第0,3話 宇宙規模最大の魔法と見習い魔法使いの門出
0,3話 宇宙規模最大の魔法と見習い魔法使いの門出
翌日からラブードゥーさんとの特訓が始まった。
と言ってもやることはこれまでとそれほど変わらない。たまにヨガみたいなことをやらされる事が増えたくらい。それでもこれまで漠然としていた魔法の理論を教えてもらうとなにかつっかえがとれたよう。
この異世界を埋め尽くす不可視の物質、アナザーリトルクウォーツ。
これらはまだ何物でもなく、しかし何物にもなりうる。
魔法使いはこれらに魔力を流し込むことで振動させて火をつけたり、彼らに素早く動くよう命じて風を吹かせたり、風呂に入りたいからと水を温めさせたり。
火、水、風、土は4大基本属性。
火と水と風を同時に組み合わせて使うと光属性魔法になったり、他にも回復、治癒、召喚、呪術魔法なんかもある。
魔女や魔法使いと呼ばれるものの多くはそれらを攻撃手段ではなく生活における手足として使うやつが多い。他にも
俺は片手間にしか冒険者はやってないが一応Sランク、Fから始まる七階級の一番上。土地によっては身分証にもなるし、割がいいクエストも多いから登録しといて損はない。情報網も広げられるしな。もし古代魔法や、一部の部族に伝わる秘伝魔法なんかをマスターしたいってなったら魔法学校なんかでは学べないだろうから情報を得るのにある意味必須でもある。
だそうです。
ラブードゥーさんは一通りの魔法が使えるらしいけれど、それでも魔法使いが基本後衛ばかりのウスノロ(魔法発動には時間がかかる、それを効率化するための手段として無詠唱なんてのもあるらしいけどまだまだ確立はされていない。当然ボクはまだできない。)と言われることに腹を立てて鍛えに鍛えた結果今は戦士並みの戦闘力もあるらしい。
その説明をしている最中イザナヱさんがラブードゥーさんを筋肉バカと呼んだときの彼女の彼へのパンチの俊敏さがそれを証明していた。動ける魔術士はパーティを組むときにもありがたがられるし、魔法のバリエーションも増えるそうなのでボクもラブードゥーさんにまずはと勧められたヨガをやっている。
ラブードゥーさんに見てもらいながら毎日毎日魔力を上げる練習だったりヨガだったり、背中の洗いっこだったりをねだられているうちに時間はあっという間に二ヶ月も経ってしまった。
ラブードゥーさんとは沢山話をした。ラブードゥーさんは面倒見のいいお姉さんという感じで、いつも面白い話を聞かせてくれる。ある時は三人でご飯を食べながら。
「てわけで、王国と村を襲う混合龍ドラゴブリンとそいつが撒き散らす疫病の原因である魔素を灼き尽くした俺をニッコリラグアの連中は今でも崇めてるって訳さ。」
その話は魔界から迷い込んだ龍に襲われていた人々を若き日のラブードゥーさんが灼熱魔法でやっつけた話だった。
一緒にいても思うけど、ラブードゥーさんはすごく強い。
きっと本当に話の通りそこんじょそこらの冒険者や騎士団、ドラゴンなんかよりもずっと強い誇り高き女戦士なんだ。
話をするときの目はいつでも爛々と力強く輝いていて、しなやかな黒い肌の筋肉は美しく部屋の蝋燭に照らされている。
「おかげでこうして俺は今も立派に女神をやれてる。」
「立派ぁ!?おまえがぁ!?」
ドスッ!
そうしてイザナヱさんを一撃で沈めるほどにも強い。
ある時は二人でナンジャガイモタレスルノウポテトのスープを作りながら恋バナを始め出す乙女な部分もある。
「萌枝たんはさ(自己紹介して依頼ずっとこの呼び方をされてる、嫌ではないけどちょっと恥ずかしい、、、)、顔可愛いし、料理だってこんなできるんだから自身もちゃ大丈夫だって!萌枝たんは自信なさげにしてるけどさ、胸とか尻とか言ってるやつなんて大体中身見てない好色家なんだから無視無視!」
「でももし好きになった人が大きいのが好きな人だったらどうするんですか?後その鶏みたいなのはなんの加工もせずに羽根つきのまま鍋に入れる気ですか?」
ラブードゥーさんがどこからか捕まえてきた鳥を皮も剥がずに羽根つきのまま入れようとしているのでキマキマとすんでのところで止めていた。
「うーん、まぁそれもひとつの条件として考えるより他ないんじゃないかな。性格がいい人が好き、おっぱいがでかい人が好き、どこを見るかはそれぞれだと思うしさ。」
「貧乳は正義!!そいつのは無駄にデカすぎるだけだ!気にするな!」
と、イザナヱさんが部屋に入ってくるなりそう言い終えないうちにラブードゥーさんのボディーブローが決まる。ラブードゥーさんが料理をすると聞いて心配で見に来たらしいけれど、まさか自分が鍋に突っ込まれる材料になろうとは夢にも思ってなかったんだろうな。
イザナヱさんを鍋に突っ込もうとするラブードゥーさんをまたキマキマと二人で止める。
そんなふうにしてあっという間に過ぎた二ヶ月。
前の世界ではありえないほど充実した毎日。
別に前の世界で何もしてなかったわけじゃないけれど、それでもただ過ぎてゆく夢のない日々に比べたら今は凄く生きてるって感じがした。
ある日、日課の魔力増加の練習の後にイザナヱさんはラブードゥーさんの隣にたってこう言いました。
「ゲカイを旅してみたいか?」
ボクは直ぐにうんと頷きました。
もし旅となると多分二人は付いてきてくれないだろうし、スカーフの上で見た恐ろしいモンスターのいる世界へ行くのは少し怖いけれど、それでも好奇心には抗えない。
もしかしたらラブードゥーさんは最初のうちは一緒にきてくれるのかもしれないけれど。
返事を聞くとイザナヱさんはそのまま何処かへ行ってしまい、入れ代わりに夜がやってくる。
相変わらず星が空を埋め尽くして。
部屋でキマキマが作ってくれた紙と鉛筆で今日の出来事を日記みたいに書いていると部屋の入口にラブードゥーさんが気まずそうな顔をして立っている。なんだろう?
