異世界勇者様の隣のとなりっ!
ken.ji0827
零章 冒険へ…
第0,1話 宇宙《そら》に伸びる木
0,1話
こんこん、こんこん(ノックの音)
こんばんは。
−どなた?
夜分にすみません。実はうちの庭から蝶が抜け出してしまって、この辺りにいるんじゃないかと探しているのです。
−ごめんなさい、あいにくそれらしいものは見ていません
えぇ、えぇ、あなたは「見て」はおられないでしょう、随分と夜分遅くに失礼しました。
しかし、今宵は珠月の輝き美しく、手が届きそうなほどです。
もしよろしければこちら側に来て一緒にご覧になりませんか?
−本当だ、まるで月の隣に引っ越しちゃったみたい…。
(靴は要らないのかな︙)
手を引かれ登る宵道を照らすお月さまの前を通り過ぎるのは叢雲だけか
蝶の羽風は花を揺らし、夜は静かに、静かに
「んっ、、、、」
深い夜に目を覚ました少女は左手で右肘辺りを掴みながら上に伸びをする。
同時にしまった、寝すぎた、、、と思っていた。
彼女はまだ時計は見ていなかったが感覚的に自分が寝すぎたことくらいはわかったからだ。授業終わりのチャイム前に目覚めちゃうやつに似ている。
「あっ、え、、、、?」
目覚めてから少女は辺りを不思議そうに見回す。
ここがどこだがとんと見当がつかない。
少なくともさっきまでいたはずの自分の部屋ではないし、そもそも自分が寝っ転がっているあたりからして変だ。だって確か―
そんなふうに頭を整理しながら少女は記憶の糸を辿りながらなぜ自分がここにいるのかを思い出そうとする。
直前の記憶はいつもみたいに週末図書館の二階の窓際の席で本を開きっぱにして日向に誘われうつらうつら。
それから5時になって、その本と他に何冊か借りて家に帰って部屋で夕餉もそこそこにその本をまた読み始めて、、、
座ったまま寝落ち。
しかし今少女がいるのは木の枝の上。
当たり前だがその枝は太い幹から伸びている。
そっちは幹周りが一軒家くらいはありそうで、今少女がいるのはその伸びた枝の幅が教室の半分くらいになっているところ。
大樹に葉っぱは付いておらず所々に枯葉を掴んでいるだけであった。
(こんなでかい木なんて存在するのかな?)
大樹を眺めながらはて、ボクは豆でも植えたんだっけと頭をひねる少女はそこで初めて気づいた。
枝の先に広がっているのは理科の授業で習った大気圏というものそっくりの景色。
わっ…
少女は怖くなってさり気なく両手で座っている場所の近くにある木のボコついたところにしがみつく。
(落ちたらどうしよう。。。。)
少女は状況がわからずわたわたしている。
頭の中ではもしかしたら異世界に飛ばされちゃったんじゃないかと少しのわくわくを抱えながら。
上を見ると自分が乗っかってる木はまだ後100メートル位は伸びていそうに見える。と、その手前の方、五メートル位先、自分のいる場所より建物の一階分位高いところにある枝に一人の男が肘をついて寝転びながらりんごをモシャモシャやっている。顔は星明りのまばゆいとはいえ暗闇でよく見えない。
とりあえず視線を送る。少女はもちろん人見知りするタイプだ。こんな時でも。
モシャモシャ、、、、、
シャリシャリ、、、、、ペラっ
シャリシャリ、、、、、
少女からは陰で見えないが恐らく本を読んでるのだろうと彼女は思った。行儀が悪いとは思いながらたまに自分もああやってる気がするからだ。
なんとか勇気を出して声を掛けようと立ち上がる。
とその時眼下に広がる上空何万メートルの景色に貧血を起こし体がふらついて、あっ、と思ったときには彼女は気を失っていた。
男はそれでも一瞥もくれずシャリシャリ、、、シャリシャリ、、、、
少女はまた目を覚ました。
景色はおんなじ。
違うのは自分の乗っかってる枝の両脇からは小さな小枝が柵のようにニョキニョキ伸びていたことくらい。
(空に伸びる残橋みたい。)
少女は思った。と同時に少なくともこの状況が自分を殺す為ではないんだろうな、とも思った。多分。
少女は今度は膝立ちになりながら男に声をかける。完全に立つのはまだやっぱり勇気がいる。
「あのー、、、ここがどこだか知りませんか?」
男はうんともすんとも言わずただページを捲っている。
(聞こえなかったのかな?)
少女はもう一度声をかける。
「ボク河咲っていいます!ここに迷い込んでしまったみたいで、ここがどこだか教えていただけませんか!」
なんて幻想的な台詞だろう、少女の胸がやはり少し踊る。
男はこちらを向く。ちょっと煩わしそうにして。今いいとこなのに、みたいな顔して。
高校生にもなって休日に家の近くの図書館へ朝から通う読書家の少女にはその気持ちがよくわかった。
のでその本を読み終えた後でもいいんですけどと少女は言おうとした。
けれどその前に男は言った。
「木の上。」
(見ればわかるよっ!!)
それきり男はまた本に夢中になっているので少女は彼がそれを読み終えるまで大人しく待つことにした。男の方をチラチラ見ながら。
(彼も日本から来たんだろうか?)
よくよく見ると男は蘇芳色に銀杏模様の作務衣に雪駄を履いていて、たしかにさっきも少女に日本語で答えていた。
男の読了を待つ間に小枝の勾欄の耐久度を確かめて今度は慎重に少女は周りを見下ろす。
そこには飛行機に乗らなきゃ絶対に見れない空の景色が広がっていた。
しばらくしてから頭に何かがコツッと当たった。反応する暇もなく続けてゴッ、ゴツッ、ドッ。いたっ。
足下には変な果実が転がった。
(ボクにくれたのかな?)
男の方を見るがこちらを見る気配もなく足元に散らばる果物と同じものを食べながらニヤニヤしてページをめくっている。
(ボクも多分時々あんな顔してる。多分。)
そう思いながら少女は落ちた果実を拾う。一口かじる。
シャリ。
味はりんご、色が黒なのはこの際置いておこう。
夜空が広がっている。星達もはしゃぎまわっている。月は手が届きそうなほど大きくて、寝そべる男はまるでそこからやってきたみたいだと少女は思った。
暫くしてから男が本を読み終えたのかヒョイッと上の木の枝からこちらの木の枝まで飛び降りてきた。
(もし落っこちちゃったらどうするんだろう?)
そんなふうに思いながら彼の方を見ていると、彼はどうしたい?と聞いてきた。
端正な顔立ちで、瞳の大きく、鼻筋が良く通っている。唇は薄く、少女は何だか少し変な心持ちになる。
(誰が?なにを?どう?)
質問がアバウトすぎて少女は返答に困る。
聞きたいことも沢山あるけど、とりあえず今はなんだか気疲れで風呂にでも入ってゆっくりしたいかもしれない。夕餉の後にそのまま本を読んで眠ってしまったし。
なんて少女が思っていると彼は木の幹の方まで返事を待たずスタスタ歩いていってしまった。
ミキメキミケメキっ!!!!!
音は直径20メートルくらいはありそうなその太い木の幹がそこに空洞を作るのにたてた音だった。
男は少女の方を向く。早く入れとでもいわんばかりに。
少女はトテテっ!と擬音が付きそうな感じで足取りおぼつかなく急いでそこに向かう。
中はキャンドルで薄暗く照らされており、部屋の真ん中には大きな浴槽サイズの花籠があった。
花籠の中にはお湯が張ってあり湯気が立ち上っている。樹の実も浮かんでる。多分どんぐり。緑のまだ熟してない小指の爪ほどの小さなやつ。少女はそれをとても可愛いと思いつつもそれよりどうして水がこぼれてこないのか不思議でならない。
男は早くしろよと後ろから言った。
お風呂に入れと言うことだろうか?
入って良いのかな?
でもせっかくこんなに可愛い浴槽があるんだし、、、、入っちゃおう!
少女は流石にその日出会った人に裸を見られるのはちょっと、、、と思い振り返りながらその旨を先程の男に伝えようとする。
「あの、、、できればひとりで入ら、、、、」
男はとっくに部屋の中にはいなかった。
部屋の入口からはさっきの雄大な夜空が見える。絶景露天風呂。
お湯の中に浸かりながら、彼は存外いいやつかも知れないと少女は思った。無愛想だけど、果物もくれたし。と。
(でもさっき心を読んだ?)
人付き合いの少ない彼女にとってそれは衝撃的な出来事だった。彼女の両親でさえあの子の考えていることはよくわからないと口にするほどであったから余計である。
彼女がホクホクしながら湯から上がると着てきていた鳥の子色のワンピースは浴槽の花籠の隣の小さな花籠の中で洗濯されていた。
木の枝がニョキニョキ部屋の内側から伸びて器用にその枝手で洗っているのだ。
(こうゆうのは、何だっけハリーポッキーに出てきそうなやつ。可愛いのでしばらく眺めてようかな、、、、)
と、
くしゅん!!
着替えどうしようと少女がスッポンポンで考えていると部屋の入口にパサッと黒い布が落ちる。それを木の枝が拾い上げ、少女に着せた。そのローブは夜空のように神秘的な黒の下地にいくつも星の光をキラキラと跳ね返していた。
(肌触りはシルクみたいだ。)
二の腕のところをすべすべしていると今度は木の枝が少女をたくさんのキャンドルの前に座らせる。するとキャンドルを挟んで木の枝が座布団みたいな大きな枯れ葉で後ろから仰ぎはじめる。
少女がそれを枝が自分の髪を乾かそうとしてくれているのだと気づくのにはしばらく時間がかかった。
背中がぽかぽかしてきて、じんわりとまた汗ばむ。
少女の長い黒髪は割とすぐに乾いた。
外に出ると男はまたさっきの少し上の方の枝に寝っ転がってまた本を読んでいる。
「あの、お風呂ありがとうございました!!
