第32話 こっちが本当の、雨降って地固まる?

屋敷に戻り、モーリスさんに説明をする。


ギレンという仲間と、改めてパンサーさんと親睦を深めたことなど。


すると、モーリスさんが突然……パンサーさんに頭を下げる。


「申し訳ありませんでした!」


「……いや、いい。お主だけが悪いわけではない」


「……俺、さがろっか?」


気を使ってそう言うと、モーリスさんが首を横に振る。


「いえ、私の懺悔を聞いてくださいますか?」


「……わかった」


「感謝いたします。そして、改めてネコネさんとパンサー殿には謝罪いたします」


そして、モーリスさんが話し出す。


「ネコネさんの父であり、パンサー殿の兄であるアイザック殿は我が友であり優秀な狩人でした。彼がいたおかげで、何人の住民達が救われたことか。しかし、ある時……いよいよ、飢饉が迫ったのです。そして、私は彼に食材調達をお願いし……無茶をしたのでしょう、帰らぬ人になりました」


「……そうだったんだ」


「はい……私は恨まれて当然です。この地を預かる者として、彼を犠牲にしてしまいました。それ以降、パンサー殿や獣人達との関係はますます悪化を辿り……今に至るのです」


「そっか」


「ですが、エルク殿下がその氷を溶かしてくださいました。こうして親族であるお二人と、また話せるとは……っ」


そして、嗚咽をあげて泣く。

それこそ、言った通り懺悔のように。


「それで、二人は恨んでいるの?」


「いや、それを決めたは兄自身だ。それを恨むのはお門違いというものだ……無論、何も感じないわけはないし、獣人達が悪感情を抱くことにはなったが」


「わ、わたしも、出かける前にお父さんに言われたから……これは自分の意思だって。お母さんも、恨んじゃいけませんって」


すると、モーリスさんが顔を上げる。


「あ、ありがとうございます……」


「いや、気にすることはない。結局、俺も無茶をして……この通り、片腕が痺れて役立たずになってしまった。それでも、出来ることをやろうと思う。これから、よろしく頼む」


「わ、わたしも頑張りますっ!」


「お二人共……ええ! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


……人に歴史ありってことか。

そして、俺達がぬくぬくしている間にも、そうやって頑張ったり苦しんできた人達がいる。

そのことを忘れちゃいけないし、そもそも……俺達のせいでもある。


「それじゃ、俺も謝らないといけないね。流石に王族としてはダメだけど、ただのエルクとして謝罪します」


「あ、頭をお上げください! これは私の責任ですから!」


「いや、こうなると見越してなかった俺達の落ち度だと思うから」


前世でも、現場を知らない上の方々は沢山いた。

気づいていて放置した人もいれば、気づかずに放置してしまった人もいるだろうけど……はっきり言って、それは現場の人間からしたら関係のない話だよね。


「エルク殿下……そう言って頂けると幸いでございます。貴方の気持ちだけ受け取って頂きます」


「ああ、俺もだ。まだ幼かったお主を責めるほど馬鹿じゃない」


「わ、わたしも! エルクお兄さんは助けてくれたもん!」


「そっか……ありがとう、三人共」


そうして、四人で笑い合う。


ふむふむ、こっちが本当の雨降って地固まるってやつだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る