第3話『限りなく透明に近いブルー』
けがらわしいラリゴ
そのころは奴隷のふりわけが終わり、オレも佐藤も
鉱山組は何百も
ほかにも畑仕事をさせられる者、木こりをやらされる者、ラリゴ盗賊の
ラリゴ盗賊の人狩りはちょくちょくおこなわれて、すてゴマとして最初にねらいの町へ
そうやってできるだけ死ぬ奴隷よりも多くの奴隷をつかまえて、ラリゴ盗賊の地下牢までつれていき、そこから砦の仕事をさせられる奴隷と、性奴隷や労働奴隷などでいい値段のつきそうな、ほかの奴隷商人に売りとばされる奴隷にふりわけられる。
シンナーもそうやってつれてこられた奴隷なんだろう。
砦はひろく仕事は山ほどあったが、なかでも鉱山組にまわされるのは使いつぶすつもりの能無しが多い。
ひどい話だ。
ホームレスだってなにかの知識やとりえがあるならそれをいかしたもっとましな仕事をもらえるし、金持ちだって使えない口だけのバカなら鉱山でひたすらはたらかされる。
まあシンナーのジジイは、そんな死んでうごかなくなるまで穴をほらされる予定の、無能でぶざまなアホのひとりってわけ。
なに? 説明が長い? セリフが無くて読みにくい?
ごくろうさん。
これでとりあえず奴隷施設についてのくだらない
あとはシコるなり、マリファナを吸いにいくなり、自由にしてくれ。
シンナーは鉱山組が寝起きしているボロ小屋へ、夜になってからブチこまれてきた。
ヒゲもじゃの、骨みたいにやせたしわくちゃジジイは、しばらく死体みたいに床のうえにころがってうごかなかった。やぐらや砦をかこむ
アタマちんぽ骨ジジイはラリゴ盗賊のみはりが行ってしまったあといきなり飛びおきて、キョロキョロまわりをみまわし、オレたちとおなじように手足に
「あんたら、タナカはんとサトウはんやろ? せやな?」
シンナーはまばたきひとつしない狂人の大きな目をギラギラさせて、とつぜんそう言った。
おどろいたオレと佐藤は顔を見あわせる。
「(へっへー!)」
「(なんだこのヂヂイ?)」
「(アタマがいかれてるんだよ、キチガイだ)」
「(……でも、こいつわなんで俺たちの名前を知ってるんだ?)」
「(まぐれだよ! まあキチガイでも、たまにはマトモなことを言うもんだ。びっくりするね)」
「(おおかた、近所の子どもにイタズラしてるホモぢぢいだろ。そんな顔してる。もてあました家族が奴隷に売りとばしたんだ! ロリコンの歯ぬけヂヂイ!)」
「(おい佐藤、このスケベじじいのキンタマをけり上げてやろう! おもしろいぜ、きっとニワトリみたいに飛びあがるぞ!)」
「あんたら、聞こえてまっせ!」
シンナーの白いゲジゲジまゆげが怒る。
「へえ、ジジイはみんな耳が聞こえないのかと思ってたよ。これはこれは、たいへん失礼しました。ペコリ」
「ところで
「おまえら、ええかげんにせえよ!」
シンナーがクサリのついた両手で床をたたくと、オレたちみたいに寝そべったほかのいく人かの奴隷たちがあくたいをついた。
「ジジー、ジジーって、好きほうだい言って! APEXのコンジットちゃうねんから。ボクにはジャン=リュック・シンナーっちゅう、ちゃあんとした名前がありますねん! どついたろかホンマ」
「なんだあ?」
「コラ、うんこ番人のホラふきヂヂイ! いきがって、なろう小説の主人公きどりか? オラッ!」
シンナーのくびがビックリしたカメみたいにちぢんだ。
「う、うんこ? ホ、ホラって。あ、あんたら、暴力はあきまへんで! いったいなにするつもりや! キャー!」
「おいこのジジイ、まだなにか言ってるぞ! たいしたもんだ」
「よお、どっちが強いかためしてみようぢゃねえか。いちど俺たちから税金をまきあげて遊んでるヂヂイどものマヌケづらに思いきりパンチしてみたかったんだよ。これでひとつ夢がかなうわけだ、異世界ってのわ最高だね」
オレにクビをしめられたシンナーは手足をバタバタ、舌をつきだして苦しそうにうめいた。
「や、やめなはれ! く、くびを、はなしなさい、ちゃいますやんか、ボクは、あんたらのこと、たすけにきたんや! あんたら、このンゲンニ界とは、ちがう世界からきた、異世界転移者やろ!」
わっ!
