5.
手を繋いでいる小さな子が、時折、自分のことを不安げな目で見上げている気配を感じていた。
オーナーの休憩が終わるちょうどが仕事終わりで、共に店の方に訪れた時にあのようなざまであったから、心配しているのだろう、出会った時がああであったし、特に祥也の体調面は気にしているようだ。
繋いだ手が小刻みに震えている子狼に、何か言ってあげなくては。
──と、角を曲がった時だった。
「あ·····っ」
自分なのか、ぶつかりそうになった相手なのか。どちらとも言えない声を上げたが、互いの目が合った時、再び声を上げることとなった。
「あ、兄貴!」
「·····俺には、兄弟はいないと言った」
「なわけねーってつったじゃん! 長年一緒にいたやつのこと、忘れるわけがないし!」
こちらの独り言にも似た調子とは違い、大声で叫ぶような言い方にも耳障りで、しつこい、と言おうとした。が。
「──で、兄貴が連れているその子ども、誰? は·····っ! まさか、知らないうちに結婚を──」
そんなわけがないと言うが前に、ハッとして隣を見やる。
すると、ぴくりと小さな肩を震わす人の姿のジルヴァがいた。
ということは、目の前にいる奴は──優しい?
「しょーやさま·····?」
「兄貴·····?」
「··········あ」
不思議そうな声で掛けられた二人によって我に返った祥也は、振り切り、さっさと家に帰ろうとした──その時。
ぽつんと、鼻先に冷たいものを感じ、空を仰ぐ。
暗くなっていた空から、次から次へと雨粒が落ちていくのが見えた。
億劫だ。
すぐさまジルヴァを抱えた祥也は、足早と家路に急ぐのを、後ろから「ちょ、待てよー!」と騒ぐ奴にジルヴァが気にかけているが、完全に無視をして。
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