第27話 オルガ視点

 エルク殿下に作戦を伝えたオイラは、はやる心臓を手で抑える。


「オ、オイラに出来るかな?」


 図体がでかいだけで、小さい頃から鈍臭くて何も上手くいかなかった。

 両親からは期待されたけど、それも最初だけで後は呆れられた。

 結局、両親は離婚して……辺境にある母方の祖父の家に預けられることになった。

 じいちゃんは優しく娘がすまないといい、俺が責任を持って育てるって言ってくれた。


「だから、恩返しをしたかった……でも、出来なかった」


 じいちゃんが夢見た景色を見せてあげたかった。

 そのために辺境を変えようと、まずは魔法の自主練や槍の稽古をしてきた。

 でも内弁慶なオイラは、獣人族どころか人族とも上手く話せない。

 何をやっても、失敗ばかりだった。


「気がつけば、二十歳を過ぎていた」


 じいちゃんは死んでしまい、オイラは目標を失った。

 じいちゃんは好きに生きろって言ってくれたけど……それでも、まだ夢は燻っていた。


「もう諦めて、ただ平凡に暮らそうと思ってたんだ……だけど、エルク殿下が現れた」


 彼はあっという間に溶け込んで、次々と人族と獣人族、住民間の空気を変えていった。

 オイラがやりたかったことを、たった一週間くらいで……凄い人だ。


「氷魔法もそうだけど、それだけじゃない」


 馬鹿にされてきたオイラにはわかる。

 エルク殿下からは、人を見下す視線を感じない。

 王族に生まれ、魔法も使えるのに。

 獣人のクレハさんを対等に扱うし、オイラなんかにも優しくしてくれた。


「それどころか、オイラは怪我をさせてしまった……馬鹿なオイラでもわかる、本来なら殺されてもおかしくない」


 でも、エルク殿下は笑って許してくれた。

 オイラを一言も責めず、怒っているクレハさんを宥めてくれた。


「……その人が、オイラを信じてくれるって言った」


 もちろん、半分はやる気を出させるためだってわかってる。

 それても、嬉しかった……それに、じいちゃんが言ってた。

 自分を信じてくれる人がいたら、それは物凄く貴重なことなのだと。


「ダメなオイラだけど、ここでやらなきゃ……じいちゃんや、信じてくれたエルク殿下に顔向けができない」


 ……よし、覚悟は決まった。

 オイラは後ろで待ってくれていたエルク殿下に振り向く。

すると、彼がニカッと笑う。


「ん? 覚悟はできたっぽいね?」


「はいっ……! 待ってくれてありがとうございます……いつでもいけます」


「わかった。それじゃ、俺と一緒に出るとしますか……行くよ!」


 オイラはエルク殿下を守るように、前を先行して走る。

 一瞬だけ振り返ると、先ほどとは違ってエルク殿下の顔は強張っていた。

 ……当たり前だ、怖くないわけがない。

 オイラなんて頼りにならないし、エルク殿下だって戦いの専門じゃない。

 それなのに、こうして頼ってくれた。


「……エルク殿下! オイラが必ずお守りします!」


「うん? そっか……んじゃ、俺も覚悟を決めるとしますか」


 すると、ワイバーンが一度上昇し、俺達にクレハさんが気づく。


「何をしているのです!?」


「あの位置からだと狙いがつけにくい! 下手すると、クレハに当たっちゃうし!」


「私のことなど気にしなくていいのです! 最悪、一緒に当ててしまえば……」


「却下! 全員で無事に帰るよ! 俺がどうにか撃ち落とすから、クレハはそこを狙って!」


「し、しかし……」


 クレハさんの視線が、オイラに向けられる。

 オイラに出来るのかと、その目がいっていた。


「オイラに任せてください!」


「……問答してる時間はなさそうですね。では、私はいざという時の為に気を溜めておきましょう」


 そう言い、刀を鞘に収めて抜刀の構えを取る。

 すると、ワイバーンがオイラ達に視線を向けた。

 そして、その大きな口を広げて咆哮する!


「ギシャァァァ!」


「っ〜!? く、来るなら来い!」


 そして、クレハさんとオイラ達を見比べ……こちらへ急降下の姿勢をとった。

 オイラ達の方が弱いと判断したんだ……悔しい。


「オルガさん! 魔法のコツは出来ると信じること! 自分が思い描くモノをイメージ!」


「はい! オイラにはできるオイラにはできる……我が主君を守る盾となれ——アースシールド!」


「ギシャァァァ!」


 オイラが土の大楯を展開すると当時に、ワイバーンがそれに向かって爪を立てる!

 強風と体当たりにより、身体中に激しい負荷がかかって思わず倒れそうになる……負けられるか!


「……ァァァァァ!」


「ギシャ!?」


 大楯を身体ごと押し出すと、ワイバーンが上昇する。

 すると土煙の中、後ろから声が聞こえた。


「撃ち貫け——アイスライフル」


「ギァァァァ!?」


 上を見ると、上昇するワイバーンの片翼に穴が開いていた。

 おそらく、エルク殿下の氷魔法だ。

 そのためか、ワイバーンは高度を下げてしまう。


「クレハ!」


「お任せを——闘気刃!」


 エルク殿下の声に反応し、クレハさんが飛び跳ねると同時に抜刀する!

 それは傷ついていない方の翼を断ち切った。

 当然、ワイバーンは飛べずに地上に落下する。


「ギ……ガァァァ……」


「とどめです!」


 そして最後に、クレハさんが落下しながら脳天に刀を刺した。


「ふぅ……どうにかなりましたか」


「クレハ! ナイス!」


「……終わった?」


 オイラが呆然としていると、エルク殿下に背中を叩かれる。


「そうだよ! オルガさん凄いじゃん! ちゃんと盾が出たね!」


「ええ、ワイバーンの体当たりを止められる冒険者は少ないでしょう……エルク様を守って頂きありがとうございました」


「オ、オイラにもできた……! いえ! お二人の魔法と剣技があったからです!」


 間違っても、オイラの手柄なんかじゃない。

 オイラは攻撃を受け止めただけだし、お二人がいなかったら倒せなかった。


「うんうん、みんなの勝利ってことだ」


「ふふ、そういうことですね……きっと、昔はこのように戦っていたのかもしれません」


「あぁ、なるほど……種族や身分関係なく、力を合わせて戦うってことか。確かに、そんな時代があったのかも。確か、オルガさんのお爺さんが言ってたっけ?」


「はい! じいちゃんから聞きました! 昔は、みんなで協力してたって!」


「ふんふん……それじゃ、これで一歩近づいたわけだ」


「あれ? ……本当だ」


 エルク殿下は王族だし、オイラは平民、クレハさんは獣人だ。


 まだ他にも沢山種族はいるけど……可能性はゼロじゃない。


 もしかしたら、じいちゃんの夢が叶うのかもしれない……同時にオイラの夢も。


 じいちゃんの夢とは別に、小さい頃は誰かを守れる騎士になりたかった。


 決めた、オイラはエルク殿下に……主君について行こう。


 オイラ自身のためと、この方の成すことを手伝いたい。


 そしていつか、じいちゃんの夢を叶えてみせるんだ。







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