羊、鹿などの害のない家畜の魔獣を使って移動する習慣があって、行きは門兵さんの引く鹿(?)の後ろに乗っけてもらったのだけど、それはそれでなかなか体力がいるので帰りは断っておいた。それぞれの村までは徒歩で二時間半位の距離。


うぅ、脚の内側がまだがたがたしてる。明日は筋肉痛だ。




帰り道では相変わらずイグノアさんの質問攻めが続く。コミュ障のボクは結構大変だった。

それでも最初のひょこひょこ村に着くとイグノアさんはさよならも言わずにさっさと自分の家に帰ってしまった。

村長さんが用意してくれた村の端の方にある小屋に帰ると、一日外を歩き回ってヘトヘトに疲れていたボクはベットにばたんっ。




「はーっ、疲れたー!!、、、でも事件の事は結局なーんにもわかんなかったな、、、」





ボクがため息交じりに言うと杖の取ってから小枝がニョキニョキ伸びてきてボクの頭を撫でてくれる。キマキマは優しい。ちょっと硬くて時々髪に引っかかってるけど。





「そんな事はないにゃ。少なくとも内通者はわかったにゃ。」


「えっ、チェルシー犯人わかったの?」


「我輩は内通者と言ったにゃ。でも真犯人もなんとなく目星はつくにゃん!」


「だれなの?」


「内通者はあのイグノアってやつにゃ。」


「イグノアさん?たしかにちょっと圧は凄かったけど悪い人そうじゃなかったよ?事務仕事だけじゃなくて村の子どもたちの保母さんもしてくれてる様な人がどうして?」


「そんなのは知らないにゃ。でもあいつからは轍の辺りに残ってた魔獣のと同じ臭いがプンプンしてたにゃ。」





うーん、チェルシーが臭いを嗅ぎ間違えてる可能性は低そうだし、、、


するとキマキマが今度はするするとこっちに伸びてきて僕に何かを見せる。それは今日イグノアさんが着ていたエプロンと同じ色の糸くず。ひょこひょこ村の近くの森の枝に引っ掛かってたらしい。


たまたまその辺を通った可能性もあるけど、じゃあ仮にイグノアさんが内通者だとして、動機はなんなんだろう?

子供を人質に取られているとか?

うーん、考えてもわからない。。。


ということで翌日は村人に事情聴取を行うことにした。

何かこの辺りの子供が狙われるような理由に心当たりはありませんか?というものだ。







●トムトム村の門兵さんAの証言

「うーん、この辺りの村は随分田舎にあるからなぁ。俺は王都の都会からここに流れ着いたんだけどよ、まぁ王都のスラムじゃ人攫いなんて珍しいもんじゃないんだが、、、例えばこの村から子供を攫ったとしても売りに行くのに王都までいくとそう割が合わねぇんじゃねえかと思うんだよ。正直趣味の悪い魔獣に喰われちまったのかなぁってのが俺の見立てだ。残念だがな。」



●最近ここを通りかかって三つの村に滞在している行商人Bの証言

「今回はこんな事があって本当に心を痛めております。わたくしですか?わたくしは実はここから一番近い王国へ商品を卸しに向かう途中この辺に特殊な希少価値の高い薬草が生えていると小耳に挟みましてな。時間もあったし、この村は地図には乗ってませんが存在は前々から知っていたので立ち寄ることにしたのです。どの村の村長さんにも商品を偉く気に入っていただいてこの村の特産品と交換してもらいました。いやー、村長さんというのは太っ腹な方々で頭が上がりませんな!!」



●事件当日の夜ひょこひょこ村で薬の調合をしていた薬師Cの証言

「この村の付近に魔獣が嫌う薬草が生えてるのよ。それのお陰でこの村はあまり人手もないけど平穏に暮らせてるの。だから今回の人攫いの話を聞いてびっくりしてるわ。怖いわよね。事件当日の夜に気づいた事?うーん、特に無いわね。その日は一日中ここで薬草を調合してたけど物音も何も聞こえなかったわ。」



●同じく事件当日の夜見回りをしていたメバエバの村の自警団Dの証言

「事件当日は不気味なほど静かな夜だったよ。変わったことは特に何もなかった。人攫いなんてあれば騒ぎ立てる音がしてもおかしくないもんだがそんな音は少しも聞こえなかったな。もし俺がなにかに気づけていれば、、、くそっ!」










一通り聞き込みを終えてボクは近くの木のベンチに腰掛けてふぅとため息をつく。



「手がかりなしかー…皆何も見ても聞いてもないって言うし…」



村の人たちは皆不安で子どもたちを心配してる。ボクもなんだか申し訳ない気分になってくる。




「あの四人は全員嘘付いてるにゃ」




あっれれー!?


って元ネタとは使い方違うけど。





「あの四人、どいつもこいつも最近魔獣に会ったみたいにとっても臭かったにゃ。オウティシーからしてたのと同じ匂いだったにゃ。もしかするともう一回どこかの村を狙うつもりで打ち合わせをしてたかもしれないにゃ。」



名探偵チェルシーがそう推理し、助手のボクはその推理を伝えに最後に村の長老の所へ向かった。





「そうですか、、、村の者達がですか。信じがたい話ですが精霊様がそこまで確信をもっておっしゃるのなら早速詳しい尋問をさせましょう」


「ちょっと待つにゃ、長老。それよりも今夜はいつも通りにするにゃ。」


「といいますと?」


「吾輩に考えがあるにゃ」





チェルシーがとっても悪い顔をしている。心配だ…














チェルシーがそう呼ぶのでこの異世界では見習い魔法使いサキモエでやってこうと決めた彼女の頭の中はもっぱら自分の通り名、二つ名をどうするかで一杯である。



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