第0,2話 太陽と大地の女神 ラブードゥー





第0,2話 太陽と大地の女神 ラブードゥー








そうしてボクの魔法使い見習いとしての生活が始まりました。

といっても作務衣の男は何にも教えてくれない。名前も教えてもらってない。

もっぱら少し上の木の枝に寝そべって相変わらず本を読んでいることがほとんど。


初めて彼に魔法を習いたいと言った夜の次の朝、彼に何をすればいいのか聞いたところ彼は逆に何が必要だと思うか聞いてきた。ボクはとっさに「とんがり帽子!!」と答えた。彼は呆れた顔でこっちを見ていた。


しょうがないじゃないか、組分け帽子をかぶってあそこの組はやだ、あそこの組はやだってやるの夢だったんだ、、、、



「帽子のことはひとまず置いとけ。今はまだ必要ない。他は?」



帽子は置いておくとなると、ローブはなんかすでに貸してもらってるし、やっぱり杖だよね?

ボクは両手いっぱい広げて大きな杖をジェスチャーで伝える。


「は?」


彼は相変わらずぶっきらぼうで冷たい態度、ちょっと怖い。

すると木の枝が彼の頭をパシンっと叩く。



でもボクなんか変なこと言ったかな、、、魔法使いといえば杖だよね?



すると木の枝はこっちの方にスルスルと伸びてきて腕の肘から指の先端くらいまでの細い枝に分かれた。



杖にしろってこと?折っていいのかな?


《い!い!よ!》


木が喋る。枯れ葉を揺らして。昼間は可愛いけれど夜に出くわしたら寝れなくなりそう。って昨日はぐっすり寝たんだけど。


ボクはその細い木の枝を手折る。

彼の方に次はどうするのかと視線を送ると彼はすでにいつもの寝転がった姿勢で本を読んでいた。あれ、、、?



木の枝はそんな彼をパシンっともう一叩きするとまたワサワサと枯れ葉を揺らしてボクに話しかける。



《しゅ!う!ちゅ!う!》




ボクは言われた通り小さなか細い杖を握りしめたまま目を閉じて集中する。

瞑想とかは勉強の合間にやることが多いからなれたもの。

すると体の血液が急に杖を握る手に集まっているような感覚がする。

手のひらがじんじんと熱いのに汗はかいてない。変なカンジ。


とにかくそれを続けていると今度は杖の先にまでそれが流れていくのがわかる。まるで手が伸びたみたいに。

それで木の枝の先に小さな青葉が芽吹いた。

けれどそこでボクは疲れてへたり込んでしまった。なんだかお腹も空いてきた。魔法は大変だなぁ。気がつくと辺りはもう真っ暗。

ふと上を見上げると男はそんなボクを見下ろしながら同じように手折られた小枝を振りかざす。


とどこからともなく風に運ばれて沢山の枯れ葉が飛んでくる。



バサバサバサっ!!!!!



彼はボクの上にその枯れ葉の塊を落とした。



「なにするんだよっ!」



しかし彼はボクの声なんて全く意に介さず杖の先で宙に円を何度も描く。それに合わせて枯れ葉はくるくるとボクの周りを螺旋状に回り始め、今度はボクの前で落ち葉の塊になった。


彼はもう一度杖を握り直して落ち葉めがけて振る。でも今度はマッチをマッチ箱の側面に擦らせるようにしゅって。すると落ち葉に火がついて焚き火になった。

彼は手にもっていた杖をバキッと折るとその焚き火にポイっと放り込んでまた本を読み始めた。

いつの間にやら焚き火の周りにはいつもの枝がニョキニョキしてマシュマロとさつまいもを火にかざしだしている。



パチパチ、焚き火、時々パキっ




久しぶりに食べた焼き芋も、小学校の林間学習以来のマシュマロも甘くて美味しい。いつの間にかお腹はいっぱいに。

作務衣の男も寝そべりながら片手で本のページをめくりつつそれらを食べている。なんて行儀が悪い。ボクだってそんなのはたまにしかやらない。

彼は大きなどんぐりの傘の部分をティーカップ、一枚の枯葉をプレートにして何やら飲んでいる。なんだろうあれ、ホットティーかな、おいしそう。


人見知りのボクは結局彼にそれが欲しいも言えずさっきの魔法の続きの練習を再開した。

そのうちに気がつくと気力を使い果たしてしまい、今度はそのまま眠りこけてしまった。

空の上、普段は大人しく会話にも困らないくらいの音の風がひゅるーりらと口笛を吹き始める。


しばらくして目を覚まし、体を起こすと辺りは少しひんやりして肌寒い。くしゅん!!


