10.


「──玖須君、今日は早く帰った方がいいですよ」


接客していた客が店からいなくなり、誰も店内には客がいなくなったタイミングで、隣でレジをしていたオーナーがそう言ってきた。


「どうしてですか」

「今日は特段に顔色が悪いからですよ。また今日も喉に通りませんでしたか」

「ええ、そうですね。元々食が細いですから」

「それでも、一口でもいいのですので、何か口にした方がいいですよ。それに、ここずっと働いていますしね。私としては人がいないので、だいぶ助かってますが、玖須君の体が堪えているはずです。ですから──」


普段であれば、そのちょっとした気遣いに申し訳なく感じる。けれど、今は、普段以上に心の余裕がない。だから。


「──人がいなくて助かっているのならば、いいじゃないですか。家にいるよりだいぶマシなので、放っておいてください」


人の言う隙間を与えず、矢継ぎ早に言い捨てた。と、言い終えたあと、後悔した。

オーナーにまでそう言ってしまうだなんて。

実際に、オーナーは何も言えなくなってしまい、店内BGMが遠くに聞こえた。


「…………すみません。今日は上がらせてください」

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