お湯加減も良くて、アロマ、、、?
、、、なんか香りも凄い甘くて、、、すごくリラックスできました、、、、って、あぁぇ?」
床から枝が伸びて彼のいる所まで少女を運んでいく。便利な枝である。
彼の目の前まで行くと彼は少しめんどくさそうに「で、どうしたいの?」と言った。
主語も脈絡もない。
男は少し苛立たしげにしていて、あぐらをかきながら頬杖をついている。
(どうしたいって、もしかしてアレのことかな、、、
あの男と女がアレするアレのことなのかな、、、
そりゃ女の人をこんなところに呼び出してお湯に浸からせたんだからやっぱそうなのかな、、、
よく見るとさっきからボクの体を上から下までじっと見ているし。)
学校に行き始め、教室の隅で本を読んでる少女だってそれくらいのことは知っている。むしろそんな少女だからこそ余計な予備知識を親にバレないようにスマホから、或いはお母さんが集めている薄いピンクと紫の表紙の本から得ていた。男の人と女の人は時に愛し合っていなくてもホテルへいき、まずはシャワーを浴びるのだと。
「え、えっと、、、」
いつか自分にもそんな事が起こるのかと時には授業中、時にはホテルの前を通りがかった学校の帰り道に妄想に耽っていた少女もそのあまりの早急な到来に戸惑っていた。
と、その時小枝が男のおでこをピシっと叩いた。
当然ここはホテルではなく上空数万メートルに伸びる木の上である。
男が怒ったように声を上げる。
「てんめぇ、木霊の分際でこの俺に意見するたぁ良い度胸じゃねえか!!
よぉし、わかった。
てめえがそう来るなら本来の目的はお預けだ!
さきにてめぇを木炭にしてやる!!
丁度火属性魔法の新たなネタを仕入れたところだ、覚悟しろ!!!」
彼はそういうと立ち上がって、彼のおでこを叩いた木枝の方を向きながら彼の怒髪天をメラメラと燃やします。彼の髪が今度は青と緑に変色するときにはボクは彼は整髪料にガリウムと銅でも使ってるのかなとちょっと呑気に考えてたのですが、ハッと彼の言ったことを思い出して咄嗟に叫んでしまいました。
「魔法が使えるんですか!?!?」
「あ゛ぁ!?」
彼はこっちを見ます。こめかみに青筋を浮かべて。
眼の内側にも炎が灯されていました。
顔は真っ赤。怖すぎてボクは金縛りにあったみたいに動けなくなって、目から涙が出そう。
その隙をついて木の枝が彼の上から水をかけました。
ばしゃあっ!!!!
さっきまで黒のショート寸前の彼の髪が今やプスプスと焦げたセミロングの黒髪に。
白と焦げ茶の泡がついているところを見るにあれはさっきの洗濯のときの水かも知れない。
だとしたらちょっとやだな。
しかし今度は男の人は肩をぷるぷると震わせながら不気味な笑みを作っています。多分頭の中では「よぉし、てめぇ等は終わりだ。ギタギタにしてぶっ殺してやる!」とか思ってそうです。
どうしよう…
すると木の枝が沢山の枯れ葉をつけてあちこちから伸びてきてワサワサと揺れだしました。
耳を済ませると、
『ま!ほ!う!
お!し!え!る!』
って言ってるように聞こえました。
木が喋ってる、、、、ボクだけ木霊の幻聴をきいているのでしょうか?
『いいえ、だれでも』
ボクはキョトンとして彼と木の枝を交互に見ます。
男はまたウザったそうな顔をして一言。
「それがお前のしたいこと?」
魔法、、、、
それはここに来るまで、あまりにも平凡な人生を送ってきたボクにとって、
教室の隅で本を読むしかなかったボクにとって、
らくがき帳を大好きな絵で一杯にして、もし彼らが動き出して現実になればな、なんて夢を見ることしかできなかったボクにとって、
首をすぐにうんと縦にふらせるそんなものでした。
ボクが頷くと男はすごい大きなため息を付きました。なんでかはわからないけど失礼なやつだ。
主人公:河咲萌枝
黒髪ロング、読書家、お絵描きが趣味のボクっ娘。
休日は図書館で絵を書いたり本を読むか、部屋にあるピアノを弾いている。
お気に入りの本は銀河鉄道の夜としゃばけ。
木の上の男:????
銀杏柄の蘇芳色の作務衣を着た目つきの悪い男。
本は何でも読むが彼なりの順番があるらしい。なんでも全ての物語は繋がっているそう。ここ最近の順番は坊っちゃん、ワンピース最新話、無職転生、ブレイブストーリー。
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