8.

‪撫でていた手が止まった。


「·····嘘だろ」

「嘘じゃねぇ。あんな家から出て行こうとしたところに、たまたま兄貴を見かけたんだ」

「あんな家? お前がそんなこと言える筋合いはあるのか。散々甘やかされてきたクセに·····っ」

「甘やかされたことは事実だが、おれはそんなこと望んちゃいねーよ。それになんでおれだけをあんな贔屓を──」

「だめっ! けんかはだめです! めーっ!」


胸倉を掴む勢いで奴に迫ろうとした時、ジルヴァが二人の間を割って入った。


「·····ジルヴァ」

「そうだよな、喧嘩はよくないよな。ジルヴァごめんよ」


「めっ、めっ!」と騒ぐジルヴァを自身の膝上に乗せると、口いっぱいについた米粒を取ってあげていた。


──ほら、こんなにもごはんをいっぱいつけちゃって。


祥也の脳裏に幼子の声が響いた。

何の記憶だ。

知らない、だけど、懐かしい。

そのモヤモヤなのか、アイツと会った時の吐き気が急に押し寄せてきて、たまらず祥也はトイレに駆け込み、ついには戻してしまった。

騒がしい声が聞こえてくるが、祥也は掛ける気力もなく項垂れた。


本当に、最悪だ──。

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