第6話 ついに......!?

 創作研のメンバーに向けて、やれますと意気込んだまでは良かったのだけれど、現実的に考えると、結構カツカツのスケジュールだよね......


 帰宅途中、電車に揺られながら、私は、さっきの会話の内容を思い返していたの。普段の私の投稿スケジュールは、週二〜三回位。文字数にすると、多くても七千字。


 つまり、普段よりも多くの文字数を書く必要がある上に、まだ、物語の構想も練っていないの。この状態を考慮すると、愛宮えのみや陽永ひなとしての小説投稿をストップしないといけないね。実は、ここ最近、部誌の制作に注力しすぎて、WEB小説に投稿している作品がストック出来ていなかったの。それが、裏目に出るとはね......はぁ、なるべく止めたくないけど、仕方ないよね、非常事態だもん。とりあえず、お知らせ欄に、一週間投稿を停止しますって書いておこうかな。


 あと、これから創る物語は、設定やキャラ造形を過去に書いた作品に似せた方が、時短になるね。何だか、既存作品をリメイクしている感覚に近い気がしてきたよ......


 まぁ〜とりあえず、最低限の方向性は決まったね。それじゃあ次は、出来ることから取り掛ろうかな。


 私は、心の中で決意を固めつつ、現実とは異なる、空想の世界へ、思考を溶け込ませていったの。


 う〜ん、一万字で完結するから、設定の緻密さより、テンポの良さを優先しよう。そして、私の得意分野である、表現の繊細さを活かせる物語といえば......【余命わずかな家族の命を救うために、主人公が奔走する】とかかな?


 友人や家族、身近な人同士の話なら、既にある程度下地があるところから始められるからね!多分、全力で書けば間に合うはず。


 ———それから約一週間。私は、暇さえあれば、ずっと、パソコンと向き合っていたの。文字を打ち込んで、見直して、大丈夫なら、また作業を進める。普段と違って、時間の猶予がないから、私の手癖?みたいなものが、存分に出ている作品になってしまったかも。


「はぁっ、私=愛宮陽永だってこと、誰かにバレないと良いんだけど......まぁ、とりあえず今は、作品を書き進めないと!」


 心に、小さな疑念を抱えながらも、締め切り当日の朝に、なんとか作品を完成させた私。それを、創作研の全体グルに提出して、数日が経ったある日。部誌に提出された作品の講評会を行うことになって———


千影ちあきちゃん、お疲れ様。凄いね!本当に間に合ったんだ〜。でも、少し疲れてる?あっ、もしかして、また、睡眠時間を削ったの!?また、あたしの美容レッスンが必要かな?」


「いえ、有沙加あさか先輩。睡眠はとれていたのですが、執筆をしてた期間、毎日パソコンと長時間向き合ってたので、身体が悲鳴をあげていて......」


「オッケー、任せて!あたしがその疲れを癒してあげるよ。いえ、言い方が良くないね。千影ちゃんの苦労を、あたしに労わせて欲しいな。」


 そう言うと、有沙加先輩は、私の肩をマッサージしてくれた。正直身体は楽になったけれど、今、求めていることは違うの。早く、私の作品を評価して欲しいし、私もみんなの作品をしっかり評価したい。


 この衝動が抑えきれなくなって、創作研の全体グルに送られていた部誌を確認したの。すると、表紙に、進藤しんどう君のイラストが載っていて、それを見た私は———


「絵に詳しくなくても分かるよ。進藤君、凄く拘ってイラストを描いてるんだね。」


「何でそう思った?俺は小森の前で、絵に関して語ったことはないはずだけど。」


「だって、デッサンをしたのかって位、人物の構図が自然な上に、色の塗りムラがないから。特に、色を塗る工程は、いくらでも手抜きが出来る気がするし......」


「なるほど。改めて言われると、俺は、自分の絵に対して、拘ってるのかもな。一度描き始めたら、途中でやめなくないし、不完全な状態で人に見せるなんて、他の人が許しても、俺自身が絶対に許せない。拘ってると言われれば、確かにその通りだ。というか、絵に限らず、興味を持った物事は、とことんやらないと気が済まないんだ。この気持ち、小森こもりもなんとなく分かるんじゃないか?」


 あっ、そっか。進藤君は明言しなかったけれど、小説を書いている時の私と、絵を描いている時の彼が、似てるってことだよね。


 確かに私も、コンテストに応募する作品は、何十回も見直したよ......今回、部誌用に書いた作品は、時間の都合上、細部まで拘れなかったけれど。それでも、自分の軸は曲げずに、私だけの世界を表現し切ったつもりだよ。だからこそ、早く、みんなからの率直な感想を聞きたいよ。


「ふぅ、マッサージはこのくらいにして、あたしも、みんなの作品を読ませて貰おうかな〜。まずは、今年の創作研の救世主!千影ちゃんの作品から読むね。」


 いつもと変わらず、ハイテンションな有沙加先輩だったけれど、いざ作品を読み始めると、一言も話さなくなったの。そして、読み終わって、画面から目を離したかと思えば......


「少し聞きたいことがあるから、一緒に来てもらっても良いかな?」


       「はっ、はい!」


 私は彼女に連れられて、近くの踊り場までやって来たの。普段、エレベーターやエスカレーターを使っていたから、あまり来たことがない場所で、何だか気分が落ち着かないよ。


 あっ、もしかして、有沙加先輩の気に触る内容だったのかな?それとも、愛宮陽永のこと?一体、どっちなんだろう......


「一応確認するけど、千影ちゃんは、過去に小説を執筆した経験はあるの?」


 う〜ん、核心的な質問ではないから、回答に困るよ。これ位なら、正直に答えても良いかな?


「はいっ、経験はあります。でも、何で今、その質問を?」


「それはねっ、判断材料が欲しかったからだよ。けど、もう大丈夫。結論が出たから。千影ちゃん、貴女は、愛宮陽永だよね?」


        「うぇ、っ」


 いつ......どこでバレたの?


                  続く

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