第29話 作戦会議

そして、どうにか暗くなる直前に都市に帰ってくる。


はっきり言って、今回の探索範囲は狭かった。


でもこれ以上探索するとなると、泊まりがけが必要になってくる。


今後は行き帰りの街道整備や、森の中で寝泊まりすることも考えないと。


門の中に入ると、ネコネが出迎えてくれた。


「お兄さん!」


「おっと……」


飛び出してきたネコネを受け止める。


「えへへ、帰ってきた。お兄さん、お帰りなさい!」


「うん? ……ただいま、ネコネ」


そっか、この子の父親は帰って来なかったんだ。

泊まらずに帰ってきてよかった……この子を悲しませるのはダメだね。

すると、パンサーさんがネコネの頭を撫でた。


「……随分と懐いているな」


「あっ! おじちゃん!」


「……おじちゃん?」


俺がパンサーさんに視線を向けると、少し気まずそうにする。

こっちはダメそうなので、ネコネに聞くことにした。


「ネコネ、おじちゃんってどういうこと?」


「え、えっと、おじちゃんはお父さんの弟なの!」


「……なるほど、正真正銘の叔父ちゃんってわけね」


「おじちゃん! ネコネが言ったこと守ってくれたんだ! ありがとう!」


「ん? ネコネが何か言ったの?」


すると、それまで黙っていたパンサーさんがため息をつく。


「ネコネ、自分で説明するからいい。俺は確かにネコネの叔父で、ネコネは死んだ兄貴の娘だ。そのネコネに、エルク殿下を助けて欲しいと言われてな……一度は断ったが、ネコネに何かあったらまずいと思い、一度会って観察することにした」


「あぁー、そういう経緯だったんだ」


道理で、俺のことを警戒するわけだ。

そりゃ、可愛い姪っ子の雇い主が変な奴だったら嫌だもんね。

だから、俺にあれこれと聞いてきたんだ。


「……怒らないのか? 俺はお主を試したのだぞ?」


「えっ? どうして? 心配するのは普通じゃない?」


俺がそういうと、再び息を吐いて……何かを諦めた表情を浮かべた。


「……俺の負けだな。ネコネ、お前のいう通りだった。こいつは、俺の知ってる人族とは違う」


「でしょ! お兄さんは優しいもん!」


「ククク、甘っちょろいとも言えるが……嫌いじゃない」


「……なんかよくわからないけど、褒められてる?」


「ああ、もちろん」


「ふーん、なら良いや。それじゃ、屋敷に帰ろうか。もう、疲れちゃったよ」


そしてクレハとオルガさんと、並んで歩くネコネとパンサーさんの後ろを歩く。

ちなみにオルガさんを除く人族は、門の前で一度解散とした。

みんな喋るのもきつそうだったし。


「オルガさんはいいの?」


「オイラは帰っても誰もいないですし……」


そうだった、オルガさんは両親もいない爺さんも死んじゃったんだ。

……きっと、寂しいよね。


「あっ、そっか……良かったら、屋敷に住む?」


「えっ!? い、いいんですか!?」


「うん、モーリスさんの許可があればだけどね」


「は、はい! ありがとうございます!」


そうして、屋敷に到着する。

ワイバーンの解体は厨房の方に任せ、俺達はネコネの案内の元、モーリスさんが待つ部屋に行く。

そこは一階の奥にあり、長机と椅子が並んだ部屋だった。


「エルク殿下、無事でなによりでございます」


「うん、どうにかね。それより、ここは?」


「ここは会議室で、本来は代表者と領主様が話し合いをする部屋となっております。お疲れのところ申し訳ありませんが、先に報告だけ聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「うん、もちろん。こっちも早く報告しないとって思ってたし。ここにいるオルガさんとパンサーさんについては、後で説明するよ」


「かしこまりました。それでは、皆さんお座りください。ネコネさん、お茶の用意を」


「は、はい!」


ネコネが部屋を出て行った後、、俺達はそれぞれ椅子に座る。

そして、俺達は要点をまとめてモーリスさんに報告した。

魔物が大量にいたこと、都市の近くにも関わらずワイバーンがいたことなど。

ちなみに、オルガさんを屋敷に置くことは心良く許可が下りた。

すると、ネコネがお茶を持ってきたので一息つく。


「お兄さん……ど、どうですか?」


「うん、美味しい」


「えへへ、良かったぁ……」


「うんうん、可愛い女の子に入れてもらうお茶は格別だね」


「か、可愛いって言われちゃった……」


すると、二つの視線を感じる。

見てたのはクレハと、パンサーさんの二人だった。

しまった! 今のはセクハラっぽい! 前世でも問題になったじゃないか!


「い、一般論だから! 深い意味はないよ!」


「「……別に何も言っていないが(ませんが)」」


腕組みをした二人が、ほぼ同時に言ってハモった。

これは形勢が不利! 話を変えようっと!


「モ、モーリスさん! どうかな!?」


「……昔の記録を見る限り、スダンピートの兆候かと」


その言葉で、場の空気が一気に重くなる。

こういうのは苦手なんだけど……しっかりしないとだね。

だって、今の俺は領主なんだから。


「そっか……どうしたらいいかな?」


「まずは起きると思って行動するとが良いかと存じます」


「そうだね。何もなければ良いし、何かあってからじゃ遅いもんね」


「ご理解頂き感謝致します。それを踏まえて話し合いをしましょう」


そう言い、モーリスさんが黒板に文字を書いていく。

まずはスダンピートの説明だった。

数十年に一回起きると言われ原因は様々だが、確実なのは魔物の大群が襲ってくること。


「不幸中の幸いですが、現在はここより北に村は存在しません。もし魔物が来るとしたら、この都市が最初になるかと」


「でも、ここを抜けていく可能性もあるよね?」


「仰る通りでございます。なので、近隣の住民の方々には一時的に都市に避難して頂きます」


「うん、その方がいいね。どうせ、場所は空いてるわけだし」


そもそも、本来なら何万人も入れる規模の都市だ。

近隣の方々くらいなら問題ない。


「ええ、そういたしましょう。過去の資料によりますと、スダンピートが起きる直前には上位種が現れるとか。エルク殿下達は、下位の魔物にしか会っていないと仰ったので、まだ時間の猶予はあるかと」


「そっか。それなら、避難したり準備する時間はありそうだね」


「次に、どうやって防ぐかという話になりますが……何か考えはございますか?」


「とりあえず、外壁を出来るだけ補修かな。あとは戦える人を探したり、指揮をできる人とか。できれば、魔法使いや弓を扱える人がいたらいいね」


俺の魔法で倒すのにも限度がある。

まだ自分のキャパもわかってないし、魔法自体が未熟だ。

守れる範囲にも限界はあるし、城壁から攻撃できる人は多いに越したことはない。


「同じ考えでございます。ただ、問題の人材がいるかどうか……特に指揮を出来る方が少ないかと。良い指揮官がいるだけで、戦力は倍増しますので」


「優秀な指揮官の率いる隊はそれだけで強いって聞くね。うーん、確かに難しいかも。俺、オルガさん、クレハ、パンサーさん……あと出来そうな人いる?」


俺は魔法ならできそう、オルガさんも盾役の指揮とか、クレハは遊撃部隊とか?

俺はパンサーさんに視線を向ける。

森での動きは良かったけど、今回はあくまでも補助が中心で戦闘力は未知数だ。


「俺は元々、ここの獣人族のまとめ役だ。訳あって戦力は期待しないでほしいが、獣人の指揮は任せるといい。モーリス殿は知っているはずだが?」


「そうなの?」


「ええ。まさか、エルク殿下が連れてきてくれるとは……感謝いたします」


そう言い、頭を下げてくる。

もしかしたら、関係性が良くなかったのかもしれない。


「たまたまだよ。じゃあ、獣人の指揮は任せるね」


「ああ、任せるがいい」


「うん、よろしく。となると、あと絶対に欲しい人は何かな?」


「クレハ殿が遊撃に回るとしたら、前衛を任せられる方が必要不可欠かと。オルガ殿は盾役とのことでしたので、攻撃面において」


「やっぱり、そうなるよね」


クレハは女性だし獣人だから、従うのが嫌って人もいる。


いずれはどうにかしたいけど、今は時間がない。


ここは出来れば、パワータイプの男性が欲しい。


……こんな時、シグルド叔父上がいてくれたらなぁ。

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