木の幹にポッカリ空いた穴の部屋まで移動してひとまず暖を取ろう。

キャンドルがいつの間にかチラチラと燃え始める。木の幹の中はなぜか図書館のように暖かく、困ったことに二度寝を誘う。

落ち葉の上にローブをふわりと重ねるとローブはは床から少し浮く。

きっと床と落ち葉はS極、ローブもS極でできているに違いない。

この大樹の中の床はなぜかフローリングより柔らかいので、それに毛皮みたいにモフついているローブを被せて寝転がるとあっという間に眠りに落ちてしまう。ふぁぁあ。


と、ボクの後に続いて彼が部屋に入ってきた。

どうしたんだろう?

彼が枕元に立つので眠ったふりをしながらボクは今度こそなんだか危ないことをされるんじゃないかとドキドキしながらちょっと不安にしていた。


コトッという音が頭のすぐ後ろですると彼は部屋から出ていってしまった。

ボクは振り向こうかどうか迷ってるうちにまた眠りについてしまった。



翌朝目覚めると落ち葉と魔法ローブのベッド横にある木のテーブルには彼が昨日使っていたのと同じどんぐりの傘のティーカップ、中にはもうすっかり冷たくなった紅茶が入っていた。

変に疑って悪いことをしたなーと思いつつもいきなりこんなところに一人で飛ばされて見知らぬ男と二人きり(正確には動く木の枝もいるけど)なんだから仕方がない。


部屋から出ると男はどんぐりティーカップを片手にいつもみたいにまた本を読んでいた。








ボクは昨日と同じように魔法の練習を続ける。

動く樹の枝はキマキマと名付けた。名前に深い理由はない。なんとなく。

初めて名前で呼ぶとカサカサと揺れて嬉しそうにしてたから気に入ってくれてるんだと思う。多分。

そうやって魔法の練習をしながら何日かが過ぎたある日、体力を全部使って汗だくな気持ちで花籠のお風呂に入ろうと服を脱ぎ始めたとき、部屋に誰かが入ってきた。



「イザナヱー!?ここにいるのかー!?」



部屋には全裸のボクと金色の民族的な装飾品に身を包まれた黒い肌の女性、背は高くて多分あの作務衣の男よりもある。髪はドレッドヘアーで扇形みたいに肩辺りまでふわりと広がってる。



「ご!ごめん!!!誰か来てるなんて知らなかった!!」



女の人はそういうとすぐに部屋から飛び出してった。



その人の胸はすごい大きかった、、、





花籠の中で第三次性徴がまだ来ない自分の小さなものを膝と一緒に抱きしめた。


ぶくぶくぶく、、、




それにしても彼女は一体誰なのだろう?




お風呂から上がって着替え、部屋の外に出ると上の方の木の枝にさっきの女性がなにやら作務衣の男と立ち話をしているのが見えた。

こちらに気がつくとふわっと女性はこっちの枝まで飛び降りてきて謝りながら自己紹介してくれた。



「さっきはごめんね、まさかイザナヱが女の子を連れてきてるなんて思ってもみなかったからさ。俺はラブードゥー、よろしくね!」



親しげに手を伸ばし握手を求める彼女の背は高くて、ボクは百六十あるかないかくらいで低くはないけれどそれでも見上げなくてはいけなかった。


「ボクは河咲萌枝っていいます、はじめまして。あっ、さっきのは気にしないでください、というか忘れてください。」


「あはは、わかったよ、大丈夫。何も見てない。でも安心して、君みたいな若い女の子はこれからだからさ!」



ボクはラブードゥーさんの良さすぎるスタイルを前に少し冗談めかして言う。

彼女の手も大きくて柔らかくて、力強かった。

イザナヱって呼ばれてたけど、ラブードゥーさんとは付き合ってるとかなのかな、、、?









