第5話 非常事態への対応

 何て声をかけるのが正解なのか、私には、よく分からなかったよ。創作研にとっては、今までの努力が無駄になるかもしれない位、悪い影響を与える出来事だと思うの。何故なら、本来部誌に載せる予定の作品が使用出来ない状況になって、空白のスペースが出来てしまうからね。


 けれど、受賞が喜ばしいことなのは、間違いないよね。だから、私はひとまず、彼に褒め言葉を贈ることにしたの。


「......分かりました。私から、皆さんに伝えておきます。それと、あのっ!受賞、おめでとうございます。凄いですね。」


「うん。以前、小森こもりさんには、受賞する可能性が低いから、記憶の隅にでも留めておいてと伝えた手前、今回の受賞は、僕にとっても予想外の出来事だったんだ。でも、願ってやまない結果を得られたから、この機会を最大限に活用して、もっと高みを目指したいと考えているよ。例えば、今回みたいな短編ではなくて、長編を一冊の本として出版したりとか......」


 あれっ?私、乱橋らんばし先輩から、コンテストの件を前もって聞かされていたのかな?そういえば、数週間前に———


「小森さん、編集作業をしながらで良いんだけど、一応、伝えておきたいことがある。」


「はい、何ですか?」


「僕の小説、外部のコンテストに応募してて、もし、そこで受賞したら、作品のあらゆる権利が主催者へ移るんだ。別に、内容が変わるとかではないけど、学園祭の時に、部誌で使うことが難しくなると思う。でも、受賞しなかった作品に関しては、著作者が自由に取り扱って良いって話だったから、念のため、記憶の隅にでも留めておいて。」


「あっ、分かりました。この件は、他の方には.......」


「可能性が低いから、僕としては、伝えなくても構わないと思う。そうだな......小森さんが必要だと思うなら伝えても良いし、別に問題が無いと思うなら、伝えなくても平気だ。君の好きにして。」


「なるほど、了解です。」



———うわぁ、そうだった!私、乱橋先輩から伝言を受け取っていたみたいだね。やっと思い出したよ。


 つまり、今回のことは、私の責任になるのかな?うぅ、本当は怖いけど、とりあえず、創作研のみんなに伝えておこう。


 私は創作研の全体チャットに、ことの詳細を送ったのだけど、本来の活動日ではなかったため、たまたま大学に居た、進藤しんどう君と有沙加あさか先輩しか来てくれなかったの。


 まぁ、今の時間は、夜の七時。既に五限も終わっていて、多くの人にとっては放課後だから、用事がない人達は、帰宅していて当然だよね...... はぁ、どうなるかな———


「あぁ〜、急いで来たから、髪の毛が乱れてて、全然美しくない!ちょっと待ってね、今直してるから......」


 相変わらず、有沙加先輩の美に対する拘りは凄いね。一応、私も見た目を気にし出したけれど、彼女に追いつける気はしないよ。


「はいっ、急遽集まったこのメンバーで、話し合いを始めるよ......って、先也せんや君!心配そうな目であたしを見つめてるね。多分、この人にまとめ役なんて出来るのか?とか思ってるでしょ。」


「いや、有沙加さんに対して、そんなことは......」


「誤魔化さなくて良いって♪珍しく、分かりやすい位表情に出てたし......ぶっちゃけ、三年の代表にやって貰いたい役回りなんだけど、残念ながら、今日は居ないんだよね〜。あと、乱橋は当事者だから、除外するとして、この場ではあたしが最年長ってことになるから、適任だと思って、引き受けたの。はいは〜い、余談はここまでにして、早速話を進めるよ!」


「まずは、今回の事態の責任が、誰にあるかという話からですか?」


「うん、先也君の言うとおり、責任に関してなんだけど......結論から言うと、誰のせいでもないよ!」


         『えっ』


千影ちあきちゃんは一年生だし、創作研に入って日が浅いから、誰に伝えたら良いのかとか、よく分からなかったよね?だから、気にしないで良いよ。乱橋は......二年で、あたしと同期だから、本来なら責任を取って貰いたいところだけど、今回は、特殊なケースだからね。ギリギリセーフってことで!」


