第3話 テンプレがしたい
いつもの抜け道を使って城を出た俺は、まずは冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドは大陸全土にまたがる独立した組織で、魔物退治から護衛や雑用までこなす何でも屋さんだ。
犯罪者や未成年でない限り、誰でも登録することができる。
ランクはS,A,B,C,D,E,F,Gの八段階となっていたはず。
「そういえば、冒険者ギルドへは何を? 護衛の依頼ですか? それなら、国王陛下が用意していると思いますが……」
「いや、兵士の護衛はいらないよ。俺のために貴重な兵士を使わせるわけにはいかない。我が国は、東にある帝国と小競り合いを繰り返してるし」
東には山に覆われた国、エスカ帝国がある。
荒れた土地で、うちの土地を奪うために度々攻めてくる。
うちにも余裕があるわけではないので、平行線といったところだ。
この大陸は年々暑くなり、何処も作物が育たなくなっているとか。
そういや、前世の世界でも温暖化は問題になっていたっけ。
「なんと……エルク様がそんな気遣いをするなんて」
「はは……ほら、北の魔物達も活発になってるっていうしさ」
「ええ、そうですね。そっちの守りも残しておかないといけませんね」
「そういうこと」
北にある不毛の地からは、魔物達が攻めてくる。
最強の騎士にして、王弟でもあるシグルド叔父上が守っているから安心ではあるけど。
ともかく、うちは東と北から攻められて余裕がない。
結果的に辺境を放置していることにも繋がる。
「話を戻しますが、それでは何をしに?」
「そりゃ、もちろん——冒険者登録だよ!」
「へっ? エ、エルク様がですか?」
俺の答えにクレハが目を丸くする。
それは無理もないことで、俺はとにかく自分で動くのが嫌いだった。
それは今でも変わってはいないけど……やっぱり、前世の記憶を取り戻したからには気になるじゃん!
厳つい冒険者に絡まれたり、可愛い女の子を助けたりとか!
「そうそう、別に護衛に関してはクレハがいればいいし。だから、俺自身の登録ってわけ」
「そ、それは嬉しいですが……私がいらないって話ではないのですね?」
「はい? そんなの当たり前じゃん。俺はクレハがいてくれないと困るよ」
「……ふふ、なら良いんです。それでは、行きましょうか」
クレハが尻尾をゆらゆらさせながら、俺の先を歩き出す。
どうやらご機嫌の様子だけど……一体なぜだろうか?
その後、冒険者ギルドの看板をつけた建物の前に到着する。
見た目は大きい古民家って感じでレトロ感があって素敵だ。
前世の俺は、こういう感じの店で小説を読んでいたっけ。
クレハが扉を開けて中に入るので、その後をついていくと……。
「ここが冒険者ギルドですね」
「おおっ……これが冒険者ギルド」
そこは役所のような場所で奥に受付があり、手前の右側には掲示板が設置されている。
紙が貼ってあるので、あれが依頼書かもしれない。
手前左側にはカウンター席やテーブル席があり、そこでは飲み物を飲みながら会話をしている人達がいる。
「ふふ、よくお忍びで城下町には出ていましたけど、冒険者ギルドは初めてですよね?」
「まあねー、今までは興味もなかったし」
「しかし、何故急に?」
「えっと……ほ、ほら、成人したし! 登録もできないのに来てもつまらないかなって!」
冒険者ギルドは十五歳以降しか登録できないので、言い訳としては間違ってないはず。
流石にテンプレな目にあいたいとか言っても通じないし。
「なるほど、確かに。では……とりあえず、受付に行きますか」
「ほっ……うん、そうしよっか」
そうしてクレハの後をついていくと、あちこちから声が聞こえてくる。
そんな中、三人の男達の近くを通ると……。
「おい、めちゃくちゃ良い女がいるぞ」
「ほんとだ。獣人だけど、めちゃくちゃスタイルいいな。どうする? 声をかけるか?」
「バカいうな……あれはC級冒険者のクレハだ。絶滅したと言われる銀狼族の一人だよ」
「なに!? あの、若手筆頭の冒険者と言われる神速のクレハか!」
「確か刀を使うという……その巧みな剣技と、目にも留まらぬ速さから言われてるとか」
やっぱり、クレハの容姿は目立つ。
銀色の髪はサラサラで綺麗だし、顔立ちも綺麗で容姿端麗なお姉さんって感じだし。
何より、冒険者としても有名らしい。
むむむっ、中二病みたいな二つ名があってかっこいい。
「うるさい連中ですね——黙らせますか?」
「まあまあ、クレハは綺麗だから仕方ないよ」
「……へぁ? な、何を!?」
俺の言葉にクレハが両手をパタパタさせて慌てる。
その姿は普段のクールな姿とは違い、ギャップがあって可愛いらしい。
なんかアラフォーの記憶を取り戻したからか、性的な意味合いではなく可愛いみたいな。
もちろん、 今の俺……エルクの気持ち的にはそれだけじゃない気持ちもあるけど。
この辺りのアンバランスは、少しずつ慣れていくしかないかなぁ。
「いやいや、いつも思ってるよ」
「そんなこと言われたのは初めてです……やっぱり、何処かおかしくなったのでは?」
「ふふふ、成人したエルク君は一味違うぜ」
俺がドヤ顔を見せると、クレハがため息をつく。
「……いえ、いつものエルク様でしたね」
「あれれー?」
「ほら、無駄口を叩いてないで登録しますよ」
そんなやり取りをしつつ、受付のお姉さんの元に行く。
俺は自分で登録したいので、クレハより前に出る。
「こんにちは」
「あら、こんにちは。クレハさん、新人さんですか?」
「い、いえ、この方は……エルク様です」
「……へっ? あの、自堕……失礼しました!」
あちゃー、頭を下げちゃった……やれやれ、クレハと一緒で何処でも有名人らしい。
もちろん、俺の場合は違う意味だけどね!
