第28話 主君
よしよし、オルガさんの顔つきが変わった。
まだぎこちないけど、おどおどした感じは減ったかな。
やっぱり、何かを成すと人は自信がつくよね。
すると、オルガさんが突然……俺の前で膝をつく。
「ど、どうしたの? どっか怪我でもした?」
「い、いえ! あの、その……主君と呼んでもいいでしょうか!?」
「……はい? 主君? どういうこと?」
「え、えっと……もう一つの夢が騎士になることだったんです」
「でも、俺に任命権はないよ? ちゃんとした騎士になるなら、紹介状くらいは書いてあげるけど……俺ので効果があるのかは謎だけどね」
第二王子とはいえ、俺は有名な自堕落王子でそういう権利は一切ない。
そんなのあったら、反乱の元になるし。
「そ、そういうのではなく……エルク殿下の騎士になりたいのです」
「えっと……?」
俺が首を傾げていると、クレハが割って入ってくる。
「エルク様、彼はエルク様個人に仕えたいのかと……私と同じように」
「あっ、そういうことか。でも、どうして? じいちゃんの夢は?」
「オイラ、エルク殿下に仕えるのが一番の近道だと思って……何より、オイラみたいな鈍臭い奴を信じてくれた。オイラ、その恩返しがしたい」
「そういうのは気にしなくていいって」
「そう言わずに! お願いします!」
あんまり人に傅かれるのは得意じゃない。
前世の記憶を思い出したから尚更に。
俺はそんなに立派な人間でもないし。
「エルク様、受けてあげてください」
「クレハ?」
「きっと、私と同じく……そ、その……」
クレハは尻尾を振りながら、何やらもじもじしている。
うん……クーデレ美人さんがやると破壊力抜群ですね!
すると、覚悟を決めたのか顔を上げる。
「あ、貴方の側にいたいのかと! そして、お役に立ちたいのだと思います!」
「そっか……その気持ちは嬉しいけど」
「そうです! お願いします!」
「……言っておくけど、俺はそんなに立派な人間じゃないよ? それでもいい? 君をいいように利用するかもしれないよ?」
「はいっ! この力を好きに使ってください!」
……こりゃ、断るまでテコでも動かないかな。
仕方がない、ひとまず受けるとしよう。
「わかった。それじゃ、好きにしていいよ」
「っ!? あ、ありがとうございます! クレハさんも!」
「いえ……共にエルク様を守りましょう。先ほどの盾は見事でした……あれならば、エルク様を任せられますね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
そして、クレハとオルガさんが握手を交わす。
確かにオルガさんがいれば、クレハは自由に動ける。
俺も魔法に集中できるし、いいこと尽くめではあるのか。
……やれやれ、この期待を裏切るのは難しいなぁ。
◇
その後、クレハが辺りを見渡す。
「どうしたの?」
「いえ、卵があると思いますので」
「そうだった! 俺とオルガさんで処理するから探してきて!」
「……そんなに遠くにはないはず。オルガ殿、エルク様を頼みましたよ」
「はいっ! この命に代えても!」
「ふふ、頼もしいですね」
「いやいや、代えちゃダメだし。二人共、命は大事にしてね」
そんなやり取りの後、クレハが木の上を移動していく。
相変わらず、身ごなしの軽いこと。
「んじゃ、俺達でやっちゃおう。俺が水を出すから、腹の中を洗ってくれる?」
「わかりました!」
「おっ、手慣れてるね」
「へへっ、じいちゃんに仕込まれたんです」
手際は見事で、俺は少し離れた位置から水を出すだけでいい。
なので、今後のことを考える。
「フンフフーン、何を作ろうかなー。オルガさんは、何か食べたい?」
「オイラですか? ……豪快な食べ物とか好きです」
「おっ、それもいいね」
そうなると親子丼? でも、タイ米系はあっても白米はないし。
香辛料や薬味は充実しているし……あれで行くか。
卵は、別の用途で使うとしよう。
そうして、処理をしているとクレハが戻ってくる。
そして、その手には……卵様が!
「ヤッタァ! 卵だ!」
「やはり、ありましたね。おそらく、出産のために山から降りてきたのかと」
「ん? 山じゃダメなの? 群れがいるんだし」
「……多分、何かがあったのかと」
「ふむふむ……魔物の大量発生と関係ある?」
「その可能性はあるかと。とにかく、 一度戻りましょう」
そしてワイバーンを処理したら、氷漬けにする。
それをクレハが担いで、元の場所に戻ってくる。
すると、パンサーさんが出迎えてくれた。
他の三人は倒れこみ、どうやら眠っているようだ。
「無事に戻ったか」
「うん、見ての通り。そっちは問題なさそうだね」
「ああ、特にない。それと、眠っているが叱らないでくれ。本人達は起きて待つと言ったが、それでは帰りに耐えられないと言っておいた」
「うん、平気だよ。確かに、そろそろ帰らないとまずいよね」
できれば日が暮れる前に、帰りたいところだ。
ワイバーンもそうだけど、卵も日持ちしないだろうし。
なので全員を起こし、急いで領地へと帰還するのだった。
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