「萌枝たん、萌枝たんは今日でほとんどの魔法の基礎を習得した。これ以降は色んな人と研鑽を積みながら自分で考えるんだ。一番手っ取り早いのは魔法学校に行くことだろう。もし優れた魔法使いに出会えたら師事を仰いでもいい。あ、でもたまに変なやつもいるから気をつけるようにな。それから魔族の中でもベルってやつとヘイズってやつの名前を聞いたら絶対に関わるな。あとそれから…」
ラブードゥーさんは早口で色々まくし立てる。
色々なアドバイスを聞きながらそれらを手に持っていた紙にメモする。
ラブードゥーさんは一通り言い終えると最後に外でイザナヱが待ってるから部屋にある旅に必要だと思うものを準備したら出ておいでとだけ言って外へ行ってしまった。
必要なものと言っても着の身着のままで来ちゃったし…
とりあえず紙とペン、ドライフルーツとナッツがくるまれた葉包をいくつか、ガラスみたいに透き通ったプラスチックより軽い水筒、とりあえずそれらを用意して外に出るとイザナヱさんが上からヒョイッと降りてくる。
「準備できたな。これは餞別だ、特別にくれてやる。」
手には大きな帽子と大きなボクの背丈くらいの杖。
杖の柄の部分はキマキマで出来てるらしくなにかあれば力になってくれるらしい。大きな琥珀と樹脂がいくつも埋め込まれていて、丸まった先端には大きな松ぼっくりがキーホルダーみたいにぶら下がっている。振りかざす時に飛んでっちゃわないだろうか…
帽子は杖と同じ深い樹の幹の色で、毛皮みたいにふわふわしている。でもとんがりが2つもついてる、組分け…?
イザナヱさんがそれを残念がるボクに被せると途端に帽子が喋りだす。
「よろしくにゃ。」
「えっ!?しゃべ、、にゃ!?」
手に持って良く見てみると帽子の左右のとんがりは猫の耳になっている。
月色の眼が今は開いて、眼の真ん中には若葉色のネコ科特有の瞳孔。にゃーん。
「精霊だ、俺ほどではないにせよ長く生きる化け猫で物知りだからお前の力になってくれるだろう。」
「誰が化け猫にゃ!!」
「なんだ、俺と一緒にまた宇宙の果てに行きたかったのなら早く言えよ。」
「じょ、冗談にゃぁ、、、あんな孤独な世界を彷徨うなんて二度とごめんだにゃ、、、、」
イザナヱさんが悪い笑顔でそういうと猫は大人しくなってまた帽子に戻っちゃった。被り直すとやっぱりふかふか、、、、いや、もふもふする。名前はチェルシーにしよう!なんだか美味しそう。
「色々ありがとうございます。でも、あの…あんまり動物をいじめないであげてください…」
彼にはジロっと睨まれてボクはちょっと後ずさる。怖い。
でもさっきチェルシーが言ってたけどこの人は宇宙の果てを孤独に彷徨ってたんだろうか?
じっと彼の目を見るけれどぷいっと目線をそらされてしまった。
やっぱり嫌われてるのかな、、、
「さて、河咲といったか。お前は今日から見習い魔法使いだ、あの大地と太陽の女神ラブードゥーのお墨付きでな。小枝分の魔力しかなかったお前も、今ならそれらの魔導具を少しは使いこなせるだろう。短い間だったが、数奇な星の運河の中で出会えた事は忘れん。」
なぜだかイザナヱさんの口調がいつもとちょっと違う。
「最後に俺は魔法のことを何も教えぬとぶーたれていたお前に俺の取っておきの魔法を見せてやろう。」
最後?
