二章
第17話 改革開始
ん? ……なんか鼻がムズムズするぞ?
「ふえっくし!」
「あら、くしゃみですか。少し部屋を冷やし過ぎじゃないですか?」
俺のくしゃみに反応し、端の方で片付けをしていたクレハがやってくる。
「誰かが噂をしてるのかも?」
「そういえば、前も言っていましたね……正確には、どういう意味なのです?」
「確か、故事に書いてあって……噂を一回で褒められて、二回で悪口、三回で風邪だって」
「ふむふむ、そうなのですか。相変わらず、変なことばかり知ってますね」
危ないところだった。
ほんと、前世の知識がちらほら出てきて困るや。
というか、本ばかり読んでいて良かった。
「あはは……あっ——ふえっくし!」
「「………」」
二回目のくしゃみで、俺とクレハが無言で見つめ合う。
「二回目ですね。つまり、誰かが悪口を言っていると……心当たりがあり過ぎですね」
「ぐぬぬ……どうせ、自堕落王子だやい」
「ふふ、これから変えるのでしょう?」
「別に変えるつもりはないよ。ただ、反乱とか起こされても嫌だし。つまり、俺がダラダラしても許される環境作りをするってわけさ」
こんなところで王城みたいな生活をしていたら、それこそ反乱とかされて討たれちゃう!
前世のよくある異世界転生物語で見てたし!
悪役に転生したので、破滅ルート回避なんちゃらみたいな!
「そういうことにしておいてあげましょう。それで、何から始めますか?」
「まずは生活改善が一番だね。暑いから匂いや腐敗臭も気になるし。その後で、食材確保と資源の確保かな。後は街道整備や、それに伴う人件費とか。いざ人が来るときに、あれじゃきついよ。途中で休憩所とか用意して……どうしたの?」
ふと見ると、クレハが驚いた表情を浮かべていた。
「い、いえ、今まで授業もサボっていたのに……すらすらと的確な言葉がでてきたので」
「あぁー……うん、本だけは読んでるから」
「はぁ……まあ、良いですね」
もう、この一点張りで行くしかない! 退路はないので引き返すことはできない!
前世の記憶を使っていかないと、どうにもならないし。
すると、扉をノックする音がする。
「エルク殿下、よろしいでしょうか?」
「おっ、モーリスさんだ。うん、入って良いよー」
「失礼いたします」
「報告かな?」
「ええ、そうなります」
ここ来て三日経ったけど、その間モーリスさんには調査をお願いしていた。
俺に対する住民の反応と、何を優先的にしてほしいかを。
ちなみに俺はダラダラ……出来なくて、領主に関する勉強をしています。
「それで、どうかな?」
「反応は悪くないかと思います。最初の氷魔法で警戒を解き、その後の食材で人心掌握をする。そして、仕上げに象徴であった噴水の復活と魔法の威力、これによって掴みは完璧かと……お見事でございます」
「へっ? そ、そうだよね!」
人心掌握? そんなことは考えてなかったけどね!
まあ、結果オーライならよし!
「エルク様が偉ぶる方ではないという話も広まり、そのおかげですらすらと意見が集まっております」
「ふんふん」
「特に、暑さと匂いについては多く意見が出てきております」
「あぁー、やっぱりか」
食欲と気温は密接に関係していると思う。
いくらお腹が空いてても、匂いや暑さで食べる気が失せたりするよね。
つまり、食べる以前の話ってわけだ。
「以前からも言われていたのですが、これといった対策が出来ず不甲斐ないばかりです。そもそも都市を建築したのが、当時はまだ住んでいたドワーフ族の方々なので……今の我々の技術では管理や修復が難しいのです」
「いやいや、そんなことないよ。ドワーフの建築技術は凄いって聞くし。とりあえず、暑さは俺の氷魔法で一時的にどうにかするね。それで、匂いの原因の元は何かな?」
「排水管の詰まりかと……地下に水やトイレから流れる物を集める施設がございます。それの掃除が行き届かず、そこから匂いが漏れ出ております」
「そもそも、食材は腐るほどないか。それじゃ、そこから行こうか」
俺の言葉に、モーリスさんが目を丸くする。
「エ、エルク殿下自らでございますか?」
「うん、俺がいかないと応急処置出来なさそうだし」
「し、しかし、王族の方が行くような……ましてや、その中で仕事をするなど」
モーリスさんがそこで働いてる人を下に見るわけではないが、これは至極真っ当な意見だ。
基本的に人が嫌がる仕事は身分の低い者がやる。
少なくとも、下水にいく王族など前代未聞だろう。
でも俺は、自己満足かもしれないけど彼らを労いたい。
前世の自分が底辺だった時、一言でも労いがあったら嬉しかったから。
「平気だよ。それに、一度は現場を見ないとさ。そういう人が嫌がる仕事をしている人にはきちんと報いたいし」
「なんと……恐れ入りました。エルク殿下、ありがとうございます」
「いやいや、俺も臭いと嫌だしさ。クレハは残ってて良いからね? きっと、獣人の鼻にはきついでしょ?」
「いえ、私もついていきます。エルク様が覚悟を決めているのに、ここで待っているなどできません」
「そっか……んじゃ、三人でいきますか」
意見がまとまった俺達は、屋敷から出て行くのだった。
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