く第18話 水魔法の真価
モーリスさんの案内の元、都市の中を歩いていく。
すると、道行く人々にお礼を言われる。
「エルク様! 氷をありがとうございました!」
「お陰様で、久々によく寝れました!」
「うんうん、それなら良かったよ」
昨日は寝る前に、俺は大量の氷を作っておいた。
しかも魔力を込めたので、この暑さにも耐えられるように。
それを領主の館に来た有志の方々に配ってもらった。
やっぱり、睡眠も大事だからね。
「しかし、住民全員に行き届く氷の量でしたが……お身体は平気でございますか?」
「うん、まだまだ余裕かなー」
すると、クレハがモーリスさんの肩に触れる。
「モーリス殿、エルク様については考えても無駄です。こっちが疲れてしまいますから」
「ほほ、クレハ殿の仰るですな」
「ちょっと? 人を常識外れみたいに言わないでよ!」
「「………」」
すると、二人に『何言ってんだろこの人』という目で見られた……げせぬ。
そして、人通りか少なくなり……都市の端っこにくると匂いがしてきた。
「あちゃー……鼻にくるね。クレハ、平気?」
「え、ええ、どうにか。しかし、これは獣人の者には厳しいですね」
「はい、なので作業を行っているのは人族ですが……それはそれで不満が溜まっております。獣人は獣人で、自分たちばかりか危険な仕事をすることに不満を抱いております」
「あぁー、そういうことね」
職種と価値観の違いから、どうしても人の仕事は楽に見えたりすることがある。
人族は獣人は狩りだけでいいなと思い、獣人は人族は雑用ばかりで危険がなくていいと。
すると、鼻を抑えながらクレハが言う。
「ですが、実際問題我々には厳しいかと」
「そうなるよね。まあ、そのために来たんだよ」
「では、こちらが入り口になります」
そしてモーリスさんの案内の元、とある建物に入り階段を下りていく。
次第に匂いはキツくなるけど、俺も我慢しつつ進んでいく。
そして、階段を降りた先の扉を開けると……いわゆる長年使ってない公衆便所のような匂いが鼻を襲う。
広い空間の天井には管があり、そこから水や汚れが流れてきて、下水に流れていく感じか。
そんな中、人族がデッキブラシなどで作業をしていた。
「うっ……この中で働くのか」
「え、ええ、そうですね」
「……」
クレハに至っては無言で佇んでいる。
長くは保たないので、急いでやらなきゃ。
すると、俺達に気づいた責任者というバッチをつけた方がやってくる。
「こ、これはエルク殿下! こんなところに何を……」
「うん、視察を兼ねてきたんだ。やっぱり、この中での作業は辛い? 正直に言っていいからね」
「なんと、わざわざこんなところまで……はい、仰る通り辛いものがあります」
まあ、当たり前の話である。
こんな暑くて臭いところで作業なんかしたくない。
それでも、誰かがやらなきゃいけない大事な仕事だ。
「そりゃ、そうだよね。それで、一番の匂いの発生源はわかる?」
「そうですね……やはり、あそこしか」
「それじゃ、そこに案内してくれる?」
「……よろしいのですか?」
「うん、そのために来たんだから。モーリスさん、クレハとここで待機してて」
俺が振り返ると、放心していたクレハが目覚める。
どうやら、限界を超えたらしい。
「い、いえ! 私も!」
「ダメです。大丈夫、君がここにきてくれただけで助かったよ」
実際に、ここにいる人々はクレハを見て目を丸くしている。
俺はもちろんのこと、獣人が来たので驚いているのだろう。
後は、その辛さをクレハが同族に伝えればいい。
「クレハ殿、エルク殿下の仰る通りですよ」
「モーリス殿……はい。エルク様、お気をつけて」
「大丈夫、危険なことはしないから。んじゃ、よろしくね」
クレハをモーリスさんに任せたら、奥の方に行き下水が流れてる場所に着く。
その水は濁っており、目が痛くなるような異臭を放っていた。
本来なら奥に続くトンネルのような排出口を流れていくんだろうけど、それが完全に詰まって奥が見えない。
「うわぁ……酷いや」
「も、申し訳ありません! 作業をしようにも、中に入ったり近づくと倒れる者が続出しまして……」
「ううん、これはどうしようもないかな。むしろ、今までありがとうね」
「はっ? ……あ、ありがとうございます」
前世でもそうだけど、こういう方々がいるから当たり前の生活が出来ていた。
自堕落王子の時は気づけなかったけど、今の俺ならわかる。
……やっぱり、少しはちゃんとしないとだね。
「それじゃ、一度押し流す必要があるね。排水口近くに人が来ないように言ってくれる?」
「わ、わかりました! 皆の者! エルク殿下が何かしてくださると! 一度下がりなさい!」
皆が下がる中、俺は精神を集中する。
生半可な威力じゃ、周りに飛び散るだけで事態を悪化させるだけだ。
ここで必要なのは圧倒的火力、それでいて破壊しない……イメージはアレだ。
「まずはアクアウォール!」
下水から飛び散る汚れをこちらに来させないように水の壁を作る。
「そしたら……収束した水——
俺の掌から圧縮された水が排水溝に命中し……詰まった汚れごと押し出していく!
そして、次第に中の空洞が見えてくる。
「おおっ! これは……水魔法にこんな威力の魔法が!?」
「まだまだ! このまま出来る限り掃除しちゃうよ!」
そのまま高圧洗浄機のように排水溝周りも掃除していく。
すると、今まで詰まっていた汚水がトンネルを通過していった。
同時に、匂いも大分収まってきたかも。
「ふぅ……こんなもんかな」
「十分です! 後は我々でも出来るかと!」
「そっか。それじゃ、大変だけどよろしくね。働く環境は、これから良くしていくからさ」
「は、はい! ……こんな仕事を認めてくれる王族の方がいたなんて」
「そんなのは当たり前だよ。だって、これがないと人はちゃんとした生活を送れないんだから」
匂いだけならまだしも、これを放っておくと病気にもなりやすくなる。
おそらく、あと数年放っておいたら危なかったかもしれないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます