第4話 出発

ここまでくれば平気かな?


出来るだけ門に近づくように、走ってきたけど……。


「あ、あの、いつまで手を……」


「わぁ! ごめん!」


ずっと握りぱっなしだったので、慌てて手を離す。

多分だけど、クレハが成長してからは手を繋ぐのは初めてかも。

……女の子の手って、柔らかいよね。


「い、いえ……それより、アレは何ですか?」


「アレって……ああ、氷魔法のこと?」


「はい、そうです。あんなもの、いつの間に使えるように……そもそも氷魔法とは古代魔法の一種で、水魔法の方々がいくら研究しても再現できなかった魔法だというのに」


「いや〜あはは……」


しまったァァァァァ!?

お試しでつい使ってしまったけど……氷魔法は、この大陸で使える者はいないんだった。

この世界の魔法には火、水、風、土がある。

 その中で氷魔法は再現できない魔法と言われていた。

そもそも、魔法を使える者自体が少ない。


「いや……そうですか、追放を言い渡されてからの変化……そして氷魔法の秘匿……ここまで完璧に無能を装っていたのですね。私にまで隠して……いや、誰にも言わないで」


「へっ? い、いや、そういうじゃなくて」


「何も言わなくて良いです。ふふ、私の見る目は間違ってなかったということですね」


「だから……」


「良いですって。しかし、これは隠しておいて正解でしたね。ロイド様が正式に王太子になった後で……まさか、そこまで見越しての行動だった? 私としたことが、主人を見誤るとは……お見事です」


 やめてぇぇ!! キラキラした目で見ないでっ!

 使えるのを今まで知らなかっただけなんですって!

 ……どうしてこうなったァァァ!?




その後、クレハが借りた馬に乗って無事に都市の門を抜ける。

ちなみに俺はフードを被り、クレハの後ろでこっそりしていた。

ある程度離れたら、フードを取って一息つく。


「ふぅ、何とかバレずに出てこれた……これも、クレハのおかげだね。冒険者ランクが高いと信用度も高いから、門もあっさり通れたし」


「いえ、お役に立てて何よりです。まあ、出て行く分にはそこまで検査はしないですし。元々、冒険者になったのも単純に強くなるためでしたから。自分の弱さを克服するためと、エルク様に恩を返すために」


「あぁー、そういやそうだったね」


 この世界で唯一、魔法が使えない獣人の立場は厳しい。

 今では少なくなったが、昔は奴隷階級だった。

魔力がないと外せない特殊な首輪をつけられて酷使されていたとか。

 一部では、未だに奴隷にされることもある。

クレハも少女だった時に人族に捕まり、それを俺と叔父上が助けたんだっけ。


「エルク様……改めて、ありがとうございました。獣人である私を救って頂いた上に、このようにお側に置いてくれて」


「も、もう良いってば。俺は叔父上について行っただけだし」


あの時は叔父上と遊んでいて、そこに衛兵から非合法の奴隷商人がいると知らせが来た。

社会科見学だと叔父上に言われ、俺もついていった。

そこで檻に囚われてるクレハを助けて、身寄りがないので俺が引き取ったんだ。


「いいえ。貴方が泥だらけの薄汚れた私を温かいお風呂に入れて、その後も面倒を見てくれたことを忘れていません」


「いやー、あの時は真っ黒だったね。まあ、お陰で貴重な銀狼族とはバレなかったんだろうけど」


「はい、髪まで真っ黒でしたから。それに、銀狼族にしては弱すぎましたし」


強さ至上主義である銀狼族は、弱き者を群れから追い出すとか。

良いとか悪いとかではなく、そういう習性らしい。

そしてクレハは、一人で森を彷徨ってたところを捕まってしまった。

だから行き場のないクレハは、自堕落王子と呼ばれる俺に仕えてくれた。


「あのさ、もう十分返してもらったよ? もちろん、有り難いけど……」


「いいんです。貴方の側にいることが、私のしたいことですから」


「そっか……じゃあ、改めてよろしくね」


「はい、こちらこそ」


前世の記憶が蘇ったからか、今まで以上に奴隷というモノに忌避感がある。

だから解放させてもいいかと思ったけど……クレハが良いなら、それを押し付けるのも違うよね。


「いやー、それにしても冒険者ギルドで凄い人気だったね?」


「は、恥ずかしいのでやめてください」


「引き取った時は、あんなに弱々しくてガリガリだったのになー」


「エルク様が、きちんと食事をくれましたから。ほら、この辺りからは魔物や魔獣にも気をつけないと」


「おっと、そうだね。それじゃ、辺境の地に行くとしますか」


 こうして俺とクレハは、二人で辺境の地へと向かう。

 そして、街道を走り続けること数時間……クレハの頭の耳が動く。

もう一つの耳であるケモ耳は、音にとても敏感だ。


「む? ……きましたね」


「ギャキャ!」


「グギャ!」


街道沿いの森から、身長百五十センチくらいの生き物が出てくる。

 緑色の皮膚に、落ち窪んだ顔……あれはゴブリンだね。

最弱の魔物と言われているが、その繁殖力は凄まじい。

クレハが馬から降りて応戦しようとするので……止める。


「俺がやるよ。あれくらいなら、お試しになるし」


「へっ? い、いや……そういえば、魔法を使えるんでしたね」


「そういうこと。まあ、何かあったら助けて」


「はい、わかりました」


俺は迫り来るゴブリン二匹に手を向け集中する。

魔法はイメージが大切で、それをできない者は腕が良くないとされる。

しかし、前世の記憶を取り戻した俺のイメージは完璧だ!


「グキャ!」


「エルク様! きますよ!」


「わかってる——アイスバレット氷の弾丸


「「グギャ!?」」


 某霊界探偵の必殺技をイメージして放った氷の弾丸は……二体のゴブリンを貫いた。

 すると、身体が消え去り……小さな石になる。

 これが、

 正確には生き物ではなく、人に害を為す瘴気から生まれるとか。

 何でも大昔に突然現れ、人々や魔獣に襲いかかったとか。

現れた理由はわかっていないが、とにかく人類の敵とされている。


「ゴブリンとはいえ、こうもあっさりと……改めて驚きました。水魔法と違い、氷魔法は威力もありそうです」


「別に水魔法でも威力のある魔法はあるんだけど」


この世界の水魔法は、暑さゆえに生活用の面が強い。

なので、そちらを優先してきたのか、攻撃面が発展してない。

あとは科学が発展してないので、単純な水魔法しかないのも要因かな。

今の俺なら、鉄を切る水とか出せそうだ。

でも確か、研磨材がいるんだっけ?


「そうなのですか? そんな話は、聞いたことがありませんが……」


「まあまあ、そのうち検証するからさ。とりあえず、魔石を回収して進もう」


「やはり、隠しておいて正解ですね。こんな力があることが知れ渡っていたら……いやはや、恐れ入りました」


「はい?」


 また、何か勘違いされてる?


「いえ、何も言わないでください。やはり、私の恩人は立派な人間ということがわかりました」


「いや、別に……」


「ふふ、目が泳いでますよ? では、回収してきます」


 どうしよう……今まで怠けすぎたせいで、色々勘違いされてる。

隠してたわけじゃなくて、思い出しただけなんだけどなー。

クレハが馬から降りて魔石を拾いに行く間に、先ほどの出来事を思い出す。


「それにしても……」


 魔物かぁ……殺したけど、全然忌避感はないかな。

 もちろん見た目の問題もあるけど……おそらく、エルクとしての人格が強いのかも。

 前世の記憶は、あくまでも記憶があるだけみたいな感じ?

そもそも、記憶が上乗せされただけだから、価値観的にはエルクの方が強い。

 まあ、この世界で生きていく上では楽かも。

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