第26話 今の自分にできること
話し合いを済ませて、俺、クレハ、オルガさんの三人で声のする方に向かう。
その際に、オルガさんには魔法のレクチャーをしておいた。
彼の魔法の威力が低くて遅いとは、イメージ不足と信じることだと思ったから。
それがないと、魔法とは上手く発動してくれない。
「オルガさん、さっき言った通りにやればできるから」
「オ、オイラにできるでしょうか?」
「自分は信じられない?」
「……はい、オイラは何もかもが中途半端だから」
本人は、自分なりに頑張ってきたのだろう。
でもこんな辺境では魔法や戦いを教えてくれる人少ない。
だけど、彼はまだ若いからやり直せるはず。
……そう、俺みたいにね。
「じゃあ、俺を信じてみよう。君ができると、俺が信じるから」
「……オイラ自身じゃなく、エルク殿下を信じる? 」
「そうそう、それならどう?」
「……分からないですけど、やる気が出てきたような」
「んじゃ、やってみよー」
そんなやり取りをしていると、前を歩くクレハが苦笑する。
「ふふ、相変わらずですね。当時何もできない私にも、同じようなことを言いました」
「そうだったっけ?」
「ええ、そうですよ。オルガさん、私も弱かったのです。ですが、この方のために強くなろうと決めてから強くなれました」
「……そうなんですね。オイラ、頑張ってみます!」
クレハのフォローもあり、オルガさんの顔が晴れる。
後は、本番で上手く出来るかどうかってところか。
そして歩くこと数十分後……先頭を歩くクレハが俺達を手で制する。
「止まってください……どうやら、予想は当たっていたようです」
「ん? 何かいる? 俺には何も見えないけど」
「ゆっくりと上を見てください。オルガさんも、気づかれないようにそっと」
俺とオルガさんが顔を見合わせ頷き、ゆっくりと上を見上げる。
すると、空を旋回する何かがいることに気づいた。
「……鳥? いや、違う……ドラゴン……!?」
「ド、ドラゴンですか!?」
「二人とも、静かに……いえ、アレはランクC級のワイバーンですね。まさか、こんな森の中にいるとは」
ワイバーン、それはドラゴンの下位種と言われる魔獣だ。
ドラゴンが四肢があることに対して、ワイバーンは腕と翼が一体化して空を飛ぶことに特化しているとか。
それ以外はほとんどドラゴンに近いが、ブレスを吐けないのが大きな特徴だ。
「それはおかしいの?」
「ええ、ワイバーンは基本的に群れる魔獣なので。しかも、生息するのは山に近い場所とか。もしかしたら、はぐれなのかもしれません。しかも、あの辺りを警戒している感じ……近くに卵があるかも」
「卵!? ウォォォ………!」
俺は思わず、静かに天に向けてガッツポーズする。
卵があれば何でも作れちゃう!
丼物やオムライス、単独で食べてもいい!
氷魔法がある今、アイスクリームとかシュークリームとか!
そのためには、牛乳を手に入れないと!
「だから静かに……いえ、この場合は気づかれた方が良いですね」
「クレハ、どういうこと?」
「あちらにいる仲間達に気づくと厄介かと。ワイバーンの基本的な倒し方は、遠距離からの攻撃なので」
「そっか、空を飛んでるもんね。あっちの人達は近距離だけか……じゃあ、俺達で仕留めよう」
こっちには俺がいるし、オルガさんも一応魔法と槍を使える。
最大戦力のクレハもいるし……万が一、都市にでも来られたら大変だ。
「はい、それが良いかと。ここで放っておくと、帰り道で襲われる可能性もありますから」
「ふんふん、仕掛ける側のが有利だもんね。それじゃ、俺が先制攻撃するよ」
「オ、オイラはどうしたら?」
「オルガ殿は降りてきたところを槍で突いてください。あとは……いざという時はエルク様を守ってください」
「わ、わかりました……!」
「二人とも、俺は近接は弱いからよろしくね。んじゃ、やりますか」
俺は両手を空に向け構えて、上空に旋回するワイバーンに狙いをつける。
氷の弾丸だと小さいから外しちゃうか……もっと大きな塊を。
「氷の大砲よ、敵を撃ち落とせ——アイスキャノン!」
俺の両手からバスケットボールサイズの氷の塊が放たれる!
コースは悪くなく、それはワイバーンに直撃すると思ったが……ワイバーンが気づいて、咄嗟に高度を下げて躱した。
「嘘!? あのスピードを躱すの!?」
「ワイバーンは通称空の王者、飛ぶことに関してはドラゴンより優れてますから。あとは、少し右にずれていたかと」
「あぁー、俺の目では遠くて狙いがずれちゃうか。それに、まだ氷魔法にも慣れてないし。となると、下に来てもらう必要があると」
「その心配はいりません……きます! エルク様、私が広いところに出て引きつけます! オルガ殿はエルク様と一緒に木を盾にしてやり過ごしてください!」
そう言い、クレハが木が密集してない場所に飛び出していく。
それを見てか、ワイバーンが急降下してクレハに襲いかかる!
「ギシャァァァ!」
「くっ!? 単独で倒すのは大変そうですね……!」
相手は急降下して、鷹のよう足の爪で攻撃を仕掛けるようだ。
クレハは避けつつも反撃しようとするが、その前に上空に上がってしまう。
その速さもそうだけど、クレハは土埃でやり辛そうにしていた。
「なるほど……翼を広げる際に強風が吹くのか。風と一緒に土埃、それがクレハの動きを阻害していると」
「ど、どうしましょうか?」
「下手に俺達が出て行くと邪魔になるかな……この距離から、相手を狙い撃つか? うーん、さっきもそうだけど今の腕じゃ厳しいかなぁ」
はっきり言って、俺の魔法はまだまだ未熟だ。
鍛錬をサボってきたし、本格的に使えるようになったのは最近だ。
素早く動く敵にちゃんと当てるのは難しそうだ。
……やっぱり、普段からきちんとやらないとダメだね。
「でも、それを嘆いても仕方ないか。俺は、今の俺にできることをやるしかないね」
「今の自分に出来ること……」
「ん? オルガさん、どうかした?」
俺が振り返ると、オルガさんが真剣な表情をしていた。
ぶれることなく、真っ直ぐに俺を見てくる。
「オ、オイラにやらせてください……!」
「……考えがあるんだね?」
「はいっ! もし失敗しても、二人には迷惑がかかりません」
「大丈夫、失敗した時は助けるからさ。んじゃ、聞かせてもらおうか」
そして作戦を伝えられた俺は、それを了承した。
これは彼が殻を破るチャンスだ……うん、成功させるために頑張るとしますか。
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