13.
大笑いをする奴に、笑えないと無表情でいたが、引っかかることがあった。
「俺の願望の……なんだって?」
「兄貴が寝言で言っていたんだよ。『ジルヴァのもふもふ、堪能したい』って!」
「……嘘だろ」
「いやいや、本当。なんなら、録画してあるから観てみる?」
「いや、いい。観たくも聞きたくない」
懐から携帯端末を取り出そうとする奴のことを慌てて阻止する。
自分の寝言なんか恥ずかしくて聞いてられるか。
前にも奴が、自分がもふもふが好きだろと言われたことがあった。ということは、その寝言を聞いたから、しばらく獣の姿でいたということか。
「……優しさは関係ないのか」
「あります! いっぱいいっぱいやさしくしてくださらないと、ひとのすがたになれません!」
両手をいっぱいに広げて一生懸命に言うジルヴァが何だか愛おしく感じて、また撫でてやった。
「やっぱり、兄貴はやさ──」
突如、奴の言葉を被せるように大きな音が遠くから聞こえた。
見やると、大きく、華やかな花が咲いている。
「おお! 花火じゃん!」
「はなび?」
境内の方へ行き、奴が真っ先に行くのを、よく見えるようにと抱っこしてあげた時、ジルヴァは首を傾げた。
「ジルヴァがよく、姿が見えないのに体を震わせていたものの正体だ」
「わー! これがそうなのですね! とてもきれいです!」
きゃっきゃと嬉しそうに笑って、小さな両手をめいっぱい上げていた。
長年気にしていた自身の外見を、無理やりにでも変えてくれ、仕事以外出ることはなかった外へと連れ出してくれた。
嫌なことがまた増えると思うような場面があったけれど、今のようにジルヴァと共に笑えているのならば、結果的に良かったと言える。
「またいっしょにいきたいです!」
「ああ、そうだな」
「おれも行きたい!」
「匡、お前はいいだろ」
「はぁ!? ちょ、酷く──って、また名前読んでくれた?!」
騒がしくも、楽しい祭りの日を──。
華やかな空の花を探そう 兎森うさ子 @usagimori_usako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます