第25話 変な王子

魔石を回収し終えて、みんなを一箇所に集まる。


「みんな、お疲れ様」


「エ、エルク殿下、お怪我は?」


「オルガさん、大丈夫だって。それより、こんなに魔物がいるの?」


俺の問いに、みんなが顔を見合わせて困惑する。

そういや、最近は森に狩りに行かないんだった。


「そっか、わからないか。そうなると、少し調査が必要かな。これが異常事態なのか、それとも普通なのか」


「で、ですが、エルク様の怪我が……」


「クレハも心配性だなぁ。少し休んだけど、これなら平気だよ。それよりも、早めに調査をしないと……スタンピートだったら笑えない」


俺の言葉に、全員の顔色が変わる。

スタンピート、それは魔物の集団が一斉に襲いかかることを意味する。

理由は様々だけど統率者が現れたり、何かに追われるように起きるとか。


「それは確かに……もしそうなら、今の都市の戦力では太刀打ちができません」


「どう考えても無理だね。だから、すぐに調査をしないといけない。何もないならいいし、何かあるなら対策を立てないと」


「……わかりました。その代わり、無茶だと思ったら抱えてでも帰りますから」


「うん、わかった」


話を終えた俺達は、再び森の中を歩いていく。

すると、やはり……同じ種類の魔物の集団に襲われる。

今のところは下位である魔物しかいないが、これで上位種がいたら危険だ。


「アイスショット!」


「ハァ!」


「フンッ!」


俺の氷魔法、クレハの剣技、パンサーさんの拳を中心に魔物を倒していく。

撃ち漏らしを四人の人族が協力して倒していく。

それでも、限界が近い。

やっぱり、もう一人遠距離攻撃と回復役が欲しい。

こんな時、ステラがいてくれたらなぁ……いけないいけない、自分で断ったんだ。


「ふぅ……」


「エルク様、平気ですか?」


「魔力は平気だけど、精神的に疲れたかな。他のみんなはどう?」


俺の問いにパンサーさんは首を振る。

そして人族の四人は……明らかに疲弊していた。

最初の探索だし、仕方ないよね。

でもこれで、大変さがわかってくれたらいい。


「別にここでは気を使わなくていいからね。無理される方が、困ることもあるし。ちなみに、俺は疲れたのでベッドで寝たいです」


「ふふ、エルク様ったら」


「とりあえず、休憩したらどうだ? それなりに、俺も疲れている」


「うん、そうしよっか」


パンサーさんの提案に乗り、再び休憩を取る。

俺はコップに水と氷を注ぎ、それをみんなに渡す。


「オルガさん、しっかり飲んでね」


「あ、ありがとうございます!


「ほら、パンサーさんも」


「……俺もいいのか?」


「うん、もちろんだよ。みんなも、お代わりは自由だからねー」


俺が言うと、みんなが嬉しそうに水をごくごくと飲み干していった。

俺はお代わりを注いだ後、パンサーさんの隣に座る。


「これは美味い……冷たい水がこんなに美味いとは」


「ふふふ、でしょ?」


「ああ……お主は不思議な人族だ」


「ん? 何か変かな?」


俺がそう言うと、パンサーさんがじっと見つめてくる。

あらやだ、黒い目がステキなイケメン……違う違う、そうじゃない。

このネタがわかる人は昭和生まれかなー。


「クレハという銀狼族を対等に扱っているのもそうだが、先程の人族を庇った件もだ。それに、こうして自らが雑用のような真似をしている」


「だって、喉が乾いたら辛いじゃん。それに、俺だけ飲んでるのは気まずいし」


「そういえば、前にもそんなことを言っていたな。しかし、上の者はいちいち下の者の気持ちなど考えないと思っていたが……違うのだな」


「そういう人がいることは否定しないけどね。ただ、俺は小心者だからさ。あと、単純に良い人って思われたいし」


「くく、馬鹿正直な奴だ……だが、嫌いじゃない」


少しずつだけど、警戒心が取れてきたかな?

それだけでも、ここにきた甲斐があるね。

すると、クレハが話に入ってくる。


「エルク様、この後はどうしますか?」


「うーん、俺も疲れたし帰ろうか。とりあえず、魔物が沢山いることはわかったし。本当だったら、食材とか土産があったら良かったんだけど」


「ええ、調査としては充分かと。後は地元の方々に聞くのがいいでしょう」


後は帰って、これがスタンピートの前兆なのか確認しなきゃ。

周りを見ると、あからさまにホッとしていた。

すると、聞きなれない鳴き声がする。

感高い声というか耳がキーンとなる感じ?


「クレハ、なんの鳴き声かな? 鳥?」


「……まさか、あの魔獣がいるのですか?」


「心当たりがあるの?」


「はい。もしそうだとしたら、いい土産になるかと。何より、放っておくと危険かと」


「むむむっ……仕方ない、もう一働きしますか」


ふと周りを見るが、中々立ち上がれない。

あぁー、帰るって言われてからまた動くのしんどいよね。

定時で帰れると思ったら、残業ありますみたいな……いやだいやだ。


「オ、オイラはやれます! 体力だけが取り柄ですから!」


「ふむふむ……それじゃ、手伝ってもらおうかな」


「が、頑張ります!」


「うん、よろしく。パンサーさんは、ここで人族の方々を頼めますか?」


「ああ、任せるといい」


俺は最後に、クレハに振り向く。


「クレハ、君を頼りにしてるから」


「っ——! はっ、我が剣に懸けて」


クレハの耳がビーンと立ち、顔つきに気迫がこもる。


さてさて、何がいるのやら。

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