思い出の通りに

 サービスエリアで休憩中、レイはポメラを取り出して、今書いている恋愛小説の続きを打ち込んでいた。

 この間、仕事の途中で立ち寄った、印西市、吉高の樹齢四百年を超える大桜を舞台にしている。


◇ ◇ ◇


 その大桜は満開を過ぎ、時折吹く風のリズムにあわせ、

 夜空を背景として、雪のように花びらが降らせている。


 雫(しずく)は遅れまいと、少し前を歩く淳也の背中を追いかけた。

 彼のブレザーから出ているパーカーのフードに、花びらが舞い込んでいる。


 雫は、淳也に追いつき、フードに入った花びらを数枚、


◇ ◇ ◇


 ここまで書いて、レイはあることを思い出した。


 渋谷に買い物に行ったとき。

 信号待ちの女子高生らしき二人組が、お互いの服を褒め合っていた。

 「そのフーディー、超かわいいね。色もあってるし」


 その子が着ていたのは、レイの感覚で言えば、『パーカー』だ。

 今どきの女の子は、そう呼ぶのだろうか。

 念のため、スマホでいろいろとググってみる。


 わかったことは、

 ①パーカー : 毛皮などで作ったフード付きの防寒着

 ②フーディー: フード付きのスウェットシャツ

 日本では②のことをパーカーとも呼ぶ

 ということらしい。


 うーん、ということは、今書いているシーンでは、男の子はモサッとしたフード付きの防寒着をブレザーの下に着ていることになるのか?

 レイは想像して吹き出したが、モノ書きとしては、笑っている場合ではない。市場調査することにした。


 スマホで、制服のブレザーからフードを出している男子高校生の画像を探し出し、それを添付して、LINEグループ『トラガールの内緒話』に、メッセージとともに送る。


『ねえ、この男の子がブレザーの下に着てるの、何て呼んでる?』と。


 全員からほぼ即答で答えが返ってきた。


  ラナ(22歳)『フーディーね』


  リョウ(25歳)『何かの罠か?……パーカーだろ』


  ルカ(24歳)『パーカーって呼んでる』


  ロマン(23歳)『パーカーとか、フーディーとか』


 レイはお礼のメッセージを入れる。


 『サンキュ! どうやら年とってるほどパーカーみたいだね』


 リョウ『おまえ、オレに喧嘩売っているのか!』


 いや決してそういうわけでは、ごめん、とメッセージを入れて、スマホを置いた。


 何となくパーカーの方が多数派かな?

 でも、若い子ほどフーディー呼びかな?


 レイは、悩みながら、運転席の背もたれを倒し、頭の後ろで手を組んだ。

 目をつぶる。そして、自分が高校生の頃を思い出す。


 二年生に進級して間もないころ。


 下校途中。どこからともなく桜の花びらが舞い降りている。

 歩いていると一瞬、制服から出ているフードが引っ張られたような気がした。


 振り返ると、この春から同じクラスになった男の子が立っている。

 指先には、桜の花びらが二枚。


「パーカーのフードに入ってたよ」

 同級生は微笑んでそう言った。


 それがレイの初恋だった。


 パチッと目を開ける。


 ポメラのキーボードで、一旦、

『パーカー』→『フーディー』

 と一括変換した単語を

『フーディー』→『パーカー』

 に戻した。

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