第31話 雨降って地固まる?

 よしよし、これで必要最低限の人材が揃ったぞ。


 ただ……このアニキ呼びはどうしよう?


 俺は未だに嬉しそうにはしゃいでいる彼に話しかける。


「ねえねえ、ギレンさん」


「アニキ! ギレンとお呼びください!」


「いや、それは俺の勘違いだったというか……君の方が明らかに年上だよね?」


「へい! 今年で二十七歳になりやした! ちなみに、冒険者ランクはC級ですぜ!」


 ……C級って、クレハより上じゃん!

 こりゃ、良い人材が来てくれたぞ!


「すごっ……じゃなくて! 俺は年下だし、アニキは勘弁してもらえると」


「そ、そんな……年齢なんて関係ないっす! 俺にアニキに惚れたんすよ!」


 そう言い、今にも泣き出しそうな顔をする。

 ……ここで問題なのは、前世の俺は彼より歳上だったことである。

 つまり、そういう意味では弟でもおかしくはない。

 何より、彼の士気が下がるのはまずい。


「はぁ、わかったよ。もう、好きに呼んで」


「よっしゃー! あざっす!」


「ギレン、その代わり働いてもらうからね」


「任してくださいよ!」


 オルガには主君とか言われてるし、もう別にいいや。

 そう思ったら、そのオルガが俺の肩に触れる。

 振り返ると、大の男がもじもじしていた。


「……どうしたの?」


「その……オイラも呼び捨てでお願いします!」


「……はい?」


「ギレン殿ですか? あの人ばかりずるいですよ!」


 ……意味がわからない。

 助けて! ドラえも○!

 すると、クレハが話に割って入ってくる。


「エルク様」


「くれえもん!」


「誰ですか、それは……相変わらず変な方ですね。つまり、ギレン殿には気安いのに、自分にはさん付けだから嫌ってことです」


「ああ、そういうこと……オルガ……でいいの?」


「はいっ!」


 どうやら、それでいいらしい。

 いや、俺の身分的には呼び捨てでおかしくないんだけどねー。

 すると、ギレンがオルガに近づく。


「なんだ、お前は?」


「オ、オイラは主君……エルク様の騎士だ!」


「何? 俺を差し置いて騎士だと? 俺はアニキの舎弟だ!」


「「ぐぬぬ……!!」」


 そうして、二人がにらみ合いを始める。

 ……別に騎士にもしてないし、舎弟にした覚えはないんですけどねー。

 やれやれ、仲良くしてもらわないと困るんだけど。


「クレハ、二人をどうにかして」


「仕方ないですね、私にお任せを」


「流石はくれえもん! 頼りになる〜!」


「だから、誰ですって」


 そして、二人のにらみ合いの間に割って入っていく。

 その迫力からか、二人が一歩引く。

 ふぅー! 頼りになるね!


「な、なんすか?」


「な、なんでしょうか? クレハさんとはいえ、オイラも譲れないです」


「いえ——エルク様の一番の側近は私ですから。貴方達には、まだまだ譲れませんね」


 ……はい? いやいや、火に油注いじゃったよ!

 クレハは至極真面目な表情だし!

 そうだった! 忘れてたけどたまに天然さんだった!


「くっ……いや! 俺がアニキの一番になるんだ!」


「オ、オイラだって負けないですよ!」


「ふっ、いいでしょう……格の違いというやつを教えて差し上げましょう。お二人共、私についてきてください」


「や、やったろうじゃんか!」


「ま、負けませんよ!」


 そうして、三人は何処かに行ってしまう。

 取り残されたのは、俺とネコネの二人だけだ。


「……あのー、三人共護衛対象を放って行っちゃったんですけど」


「あ、あの!」


 すると、ネコネが俺の服の端を掴む。


「ん? どうかした? 全く、困った人たちだよねー」


「えっと……お、お兄さんはわたしが守りますからっ!」


 そう言い、拳を握りしめてフンスフンスする。

 その健気さに、俺は黙って頭を撫でる。


「うんうん、可愛いね」


「えへへ……」


 その時、俺は殺気を感じる。

 まずい! 今は護衛する人がいない!

 そう思い、振り向くと……俺をじっと見つめるパンサーさんがいた。


「ほっ、パンサーさんか」


「……いつまで頭を撫でているのだ?」


「へっ? こ、これは失礼しました!」


 あまりの迫力に、俺は慌てて手を離す。


「俺には兄に代わってネコネを見守る義務がある。まあ、お主にはそういう気はないことはわかってるが……」


「はい! もちろんです!」


 すると、ネコネがパンサーさんに向かって歩いていく。


「おじちゃん! だめでしょ! お兄さん悪いことしてないもん!」


「くっ……いや、しかしだな……お前も十歳になったわけだし……」


「むぅ……よくわかんない。でも、お兄さんに撫でられるの好きだもん」


「はぁ、わかったわかった。エルクよ、わかっていると思うが……」


「ええ! それはもう!」


 そこんところはご安心を!

 前世も含めて、俺は綺麗なお姉さんがタイプですから!


「ネコネ、すまなかったな。お前の好きにするといい」


「ううん! わかってくれたならいいの!」


「お詫びに、お前の願いを叶えよう。今の俺に、どれほどのことが出来るかわからないが」


「それじゃ、お兄さんを守って!」


「なるほど……いいだろう、俺も覚悟を決めた。実はな、先程獣人達を説得してきたのだ。エルク様、俺もお主に仕えてもいいだろうか? 今の俺は怪我が原因で、どこまで役に立てるかわからないが……短期間の戦闘と、指揮くらいなら取れる」


 そう言い、頭を下げてくる。

 そっか、おかしいと思った。

 こんなにネコネを大事にしてるのに、彼女達の家族は痩せていたから。


「ううん、こちらは大歓迎だよ。こんな俺だけど、よろしくね。それと敬語も様もいらないから」


「そうか……ではエルクよ、よろしく頼む」


 そうして、俺とパンサーさんは握手を交わす。


 ギランという戦力も増えたし、こうして絆も深まった。


 多分だけど、こうやって手を取り合っていけたらいいのかなって思う。


 これが雨降って地固まるってやつか……違うかもしれない。

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