「えっと、報告しなかった、私が悪いと思ってたので、意外でした。」


「僕も、自分の伝達ミスだと思ったのだけど。」


「二人とも驚いてるね〜。まぁ、主に乱橋が納得出来るように、補足説明をしようかな。

あたしは、乱橋がどのコンテストに応募したかは知らないけど、一般的なものだと、作品が受賞する確率なんて、1%にも満たないんだよ?そんなミラクルを想定して行動する方が、難しいと思うけどね。」


「俺も、有沙加さんに概ね賛成です。今回は、偶然が重なった結果として受け止めるべきかと。念の為に言っておくと、乱橋先輩の小説を書く技量を疑ってるとかではなく、世間一般の認識として、コンテストで受賞する小説を書くことが出来る確率は、とても低いということです。なので、誰かに責任を背負わせる必要は無いと思います。」


「うんうん、その通りだね。でも、学園祭用の部誌となると、話が変わってくるんだよ!」


「あのっ、今思いついたのですが、部誌のページ数を減らせば解決するかと......」


「ありゃりゃ、先也君の説明不足で、誤解してるみたいだね。」


 えっ、どういうこと?私が挙げた意見の何がダメだったんだろう?もしかして、見当違いなことでも言ったのかな......


「今まで、小森にこのことを話す機会が無かっただけです......気を取り直して説明すると、今回の部誌は、部数を多めに印刷するから、その作業を外部の印刷所に注文してるんだ。でも、これが結構面倒で、細かいページ数は指定出来ない。例えば、服のMサイズみたいに、一定の規格に分けられていると考えてくれ。」


「......ということは、一度注文しちゃうと、細かな調整が効かない!?」


「そういうことになるね〜。一応、未だデータを送ってないから、電話で伝えれば、ワンチャンどうにかなるかもしれないけど、多分、印刷所の人から怒られて、二度と請け負ってくれなくなるよ。そんなことになると、来年以降が困るからね〜。」


「......ページ数を減らせないし、作品を用意出来てない今の状況って、かなりまずくないですか?」


「先也君の危機感は正しいよ。だから、みんなで打開策を考えようって話なんだけど、部誌提出の期限が近いから、こうして活動日以外も作業をしてくれてるわけでしょ?今、ある程度自分の役割が終わっていて、小説を一週間で一万字位書ける余裕がある人なんて、いないよね〜。う〜ん、どうしたものかな。」


 有沙加先輩達は責めなかったけれど、間違いなく、責任の一端は私にあるよね。だから、私がどうにかしないと!


 それに、せっかくみんなで部誌制作を頑張ってきたんだから、無駄にしたくないの。何とかして、完成させる方法は......あっ、リスクは高いけれど、一つだけ、策があるかもしれない。


「あのっ、私が、小説を書きます。編集作業は、九割ほど終わっているので、一週間丸々使えば、一万字位の小説を書けるかと。」


「千影ちゃん、本気で言ってるの?普段からちょくちょく書いてるあたしでも、一週間はギリギリだよ!それに、今は、学祭用の作品を書いてるから、尚のこと厳しいね。」


「俺も、偶に小説を書くけど、自分が一週間で一万字書くことを想定したら、無理だと思う。」


「僕は、どうにか書けるかもしれないが、今週から来週にかけて、ゼミの課題があって忙しいから、厳しいな。」


「やっぱり、現状を聞いた限り、手が空いてるのは私ですね。きっと、今日来てない方々も、自分の作品で精一杯なはずなので。」


「確かにそうだけど、重役を一年生だけに背負わせるのは、気が引けるよ......」


「有沙加さんが心配するのも分かるので、折衷案にしませんか?今から、創作研のメンバー全員に、短いあとがきを書いてもらって、もし、小森の作品が間に合わなかったら、空白のページをあとがきで埋めましょう。」


「あっ、それなら、どうにかなるかもしれないね。分かった!ひとまず、その方向性で行こうか。」


 進藤しんどう君のアシストのお陰で、話が上手くまとまったね。よしっ、絶対に間に合わせてみせるよ!



                 続く

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