いきなりカラダをときはなたれたシンナーはひっくりかえった。
「ンゲンニ界? よおシンナーさん。それじゃあアンタが神さまかなにか? なんかオレたちに超能力とか、すごい伝説の武器みたいの、くれるのか?」
「オイ! ウソだったら、ただぢゃおかねえからな。俺たちわ人間界代表のアタマのいかれたヂャンキーだ、ションベンもらすまでブンなぐるぞ」
「佐藤、ちがう。オレたちは勇者だ! 勇者が異世界のエルフどもをハメハメしにやってきたぜ。へっへー! デカパイエルフの顔に、AVみたいにブッカケてやるんだ!」
「ヒッヒッヒ。俺にわブッカケのなにがいいのかわからんね、なんだかサカリのついたマヌケなサルみてえぢゃねえか!」
「な、なんちゅう
シンナーはクビすじをさすりながらすわりなおした。
「ボクは神さまに言われてやってきましたんや、あんたらのこと助けてくれっちゅうて」
「おいおいシンナーじいさん、アンタほんとうにイカれてるんじゃねえだろうな?」
「イッパツこづいてやればヂヂイのアタマもなおるだろ。古いテレビみたいなもんだよ」
「あ、あほ! なんですぐなぐろうとすんねん! ボク、あんたらが来ること分かってましたんや。いちおうこのンゲンニ界で、
「
「
「ボクら
魔力がたかまることをとぶ、っていいますねん。
このまえの夏やったかなあ? 海行った帰りにチルして、夜なかにツレのオッサンと公園で
「うーん、人によるんじゃねえの?」
「俺も
「へ、へえ」
「それで田中、そんでさあ!」
「わ、わかった、わかった。とりあえずシンナーじいさんの話を聞こうぜ」佐藤は楽しいだろうが、他人の夢の話とトリップの話ほど意味不明で聞いていてつまらないものはない。
(※リゼルグ酸ジエチルアミド=LSDは幻覚剤の一種で、
「ほんで、ちがう世界から田中はんと佐藤はんゆうひとらが来るゆう話で。神さまから、これをわたすように言われましたんや」
シンナーはかぶった赤いキノコ帽子のカサをひょいとあげて、中から
それはタバコとはすこしちがって、火をつけるさきっぽにいくにしたがって太くなっている。火をつけやすいように紙をねじったこよりでさきがふさがっているわけではなく、吸いさしなのかこげた乾燥大麻がのぞいている。
しかし吸いごたえのありそうな、ひじょうに太くまかれたジョイントだった。気のせいか、それとも久しぶりにおがんだせいか、うすくらやみのなか大麻がフシギな光でキラキラかがやいて見える。
「ボクらがすむこのンゲンニ界には神話の時代に作られた、いくら使っても無くならない、フシギなドラッグがありますねん。この大麻のジョイントは『ぶっとび丸』っちゅう名前で、そんな伝説の武器ならぬ伝説のドラッグのひとつです。ほかにもいくつか種類はあるんやけど、それぞれひとつしかない、ボクら
魔法ドラッグはとても強いもので、ふつうのンゲンニ界の人間には使いこなせまへん。魔法ドラッグはそれを使う人間の
ンゲンニ界にはその昔、『はじまりの
オレはシンナーの手から、その魔法ドラッグの『ぶっとび丸』とやらをもぎとった。
「ゴチャゴチャうるせえよ、はやく火をよこせ!」
「おとなしく説明くらい聞きなはれや! それボクら
「ヂヂイとババアの話わ長いだけで、なんにも中身が無いからな。オナラみたいなもんだよ」
「……もうよろしいわ、好きにしいや。ハア
魔法ドラッグの『ぶっとび丸』は火がいりませんねん。吸いこむだけでかってに火がつきます。火を消すときはふつうの大麻とおなじで、ほっといたらそのうち自然に消えますわ。ほんでナンボ吸っても無くなりまへん。まあ無限に使えるVAPEとか電子タバコみたいなもんやね」
「シンナーじいさんの話、どう思う?」
佐藤の
「うーん。このヂヂイがマヂで神さまのことを信じてたり、本気で魔法ドラッグがどうの言ってるとしたら、そうとうぶっとんでるぜ。アタマのなかがこんがらがってるみたいだから、今すぐ病院にぶちこんだほうがいい。まあボランティアだな」
「しかし、この大麻はホンモノっぽいぞ」
「そうだな、とりあえず吸ってみてから考えようぢゃねえか」
「吸いこむだけで火がつくって言ってたな。どういうしくみだ、ほんとかよ?」
「ヒッヒッヒ、もしかしたらストローみたいにヂヂイの鼻くそでもつまってるのかもしれねえぞ! 田中もそんなきたないものに、よく口をつけられるもんだね。オエッ!」
シンナーの話をまにうけたわけじゃないが、ためしに吸いこんでみると、本当にさきっぽに火がついた。
ふかく吸いこむと、すぐに肺の奥そこから脳天まで、カラダじゅうをトリップがつきぬけた。
ふつうこんなスピードでマリファナの飛びがココまでまわることはない。
コレ、ほんとうに大麻? それともまじり気なしのガセネタじゃないとしたら、マジで魔法なのか?
ゴホ、ゴホ。大麻を吸うとケムリがむせてセキがでてくる。しかし大麻からでるセキは病気のときのとちがって、セキこむたびに楽しくなってくる(ときとばあいによるが)。
苦しいというよりも神さまからプレゼントをもらったみたいな、思わず笑いがでるみたいなセキだ。
「ゴホ、ゴホ、ゴホ、ゴホ。ふーむ、ブルードリーム(※大麻の
すでに佐藤の目はまっ赤にじゅうけつして、んー、んーといいながら、カラダが蒸気機関車になったみたいに口と鼻からもくもくケムリがたちのぼっている。
オレも、んー、んーとうなった。
世界じゅうが七色にキラキラかがやきだす。
アタマか心か、カラダのなかのどこか草原からそよ風がふいてきて、だんだん強くなり、しまいには嵐にまで成長しそうなワクワクする
「やめてくださいだっぺ! は、はなすでげす。ダメでやんす!」
そのときボロ小屋の
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