第4話 アイディアのために
「はぁ〜、執筆が全然進まないよ......」
「起きる時間は変えれなくても、寝る時間は変えれるよね?とりあえず、夜の十一時に寝てみて。絶対に、次の日のパフォーマンスが変わるから!」
なんてことを言うから、執筆の時間が縮まって、思うように小説が書けないの。それに、美容に関しても———
「髪の毛と肌のケアも大切だけど、まずは、栄養バランスを意識してね!しっかり野菜を食べて、ビタミンを摂れば、肌荒れも改善すると思うから。あっ、それだけじゃなくて、肌の洗顔と保湿も欠かせないよ。後は、お風呂上がりにちゃんと髪を乾かして、塗るトリートメントを......」
って調子でグイグイくるから、それがストレスになって、本来開かれていて自由なはずのアイディアの源泉に、重たい蓋を被せられたような気分だよ。
「小説が思うように書けなくなる位なら、もう、創作研に関わるの、やめようかな.......」
食堂の隅っこで呟いた、私の独り言。誰かに向けて話した訳でもないけれど、偶々通りかかった進藤君に聞こえていたみたいで、彼が周りの知人と簡単な別れを済ませて、私に対して話しかけて来たの。
「
「しっ、
私は、有沙加先輩との接し方に困っていて、それが原因となって、創作活動が捗らないことを正直に話したの。あっ、創作研自体は嫌じゃないってことも付け加えて話したのね。そうしたら、彼が———
「小森が創作研に入ったことで、良い意味でも悪い意味でも、他の人から刺激を受けたんだな。今まで変わり映えのなかった日常が、突然揺れ動いたんだから、驚くのも無理はないと思う。けど、変化をマイナスの意味でしか捉えられないのは、良くない気がする。というか、逃げ腰すぎるぞ。」
「えっ、執筆時間が短くなってるんだから、損してるって思うことは当たり前じゃない?」
「確かに、そういう捉え方も出来るな。でも、未知との遭遇は、言い換えれば、新たなアイディアを生み出す、絶好の機会だとは思わないか?これは、有沙加さんの美容関連の教え以外にも当てはまるはずだけど。」
「新しい、アイディア......ね。」
考えたこともなかったよ。進藤君に諭される前の私は、有沙加先輩が発信してくることに対して、ただ、迷惑だな〜とか、面倒くさいな〜みたいな消極的な捉え方しか、出来ていなかったから。
けれど、彼の言うとおりかもしれない。普段と違うことをしている時って、記憶に残りやすいし、感情の振り幅が大きくなって、特別な何かが生まれやすい環境になっているよね。
うんうん、少しでも執筆活動にとってプラスに働くことなら、私も少し、頑張ってみようかな?
「分かったよ。私、進藤君の言ってくれたことを実践してみるね。」
「なんか、ヤケに素直だな。まぁ、俺の言ったことが伝わったのなら、良かった。じゃあ、俺はそろそろ移動するよ。次の講義まで、あまり時間が無いからさ。」
「ごめんね。折角友達とランチに来てたのに、時間を使わせちゃって。」
「いや、どうせ読むなら、絶好調の時の作品を読みたいからさ。俺のオタ魂が勝手に暴走しただけだから、気にすんなよ。」
「そう、なんだ?とりあえず、講義に遅れないように気をつけて!」
「あぁ、お互い、午後の講義もしっかり受けような。」
嘘!?もう居なくなってる。返事をする暇も無かったよ。というか、彼って、普段は冷静で常識人なのに、
その後、私は有沙加先輩の話に耳を傾けるようになり、寝不足気味かつ無造作だった見た目から、クマが薄まって、健康的な髪や肌が際立つ姿へと変化していったの。ちなみに、今もメイクはしていないけれど、美容関連に少し触れたことで、より詳細にキャラの容姿を描写するようになって、挿絵が無いのに、キャラの姿が思い浮かんでくるみたいだって高評価コメントを頂いたんだよね。
加えて、創作研で、校正の仕事をしていたら、私とは異なるベクトルで、興味深い小説を書く人を見つけたの。その人は、ニ年の乱橋先輩。普段は寡黙で、私ともあまり接点の無い人なんだけど、何というか、物語の骨組みを作るのが上手いんだよね。私は、心情描写。つまり、肉付けの部分に拘っていたから、彼の作品が、とても新鮮に感じたの。学園祭で、周囲からも高評価を受けるだろうし、その時に、乱橋先輩と話すのが、密かな楽しみだね。
というような感じで、私が浮かれていられたのも束の間。学園祭まで残り三週間、部誌作成の猶予が残り一週間まで迫ったある日。創作研全体を揺るがす、重大な問題が、突如として発生したの。
「小森さん、今って、都合は平気そう?」
「はい、大丈夫ですよ。乱橋先輩、どうしたんですか?」
「僕の小説、外部のコンテストで受賞したから、部誌には載せれなくなったんだ。そのことを、創作研のみんなに伝えておいて欲しい。」
「......えっ」
続く
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