LINE句会で、初顔合わせ

 ルカから、LINEグループ「トラガールの内緒話」にメッセージが入った。

『ねえ、確か今日は五人とも夜は仕事なかったはず。帰宅したらビデオ通話してみない?』


『いいね。』

『やろう。夕飯食いながら。』

『顔も見れるしね。』

『承知いたしました。』


『それでさ、ちょっとした遊びでね。思ってること、俳句とか短歌とかにしてみない?』

『えー、難しそう。』

『やってみっか。』

『季語があるのは短歌の方だっけ?』

『考えます。』


『じゃあ、宿題ね。夜八時に招待するから。』


で、夜八時。トラガール達が次々とビデオ通話に入ってくる。


『おー、普段声だけだから、これは新鮮。』

『えーっと、リョウとロマンは、わたしと顔見知りだけど、レイとラナは、二人は初めてね。』

『ラナです。この間、大雪が降ったとき、ロマンさんが駆けつけてくれてお会いしました。あの時はありがとうございました。』

『チェーン着けぐらいちゃんと覚えろよー!』

 リョウからヤジが飛ぶ。

『まあまあ、それは置いといて、先に進めるよ。』


『はいはい、じゃあ、ルカ、進行役お願い。』

『キャラ的にはやっぱルカが司会向いてるよねー。』


『わかったわかった・・・では、さっそく自己紹介から行きましょう。順番はそうね、らりるれろ順。』

『え、ボクたちてひょっとして・・・』

『そう、何か作為を感じるけどね。』


『じゃあ、「ら」のラナさん。』

『はい、ラナです。主にコンビニのルート配送やってます。実家は花屋なので配達を手伝わされて軽トラ乗ってました。ルカのご両親のお店に五周年のお花を届けに行ったのが縁で、ルカと知り合い、このグループに入らせてもらいました。よろしくお願いします。』


『よろしく。じゃあ、さっそく一句お願いしまーす。』

『では、オホン。』


“コンビニの 納品相手が 超イケメン


 思わずマスクで スッピン隠す "



『そうそう、そういう感じ。』

『これは後になるほどやりにくいなあ。』



『はい、ではお次、「り」のリョウ。』

『ああ、オレはリョウ。ロマンと会社が同じ。長距離専門。配送先は、大阪、福岡が多いかな。』


 その時、リョウの画面に何かが映りこむ。

『ねえ、ママなにやってんのー?』

『なんか、へんな人がいっぱいいるよ。』

 女の子がスマホのカメラを覗いたり、リョウの後ろを行ったり来たりしている。

『おいおいミム、あっちでおとなしく遊んでいてくれよ。』

『かわいい! この子が、リョウの愛娘、ミムちゃんね。』

 一瞬リョウママと娘が画面から消えた。大きなわめき声が聞こえ、リョウだけが戻ってきた。


『おまたせ。では、一句。』


“手伝うと スケベ心で 寄る男


 足手まといで ありがた迷惑"



『リョウの毒吐き、きましたねー!』

『でも、わかるわかる。』


『じゃあ次の方、「る」のルカ、あ、わたしか!』

『ナイス、ボケ!』

『はい、ルカです。レイと同じ会社、最初は事務やってたんだけど、トラックの運転面白そうなので、2トンで地場の配送もやってます。家のスナックを手伝ってるから、事務とドライバーとチーママの三刀流かな?』


『こいつ、メガネとるとすごいらしいぜ。』

『えー、取って見せて!』

『お断り。見たかったら、“スナック涙花”に遊びに来てね。では、一句。』



“スナックで 対人ストレス ぼやく客


 トラック転職 勧めてみたい"



『そーだねー、トラックの運転始めたら、確かに人間関係のウザさは、だいぶ無くなったよねー。』

『はい、では「れ」のレイ。どうぞー。』


『ボクはレイ。中型中距離だけど、会社が人使い荒いから、長距離とか小型で地場とか、何でもやらされてるよ。そのくせ社長、運行管理厳しくてさー。あ、趣味で、小説読んだり書いたりしている。』

『おー、見た目と違って文学少女!』


『でも短歌とか俳句とかいまいち苦手だなー、では一句。』


“「デジタコが


 付いてるからな」と


 耳にタコ"



『面白いけど、これ俳句でしょ。季語は?』

『季語はタコ。』

『それって季節はいつだよ?』


『そんなら、こういうのは、どうだ?』

 リョウが手を挙げる。


“デジタコだあ?


 おまえ(社長)のアタマは


 ゆでダコだあ!"


『きたきた!』

『本領発揮ね。』


『ハイハイ、ではトリ。「ろ」のロマン。』

『はい。ロマンです。長距離専門で、北関東から東北、時々北海道まで行ってる。ホントは寒いの苦手なんだけど。』


『では、一句、バシッと決めてもらいましょう!』



“脳内で 演歌流れる みちのくを


 走って北に 愛を届ける"



『やっと最後に色っぽいのが出たね!』

『そういえば、ロマン、何か札幌でいいこと合ったそうじゃないか?」


 ロマンの一句がきっかけで、結局この後は、恋バナ大会が延々と続くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る