 夜空に伸びる枯れた大樹は上空の方で月へとその枝手を伸ばす。

そこには今イザナヱと呼ばれた作務衣を着た男、ドレッドヘアーに金の腕輪や首飾りを身にまとうラブードゥーと呼ばれた女、河咲萌枝の三人がいた。

男、イザナヱは風呂上がりの少女河咲萌枝の方を見ると無表情で髪を先に乾かせよと言う。

少女はすごすごと言われた通りまたくしゃみをする前にそうする。

ラブードゥーはそんなぶっきらぼうな男にもうちょっと女の子に優しくしなよと言いながら少女の後を追って部屋に入っていった。










髪を乾かすボクの横でラブードゥーさんが色々質問をしてくる。


どこからきたの?冒険者?あっ、ローブと杖から察するに見習い魔法使いだね?何が好きなの?


これまでなんとなくその場の流れに乗じて魔法の練習をしていたので、自分が来た世界のことはすっかり忘れていた。

いきなりこの樹の上に呼ばれた事を話すとラブードゥーさんは真っ青になって髪を乾かして整えるのもそこそこにボクの手を引いて彼の所まで引っ張っていった。


「イザナヱ!!!これはどうゆうことだよ!?!?」


言い方は少し怒ってるふうにも聞こえる。魔法のこと、この樹の上から見える景色の事で頭がいっぱいだったボクは少し罪悪感を覚える。彼女はボクが見ず知らずの土地からいきなり誘拐されてここでいやいや魔法の練習をさせられてたんじゃないかと誤解したらしい。まぁ、概ね間違ってるとまでは言わないけど、魔法は好き。



「どうゆうこともなにもお前を呼んだ理由はこれだ、ラブードゥー。そいつは魔法使いになりたいらしい。教えてやれ。」


「待て待て待て、相変わらず話が下手くそだなお前は!! なんでこんなところに地球から女の子をさらってきたんだってきいてんだよ!」


「知らん!」


「しらんで済むかぼけぇ!!!」


「知らんもんは知らん!そいつはおそらく魔王の件とも無関係ではないんだろうが、そもそも俺が連れてきたわけじゃない!勝手に俺の魔力に乗っかったのか、この樹が、キマキマが連れてきたかしたんだ!」


「嘘をつくんじゃねぇ!!!未来永劫ぼっちのお前の輪廻に入ってくるやつがいるわけねぇだろうが!!!」



二人の口論がヒートアップしていく。

居たたまれない気持ちでキマキマの方を見ると彼もどうしていいかわからず一メートルくらい伸びた木の枝は二人の周りでウゴウゴしている。

唐突にラブードゥーさんがこっちを振り向いて肩をガシッと掴む。



「ごめんね萌枝ちゃんこんなことに巻き込んで。でも安心して、俺が君を元いた世界まで送り届けてあげるからさ。」


「や、やです!!」



ボクはとっさに答えていた。自分で思ったよりも大きな声が出てラブードゥーさん以上に自分の声にびっくりしていた。



「やですって、、、君は元の世界に帰りたくはないのかい?」



ラブードゥーさんは優しく聞いてくる。

元の世界に戻りたくない訳じゃない。

お父さんもお母さんも、あんまりいないけど学校の友達もきっと心配してくれてる。

でもせっかく魔法が使えるようになって、ずっと本の上にしかなかった夢の世界が目の前にあるならもう少しだけでもいいからここにいたい。


ラブードゥーさんは困ったような顔をして、イザナヱさんは勝ち誇ったような顔をして、ボクはなぜだかちょっと泣きそうな顔をして。



ラブードゥーさんと一緒に部屋に戻ると彼女は部屋の真ん中にどかっとあぐらをかいて座る。

ボクはその正面に体育座り。ちまーん。

彼女はやれやれといった感じでスカーフを広げるとボク達の間に広げた。



「どうせイザナヱは君に何も話してないんだろう?」


ボクはこくこくっと首を縦にふる。


「まぁ、あいつの場合は仕方ないんだろうけど。」


彼女のこぼれるため息の上にボクは聞いた。


「イザナヱさんは普段ずっとあんな無口なんですか?」


「いや、あれであいつはよく喋るよ。普段俺といるときはうるさいくらいだ。」



へぇー、ボクにはあんまり喋りかけてくれない。



「あいつは全ての物質、生物も無機物も自分の都合の良いように働かせちまうんだ。本人の意思とは関係なくな。あいつと話をするとものの数分のうちに物質は本来辿るべき運命を辿らなくなる。だからあいつは滅多に他人と話をしたがらない。」