と、その時部屋の中から小さなバックパックを持ったラブードゥーさんが飛び出してきた。
「ちょおっっっと待てぇぇ!!!!!お前俺を巻き込むつもりか!?!?」
「悪い、、、忘れてた。」
ゴフッ!!!
ラブードゥーさんの鋭いみぞおちへの一発はいるとイザナヱさんはその場に崩れ落ちました。
「はい、これは俺からの選別な。丈夫なヒカリトカゲの皮で作られてるから滅多なことじゃ破けない。中にはこくこくの実、これは寝付けないときに食べるとぐっすり寝れるやつだけど食べ過ぎ注意、それからリザードランナーの干し肉という俺の知り合いが譲ってくれたやつも入れてある。カバンは匂いつきづらいけど一応コイバナナの葉っぱで包んであるから!
本当はついて行ってあげたい気持ちで一杯なんだけど、どうしても一度国に帰らなきゃいけなくてさ。前にも言ったニッコリラグアって国だ。あ、そうだ、もし旅の途中で立ち寄る機会があったら俺の名前を出すといい、皆歓迎してくれるはずだ!」
お礼を言ってそれを背負うと、イザナヱさんがボクの前まで来ておでこをトンッと指で押しました。なぜか木の勾欄はなくなっててボクは上空数万メートルから真っ逆さま。
上からイザナヱさんも飛び降りてくる。
「良い景色だろーーーー!?」
彼はボクの隣まで来ると向かい風をものともせずにそう大きな声で言いました。
眼下にはそれまで雲が隠していた街や森が広がっていて、ボクらがいた枯れた大樹は地面から天高く宇宙にまで伸びていて。
それはそれは見ごたえある景色だけどボクはそれどころじゃない、ぱ、パラシュートとか、なんかあるんだよね!?!?
「魔法使いが小さい杖を使う意味が俺にはよくわからん!!
俺の見立てによると杖ってのはおそらく流れる川みたいな自身の魔力を流すものだ!!
世界を旅したきゃ、でかい魔力を手に入れ、でかい杖を使い、でかい魔法を使うのだぁぁぁぁあああああ!!!!」
イザナイさんが大樹の幹に向かって手を伸ばすと、イザナヱさんの手と大樹の周りにいくつものカラフルな光が現れて不思議な紋様を映し出しました。
〚寂々と〛
ボクも彼も落下速度がどんどん上がってさっきまで米粒みたいだった街の建物が指の爪くらいのサイズで見えはじめる。
〚そうと謳わば〛
チェルシーもににゃぁぁぁぁ゛ぁぁ゛と叫んでいる。
〚春風の〛
地面がどんどん近くなって、ボクははっと思いついて箒みたいに杖に乗れないか魔力を込めるけれど風が強すぎて体が宙でくるくると回ってしまい上手くいかない。
〚青葉に誰ぞ〛
上を見るとイザナヱさんはさっき光を放っていた場所で宙に立ち止まっている。彼の背中の向こうでは大樹が夜空の星を捕まえる勢いでその枝をぐんぐん伸ばしている。やがて星たちがまるでその枝についた実のように見えた。
〚道を聞きなむ〛
イザナヱさんが左手を目の前で一振するとそれに合わせて大樹が左から右に大きく揺れて、星もまたそれに合わせて。
それは人生で一度も見たことのない、きっと二度と見ることのできない銀河の流星群。
願い事はきっとどれだけあっても叶うに違いない。
流星群に目を奪われて、突風にあおられ、次に彼らの方を向くと流星群とともに彼も大樹もラブードゥーさんも消えてしまって後には枯れ葉と宵闇だけが残っていた。
その枯葉はひんやりした夜空からボクたちを包むように温かい風と共にボクの所へやってきてふわりふわり何処かへ運んでいこうとする。もう突風は止んでいた。
キマキマの手が杖から伸びてボクをそっと彼の上に乗せると、そこには杖に跨って空を飛ぶ見習い魔法使いが!!!
夢みたいだ!!!!!!
ボクは当然浮かれ気分で空を飛び回る。
夜空に思いを馳せて、東雲の空が白の太陽の光に包まれるまで。
と、流石に少し眠くなってきた。夜ふかし厳禁。
すると帽子のチェルシーが話しかけてくる。
「お前目的地はわかってるにゃ?空を飛ぶのは結構魔力がいるにゃよ?」
「へっ?」
夜明けの日差しとともに見習い魔法使いは森の茂みの中へ落っこちていきましたとさ。
幸い枯葉と森の枝、星のローブがクッションになったお陰で軽症で済んだとか。
ナンジャガイモタレスルノウポテト:あまりの美味しさに次から次へと口に運んでしまい、胃の中で膨れる。食べ終わったあと数日はまるで胃もたれでもしたかのようになるので食べる量は注意が必要である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます