第20話 方向性

むむむっ、気づいてしまったらすぐにでも欲しくなってきたぞ。


ドライヤー、冷蔵庫、電子レンジとかポットとか。


氷を使った道具とかは俺一人でも作れそうだけど。


前世の記憶があると、今の生活が急に不便に感じるから不思議だ。


「それで、結局何をどうするのですか?」


「そっか、クレハは途中から来たもんね」


ひとまず、モーリスさんと話し合っていたことを伝える。


「なるほど、そういうことでしたか。それでしたら、まずは人族の認識を改める必要があるのではないかと。そうしないと、交渉も何もないかと」


「……どういうこと?」


「要は、彼らは人族を見限って関係を絶ったわけです。元々の部分を変えないと、交渉のテーブルにもつかない気がします」


「あぁー、その可能性もあるか」


どこの世界でも変人というのはいて、一部の人は興味を持って来そうだ。

ただ結局は、全体が認めてくれないとだめだ。

それでは、個人との交渉になってしまう。


「そう言うってことは、クレハには考えがあるってこと?」


「そうですね……まずは、獣人と仲が良いという印象を持たせると良いかと。そもそも、獣人を奴隷扱いした歴史があり、それが関係を絶った一因でもあります」


「ふむふむ……俺とクレハみたいにってこと?」


「ふふ、そういうことです。私も人族の印象は良くありませんでしたし、実際に良くない人もいます。それでも、今はそうじゃない人もいると知っていますから」


「そっか、そっか……つまり、まずはこの領地に住む獣人と人族の関係を改善することか。それが、結果的にドワーフ族やエルク族の信用につながると……」


いきなり信用を得ようなんて虫のいい話だ。

順番的には獣人と人族の融和からの、エルク族とドワーフ族との融和ってことだ。


「ええ。正直言って、王都に近い方はまだまだ遺恨は深いです。奴隷制度を廃止したとはいえ、まだ隠れてやっている者もいますから。ですが、この地はみたところ……そこまで関係性は悪くないかと。無論、私が見た限りですが」


「そうなの? 俺ってば、結構怪訝な目で見られてたけど」


「あれでもましな方かと。そうですね、最初の私を思い出してください」


……最初のうちは、部屋の端っこに行ってビクビクしてたっけ。

話しかけてもおどおどして、話をするのも一苦労だった。


「ふむふむ、確かに。モーリスさん、どう思う?」


「クレハ殿の仰る通りかと。お世辞にも仲が良いとはいえませんが、ここでは協力をしないと生きてはいけませんでしたから」


「この環境だからこそってことか。そして、ここならまだどうにかなる可能性があると」


「なので、先程の下水道に行ったことは素晴らしかったかと存じます。あれは人族の、獣人に対する不満の一つでしたので。まさか、そこまで考えて?」


モーリスさんの言葉に頭をかく。

そんなことは全然考えてなかったし。

単純に臭いのは嫌だなって。


「たまたまだよ。俺はそんなに立派でもなければ、頭も良くないしさ」


「ふふ、エルク様らしいです。たまたまで、人を救っていく方ですから」


「あんまり持ち上げないでよ。えっと、ということは次は獣人族の印象を変えると……あれ?」


この間の宴以降、獣人達の視線は良くなってきてる。

差別せずにシチューを分けたのが良かったのかもしれない。

あとは、クレハのおかげだね。

獣人であるクレハが、奴隷ではないのに俺の側にいるから。


「気づきましたか。既に少しずつですが、印象は良くなってきてるかと」


「それじゃ、このままの感じでいいってことか。これをさらに広げたり、新しく何か考えればいいってことだ」


「なので、次は獣人の不満を取り除くのがいいかと。やはり、狩りに関してですかね」


「獣人は人族より頑丈で強いからね。その代わり、魔法にはめっぽう弱いけど」


何せ弱い魔法でも大ダメージを食らうとか。

ゲームに例えると魔法防御が低くて、物理防御が高い感じかな。

ちなみにドワーフ族はバランスよく、エルフは物理に弱いとか。

竜人に関してはよくわかっていない。


「はい。なので、魔法を使う相手には勝ち目が薄いです。ワイトに至っては、勝ち目がありません」


「確かに、アレは獣人の天敵だろうね」


死霊系と言われるワイト、それは人骨の身体にフードを被った魔物である。

物理攻撃力はないが、魔法を使うことができる。

同時に物理攻撃が効かず何度でも復活し、魔法以外では倒せない。

まさしく、獣人を殺すためにいるような存在だ。


「ええ、治療院にいた獣人達もワイトに出会って怪我を負ったそうです」


「そっか。それなら、人族がそういう奴等を倒せば良いってことだ」


「そうすれば獣人達の悪感情も少しは和らぐかと」


「うんうん、そしていずれは協力して狩りにいくのなんかいいかも……俺とクレハのようにね」


「ふふ、そうですね」


俺達が話していると、モーリスさんが手を叩く。


「お話中すみませんが、よろしいでしょうか?」


「ううん、どうしたの?」


「そういうお話ならタイミングが良いかと……まずは、こちらから始めましょう。さあ、入って良いですよ」


すると、扉をあけて……一人の女の子が入ってくるのだった。




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