「いえいえ、平気ですよー」
「ええ、本当のことなので気にしないでいいかと」
「あの? 自分で言うのはいいけど、人に言われると複雑なんだけど?」
「ふふ、こういう方なので」
すると、お姉さんが頭をあげてホッと息を吐く。
「あ、ありがとうございます。それでは……登録をいたします。このカードに血を頂いてもよろしいでしょうか?」
「そっか、確か登録には血がいるんだったね。うん、平気だよ」
俺は目の前に置かれた針で指をさして、免許証サイズの灰色のカードに血を垂らす。
すると、一瞬だけ光り……すぐに収まる。
「ありがとうございます。では、すぐにお作りします。色々とご説明は如何なさいますか?」
「私がするから構いません」
「わかりました。それでは、カードをお作りしますね」
お姉さんが奥に行った後、クレハと話をする。
「何か聞きたいことはありますか?」
「んー、特には。大体のルールは知ってるし。依頼を成功させてポイントを貯めて、試験を受けて合格すれば良いんでしょ?」
「まあ、単純に言えばですが」
「それよりも、不思議な機械だよねー」
「ええ、冒険者カードですか」
確か古代文明のアーティファクトの一種で、血を流すと個体識別をして倒した魔物や魔獣も登録されるとか。
だから偽装はできないし、依頼主や冒険者達も安心して活動ができる。
そして簡単に規約などをクレハに説明されていると、あっという間にカードが出来る。
免許証サイズで、俺の名前とランクが書いてある。
「おおー!」
「ふふ、おめでとうございます」
「うん、ありがと……なんか作ったら満足したかも」
「……はぁ、そんなことだろうと思いましたよ」
別に冒険者活動がしたいわけでもないし。
もちろん、前世ではゲーマーだったからランク上げとかは興味あるけどね。
そんな事を考えていると、カウンター席付近から男が近づいてくる。
どうやら、酔っ払っているみたいだ。
「おい! お前みたいなガキには、冒険者はまだ早いぜ!」
「へっ? ……おおっ」
その男性は見た目は三十代くらいで、顔も厳つくて体格も良い。
……キタコレ! これだよこれ! 冒険者ギルドの醍醐味!
「何をヘラヘラしてやがる! ほぉ、良い女まで連れてるとは」
「……貴様、さっきから聞いてれば」
クレハが俺の前に出ようとするので、俺が手で制して逆に前に出る。
「エルク様……?」
「俺の大事な女の子に何の用だ?」
「……ふぇ?」
後ろからクレハの気の抜けた声がした。
多分、アホな事を言っているのだと思ってそう。
しかし、俺は満足である——これでフラグが成立だ。
冒険者ギルドでいちゃもんをつけられ、可愛い女の子を守るという!
「な、なんだと?」
「さ、下がってください! 貴方は戦えないでしょう!」
「ふっ、それは昨日までの俺さ。まあ、見ててよ」
俺……エルクには武道の才能はない。
だが、水魔法を使える才能はある。
水魔法は六大属性の中では使えない魔法と言われてるが、水が使えるなら氷も使えるはず。
俺は意識を集中させて、魔法をイメージする。
「か、カッコつけてんじゃねえ!」
相手が拳を振りかぶって襲いかかってくる。
殺すわけにはいかないし、出来るだけ穏便に済ませたいね。
そうなると、これが一番かな!
「エルク様!」
「大丈夫——
「なん——うおっ!?」
俺が相手の足元辺りに貼った氷により、男がつるんと滑って転ぶ。
そのままの勢いで……俺の横を抜けて受付の壁に激突した。
すると、辺りがざわざわし出す。
「お、おい……今のってなんだ? あの暴れん坊のギランが倒れたぞ?」
「何かに滑って転んだような……」
「まさか、失われた氷魔法か? 地面の一部が凍ってるぜ……」
……まずい、少し目立ちすぎたかも。
お城に知らされたり、衛兵とか来たら面倒なことになっちゃうなぁ。
たださえ、勝手に出てきちゃたし。
ひとまず、俺は頭を打った男性の元に行く。
「あの、平気です?」
「うっ……」
「よかった、平気そうだ」
気を失っただけっぽい。
とりあえず俺は、受付のお姉さんの方に向く。
「俺は気にしてないのでこの人は無罪でお願いします。というか、何もなかったことに」
「い、いや、その前に、今の魔法は……?」
「あぁー、何か書いた方がいいかな」
俺は受付にあるメモ帳に『先輩から指導を受けただけなので、この男の罪は不問とする』と書く。
別に実害は受けてないし、何かの間違いで死刑にされても後味が悪いし。
「これで良しっと……クレハ! 行くよ!」
「へっ?」
「ほら! ぼけっとしてないで!」
俺は呆けてるクレハの手を引き、急いで冒険者ギルドから出ていくのだった。
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