あ、それで。とはならない。言っていることが難しい。



「俺は大丈夫だけど、そうゆうやつは少ないからな。まぁ元々あいつの性格がクソ悪いってのもあるんだけど、だから基本ぼっちで時々言語を忘れるんだよあいつ。ここ二百年くらいしょっちゅう。」



二百年、、、、凄そうな人ではあったけど。二人共一体何歳なんだろう?




「でも、心が読めたりってできるんですよね?キマキマとも会話できるみたいだし。」


「心?あいつにそんな力なかったと思うけど。この樹はあいつの魔力を吸って育ってるからな、まぁなんとなく意思疎通くらいはできるんじゃないか?」


「ラブードゥーさんはイザナヱさんと仲良いんですね。」



ボクはポツリといった。彼女はなぜか少しニヤニヤしながらこっちをみてる。多分何かの誤解だと思うんだけど。



「付き合いは長いけど仲良くはねぇよ、昔あいつには殺されかけたんだ。まぁ俺が若かったてのもあるんだけど。それにアイツはナイ。うん、まじでアイツだけはない。やだよ、あんな女心なんて少しもわかりそうもないヤツ。」



なぜかボクは少しホッとする。そう言えばさっき何気にキマキマって呼んでた。うんうん、よしよし…

って、あれ、なんだろうこれ。


ラブードゥーさんはそんなボクを見ながら手をかざしてスカーフを少し床から浮かせた。ハンドパワー?魔法は便利だ。



「まぁ、いいや。君の事情はなんとなく察したし、旧友が人攫いのヘンタイじゃないとわかっただけでよしとしよう。

さて、それはひとまず置いといて。

これから君に話す話は作り物なんかじゃないし色々ややこしいだろうけど頑張ってついてくるんだよ。」


「はいっ!」



ボクは返事をする。

そしてラブードゥーさんはこの世界の事を教えてくれた。

スカーフから小さな宝石のような色が沢山散らばって宙にこの世界の地図を映し出す。その上を獣人族や炭鉱族、インプにオーガありとあらゆる生物があるき出した。ホログラムっていうんだろうか?魔法で動いてるからホログラム魔法。

そしてやっぱりこの樹の下は異世界らしい。

冒険者ギルドも、地下迷宮ダンジョンも、王国も皆本当に存在する夢の異世界。

早く、早く行ってみたい!!


ボクは話を聞きながらそんな焦燥に駆られた。




「とまぁ、世界の様子はこんな感じ。それと君が元いた世界に帰る方法はいくつかはあるんだけど、どれも大量の魔力を必要とするからそうおいそれとは行き来できない事をもしここに残るなら覚えておいて。」


「はいっ!」


「いい返事、他になにか質問ある?」


「えっと、そのラブードゥーさんはボクに魔法の稽古をつけてくれるんですか?」


「うん、多分イザナヱもそのつもりで俺をここに呼んだんだろう。君がもし下に下りる気があるならすぐには殺されない程度にまで特訓してあげるよ。」



本や小説では当たり前のことだけど、直ぐ側に死ぬという概念がある世界なんだなぁと少し怖気づく。それもワクワクには勝てないのだけれど。



「よろしくお願いしますっ!!」



そう返事をすると今日はもう遅いから早く寝て特訓は明日からねと言ってラブードゥーさんはそのままごろりと横になってしまった。。。

お風呂は入らないのかな、、、、







そう思いつつも人生初の相部屋に河咲萌枝は嬉しそうに彼女の横で眠りにつくのであった。

頭をどんぐりの詰まった小豆枕の上にして。




















亜人(この世界ではあらゆる種族の血が限りなく薄まった種族の総称として使われる。例えば獣人族の亜人は体の一部、尻尾や牙だけが残っていたり、背中が体毛に覆われているだけだったりする。一般的に種族の特徴が少なくより人の見た目に近いものは、そうでないものに亜人と呼ばれ煙たがられたり嫌われたりする傾向がある。)

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