第2話『裸のランチ』
幸福とは、セロトニン、ドーパミン、オキシトシン、エンドルフィン、その他神経伝達物質の脳内カクテルだ
それを人は神や愛、セックス、正義、自由、平等、金、平和、希望、芸術、ドラッグ、一般意志、魔力などと呼ぶ
☆☆☆
異世界ぶらぶらドライブの物語をさきへ進めるまえに、ここでオレの簡単なプロフィールを話しておこう。
オレの名前は田中
異世界へ来るまえにつとめていたのは絵に描いたような
しかしブラック企業にはブラック企業なりのメリットもある。
会社自体が違法行為をくり返してるから、オレが多少の犯罪を犯しても見て見ぬふりをしてくれるし、もっと重大な労働基準法違反を
だから目玉がまっ赤でもロレツがまわらなくても誰も気にしない(さすがに電話応対の時はわざと後ろからドン、とぶつかられたりはするが)。
みんなストレスで人間関係が最悪だからおたがい誰も何も会話しないし、目のまえに白目をむいて口から泡をふいて
だから大麻の吸いガラや使用済みのLSDのシート、
そんなチンケな薬物中毒社会人のオレにも自慢できることがあって、それは田中家が
カタナ、ハラキリ、カミカゼ・アタック。漫画やアニメ、映画なんかでも有名な、日本が世界にほこるサムライの
まあ正確には武士は武士でも、資産なんかなーんも残ってない
田中家のご先祖さまたちは
いっときは村周辺の山々はすべて田中家が所有していたというから
今でも村には
田中家の没落がはじまったのはひいじいさんの田中ちょんまげ丸の時。
一度も働いたことのない
金持ちのバカ息子にゴマをすってお
身ぐるみをはがされたちょんまげ丸は地獄に
オレが高校三年生の頃に
大企業につとめているのにもかかわらずアル中で、二度も上司をぶん殴り日本各地の
父親は行方不明になる直前、とうとう気が狂ったのかチョンマゲ頭になって(まあすでに頭頂部はハゲていたから、チョンマゲにもしやすかったのだろう)、ふんどし
そしてそろそろ、今度はオレが人間界からオサラバする番だった。
と、いってもべつに、死ぬわけじゃない。
高校の時の同級生の佐藤
まあ、んなもん本気じゃない。
たしかに少し薬でアタマをやられているけど、そんなこと本当に考えるほどまだキチガイじゃない。
『異世界トンネル』というネットのウワサに
まさか本当に異世界に来てしまうとは。
別の世界からはるばるやって来たオレは、この異世界で武士に、いや、勇者になれるかもしれない。
こんなバカなオレでも、今度こそオレの代で田中家の
そうだ。
オレはこの異世界で勇者になるんだ。
なんか凄いパワーみたいのを神さまとかからもらって、勇者になる。伝説の武器とか、そんなの。
勇者になって、有名人になって、金持ちになって、えーと、うーんと。なんだろ。とりあえず異世界のドラッグをキメまくる。それから
ハハハ
今は思いつかないけど、なんか色々やるつもりだ。
冒険とか?
きっと色々やる。
なんか楽しいことやるはずだけどなあ。
異世界なんだし。たぶん。
オレは勇者ってことなんじゃねえの?
よし、色々がんばるぞ。
今度こそ、がんばるぞ。
オレは勇者だ。
「オレは勇者だぞー!」
うるせえぞハゲ! 毛むくじゃらのゴリラみたいな半裸のオッサンにどなられて、ガチン、と、両手でにぎりしめた
おどろいたオレはひっくり返ってしまった。
手足にクサリでつながれた
見上げると、佐藤もオレと同じく色あせたオレンジ色のそまつなズボンだけはかされて、よごれた
男どものきついニオイが
どうしてこうなった?
「おい。佐藤。佐藤!」
「ウー、ウー。アー、アー」
「なんだよ、何かキメてんの? オレにもくれよ」
「ゴホッ、ゴホッ。な、なにも持ってねえよ。チクショウ。薬は全部あいつらに取りあげられちゃったぢゃねえの」
佐藤が目を細めたさきで、牢屋の向こうのラリゴ
あの酒だ。色んな薬とチャンポンしながら、あの
カビくさい土壁の地下には
牢屋はいくつかあるらしく、はなれたところに独房があって、青い
奴隷のオレたちとちがってちゃんとした食事が出されているようだけど、女の子は食べ物にほとんど手をつけることなく、夜中なんかにはふるえたすすり泣きが聞こえて、こっちまで異世界の悲しい夢を見てる気分になる。
「あのさあ、こんなことあるか? 異世界に来たら、勇者とかになれるんじゃねえの? 最悪だよ」
「最悪。せめて風呂わみんなと別にして欲しい、俺パイパンにしてるから恥ずかしいんだよな」
「ところでオレたち、なんで異世界のやつらがしゃべってることを理解できるんだ? こっちの日本語も普通に通じてるし」
「ナア田中。俺みたいな薬中に、そんなむずかしいことが分かるワケないぢゃないの」
「まあ、それは、そうだけどさあ」
この、ハゲー!
また棍棒で鉄格子をなぐられる。
どうしてこうなった?
オレたちは勇者になるどころか、
異世界に来て速攻で奴隷になってしまった。
目を閉じて、何度も寝がえりをうちながら考える。
おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、……(と、心の苦しみをやわらげてくれる魔法の呪文を、オレはヨガのマントラのようにひたすら
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